ハイチと引き分け、会見で自虐的なコメントもあったハリルホジッチ監督

「こんな試合をしたことを謝罪したい。これは私の責任。批判をすべて受け入れる」

10月10日に行なわれたハイチとの親善試合を3-3で終えたハリルホジッチ監督は、試合後の会見でこれまでにないような潔い台詞を並べてみせた。

その一方で、「長年、監督をしていてこんなに内容の悪い試合は見たことがない」と繰り返し強調し、挙げ句、「良くない状態の選手は選べないということ。いろいろな面でレベルの低いものを見せてしまった」とコメントしていたところをみると、その怒りの矛先は自分自身ではなく選手たちに向けられていたことは明白だった。

だが、この試合で一番混乱していたのは指揮官ではなかったか。今回の最大の目的は「選手のテスト」と言っていたにも関わらず、後半に追いつかれた後のベンチワークはパニックそのもの。選手のテストはどこへやら、あっという間に結果重視の選手起用へとシフトチェンジし、自らの采配で当初の目的を一気に吹き飛ばしてしまった。

そもそも今回の2試合のマッチメイクの背景には、12月1日に行なわれるワールドカップ本大会の組み合わせ抽選もあったはず。11月に発表されるFIFAランキングで現在40位の日本を30位台に上昇させ、ポッド3(第3シード)の権利を確実にしたいがための対戦相手選びという目論みもあったからだ。

だとしたら、ニュージーランド戦(113位)とハイチ戦(48位)の選手起用自体が失策であり、自ら首を絞めたと言われても仕方がない。

いずれにしても、ハイチ戦のドローで日本のFIFAランキングアップは消滅した。しかもこの2試合を通じて、指揮官が目的としていた選手のテストも尻切れトンボ。やらないほうがよかった試合など普通はないと思うが、この2試合ばかりはそう言われてもぐうの音も出ないのではないだろうか。

哀れなのは、ハイチ戦で指揮官からダメ出しを受けた選手たちだ。代表デビューした車屋紳太郎にしても、もしニュージーランド戦での途中出場なら違ったプレーを見せられたのでは? 逆に2試合を通して出場機会に恵まれず悔しい思いをしているはずの植田直通と中村航輔は「ラッキーだった」と気持ちを切り替えるべきかもしれない。

出場選手の採点と寸評

以下、出場選手の採点と寸評。基本布陣は4-3-3。(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】東口順昭=5.0点確かに3失点すべてを止めるのは難しかったが、1点ないし2点は防いでほしかった。特に1点目は飛び込むタイミングが遅れたように見えた。不幸ではあるが、指揮官に悪い印象を与えたことは第2GKとして大きな痛手だ。

【右センターバック(CB)】昌子源=5.0点周りに慣れない選手が並び、吉田麻也と組む時の安定感が影を潜めた。深追いして自らのポジションを空けてしまう場面が目に付いたのは、張り切りすぎが原因なのか。試合終盤の慌てぶりもマイナス材料で、吉田不在時の不安が膨らむことになった。

【左CB】槙野智章=5.5点ニュージーランド戦に続いて無難にプレーはできていた。昌子がポジションを空けた時のカバーリングやマークの受け渡しが曖昧(あいまい)なのは問題だが、唯一の2試合連続フル出場という事実は指揮官の期待の表れか。11月の招集を当確としたと見ていい?

【右サイドバック(SB)】酒井高徳=5.5点同点ゴールのアシストが0.5点分。内へ入りこむオーバーラップは攻撃のバリエーションを増やしていたが、相変わらず守備面での問題が散見されるのがマイナスポイント。現状では酒井宏樹を脅かすには至っていない。

【左SB】長友佑都=6.0点前半で負傷交代。先制ゴールのアシストが0.5点分。ただし、守備では1対1の対応などニュージーランド戦と似た危うさを見せたのは改善点。限りなく5.5点に近い6.0点。

【アンカー】遠藤航=5.0点プレッシャーのない場所で受けて捌(さば)くプレーに終始。一見、無難に見えるが、守備時のポジショニングに誤差が生じていくつかのピンチを招いた。慣れていないのはわかるが、球際の弱さも目立ち、このポジションのバックアッパーとしては厳しいか。

【右MF】小林祐希(56分交代)=5.0点テンポよくつなげるパス、その後のポジション取りも悪くないが、ラストパスで周囲とのイメージが合わず。また1失点目の緩慢な戻りは大きなマイナス材料。自分の特長を指揮官が志向するサッカーにアジャストできるか。そのイメージが湧かないのも事実。

【左MF】倉田秋(59分交代)=6.0点先制点が0.5点分。2試合連続得点という結果を残し、次の招集に望みを繋いだ。ただし先制点の場面は相手の緩慢な守備によりフリーで打てたが、通常レベルではあり得ない場面だった点も考慮する必要がある。守備面を考えると、まだまだスタメンは不安。

課題は山積、監督の“迷”采配の犠牲になった選手

【右ウイング】浅野拓磨(ハーフタイム交代)=5.0点前半で負傷交代。ゴール前の慌てぶり、チャンス時のプレー選択などまだまだ課題は山積。本田圭佑、久保裕也、浅野は現在横一線。誰かが抜け出さないと、全く別の選手にポジションを奪われかねない。実際、普段は左の原口がこの試合では右で起用されている。

【左ウイング】乾貴士(80分途中交代)=5.5点途中出場に比べるとインパクトが薄れてしまうのは、スタメン時は守備も強く要求されるからなのか、それとも相手が疲れていないからなのか。いずれにしても、現時点では指揮官はジョーカー起用が有効と見ているはず。

【1トップ】杉本健勇(64分交代)=5.5点1ゴールが0.5点分。念願のスタメン出場で得点できたのは好材料。その一方で、相手がフィットし始めた後のプレーを見ると、前線での動き方やボールのもらい方に課題が山積。シュート精度も含めて、代表定着のためにやるべきことは多い。

【DF】車屋紳太郎(ハーフタイム途中出場)=5.0点同点ゴールの起点となったクロスが唯一の好材料。本来は4.5点だが、難しい状況での代表デビュー戦だったので、起用した指揮官の責任も考慮して0.5点プラス。この経験を糧(かて)として、12月の東アジア選手権を目標に所属クラブで切磋琢磨してほしい。

【FW】原口元気(ハーフタイム途中出場)=5.0点慣れない右でのプレーに四苦八苦し、途中から左にポジション移動。終盤の強引なドリブル突破が唯一の見せ場だったが、肝心のシュートは大きく枠を外れた。所属クラブでの不遇が焦りにつながっているのか、最終予選時のような元気もない。心配だ。

【MF】井手口陽介(56分途中出場)=5.0点自らのミスからピンチを招くなど、ニュージーランド戦に続いて低調なプレー。これまでは“若さ”も含めての高評価だったが、本大会に向けてはハードルを上げて評価する必要がありそう。特に1対1を含めた守備面の雑さは大きな改善ポイント。

【MF】香川真司(59分途中出場)=5.5点決勝点が0.5点分。同点に追いつかれた後、救世主として登場するも期待に応えられず。周囲の選手が香川を頼ってボールを集めすぎ、自身も混乱気味だった。香川をどう活かすのか、それともスタメンから外すのか。決断の時は刻一刻と迫る。

【FW】大迫勇也(64分途中出場)=5.0点結果を求めて指揮官が投入するも、香川投入後に前線が混雑する中で特長を活かせず。一度ポジションを離れてボールを受ける工夫は見せたが、シュートさえも打てずに終わった。少なくとも、リスクをかけて攻める時のスーパーサブには適合しそうもない。

【MF】武藤嘉紀(80分途中出場)=5.0点前線が混雑している状況ではあまり生きないタイプゆえ、指揮官が起用の順番を誤った印象は拭えない。おそらく逆転されていなければ出場機会はなかったのだろうが、彼もまた監督の“迷”采配の犠牲になったといえる。11月の2試合で再テストか。

(取材・文/中山 淳 撮影/山添敏央)