柔らかい食感で、風味豊かな「鳥脚のから揚げ」(左)と、独特なニオイがする「蚕のサナギの串焼き」(右)

西川口(埼玉県)は、往年の風俗ファンならピンとくる地名だろう。かつて駅の西口付近には裏風俗店が200店舗近く軒を並べ、1発1万円程度で本番が可能な「NK(西川口)流」で全国的に知られた。

だが、違法風俗店の取り締まり(浄化作戦)が2004年頃から始まり、一時は潰れた風俗店だらけでゴーストタウン化していた。ところが現在、西川口はディープな中国人街に変貌を遂げているという。

筆者は主に中国の国内事情を取材するライターだ。なので、西川口の“中国化”がすごく気になる! ということで実際に駅前を歩いてみた。

「2年ほど前から、中国人経営の料理店が特に増えました。客に日本人は少なく、近所に住む中国人が多いですよ」

そう話すのは西川口1丁目のレストランの店員だ。重慶料理・麻辣綻燙(マーラータン、激辛煮込み料理)を提供する店で、客がバイキング方式で食材を選ぶ仕組み。説明書きは中国語のみで、店内では数十人の中国人が舌鼓を打っていた。私が中国語で注文すると、気軽に雑談に応じてくれて、結構フレンドリーだ。料理は大陸仕込みの暴力的な辛さで、実にウマい。

近辺には雲南省の過橋米線(グオチャオミイシェン、ライスヌードルの一種)や湖北省の鴨脖(ヤーボオ、鴨料理)、旧満州や福建省系の料理など中国各地の味がそろう。犬肉、食用ガエル、蚕のサナギなど中国人が好む食材を出す店も多かった。駅西口のすぐ左手には中国系のスイーツ飲料店もある。内装は中国国内の若者向けの店と変わらず、「Wi-Fi・電源あり」と中国語の説明書き。さらに中国語オンリーのカラオケ屋やネットカフェ、雑貨店もあり、現代の中国人の生活に必要なものはすべてそろっている。

さらに歩き回ると「イメクラ めちゃイケ学園」の看板跡がある元風俗ビルに、中国系の美容室や料理店が入居していた。

「日本人は“本サロ”の印象が強い西川口に店を出したがらないし、元風俗店の物件もいやがる。でも、中国人は別に気にしないからね」

在住20年目の在日中国人はそう話す。日本に定住して職や家族を得た中国人は、家賃が高い都内より埼玉や千葉に住む人も多いらしい。

本サロが壊滅した西川口に、大量の中華料理店が出店

西川口に隣接する蕨(わらび)市は、中国系住民の入居数が過半数を占める芝園団地があるなど、市民の約2%が中国人だ。川口市の中国人率も約1.5%で、蕨市に次ぐ県内2位である。ゆえに彼らの胃袋を満たす需要が生まれ、本サロが壊滅した西川口に、大量の中華料理店が出店し始めたのだ。

都内の中国人街・池袋西口や新大久保は、日本の街並みに中国系店舗が割り込んでいる感じだが、夜の西川口は中国の田舎が丸ごと瞬間移動したような雰囲気すら漂う。中国語の店名が原色極彩色のネオンでギラギラと輝く光景は、雲南省などの地方に多い泥くさいセンスそのままだ。

図らずも中国の田舎町が再現された、魅惑の「新NK流」。食欲と好奇心を満たしに、一度訪れてみてほしい。

(取材・文・撮影/安田峰俊)