希望の党の華々しい誕生、民進党との合流をめぐる大混乱、そこから突如生まれた立憲民進党...。そして大山鳴動した結果、残ったのは元通りの自公政権とバラバラになった野党。一体、今回の衆院選はなんだったのか?
その答えを読み解くヒントになるのが、各メディアで注目度急上昇中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソン氏の新刊『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)だ。
「日本では政治家もメディアも国民もガチンコの議論をしていない」と主張するモーリー氏が、今回の衆院選を総括する。
* * *
―衆院選が終わった後、各メディアがそれぞれの視点から「総括」をしています。これをどう見ていますか?
モーリー もちろん総括は必要でしょう。ただ僕としては、ある意味で政治家以上に真剣に総括すべきは、まるで他人事のように衆院選を振り返っているメディア自身なのではないかと感じています。
衆議院が解散した9月末、まずメディアをジャックしたのは希望の党、そして小池百合子代表でした。小池さんは「リセットします」と結党を発表した直後、まるで絨毯爆撃のようにTV各局に生出演しましたよね。僕もあの日、ある報道番組の現場にいましたが、なぜこの人をそこまで"アイドル扱い"するのか不思議で仕方ありませんでした。
他局で言ったのと同じようなことを、向こうから指定された約5分間フリーハンドで言わせて、ハイおしまい...。これではただのバナー広告です。もちろん、マスメディアをハッキングする小池さんの手腕や資質は特筆すべきものですが、メディアが自らそこに迎合していいのか、と。
―新刊の中でも、小池氏が昨年の都知事選以来、TVというメディアの習性をうまく使うことで「小池劇場」をつくり上げてきた手法を解説していますね。ただ、今回の衆院選では「排除発言」などもあり、その風も長くは続きませんでした。
モーリー 一瞬の"お祭り"が終わると、今度は各メディアがそれぞれの立ち位置に戻り、希望の党を"見たいように見る"ことに終始しました。ある保守系メディアは、左派勢力に対する揶揄(やゆ)も込めて「第2民進党」と言い、一方である左派系メディアは「自民党の補完勢力」「大政翼賛会」などと言い立てる。
それぞれのメディアに主義主張があるのは当然ですし、それに沿って多少の"味付け"をするのは仕方ないことかもしれませんが、いくらなんでもここまで客観性を失った報道はもはやジャーナリズムの範疇にはありません。
―そして、選挙戦に入る頃には枝野幸男代表率いる立憲民主党に世間の注目が集中するようになります。
モーリー 立憲民主党のドラマチックな結党以来、リベラル系メディアの熱烈な応援ぶりも異様なものでした。枝野さんを持ち上げるだけ持ち上げ、「これは権力的な民主主義と、草の根からの民主主義の戦いだ」との言葉を無批判に垂れ流す。しかし、"草の根からの民主主義"って、一体なんですか? わかりますか?
―あらためてちゃんと考えると、確かによくわかりません。
モーリー また僕が見る限り、立憲民主党を熱烈に支持する層と、かつて反原発運動を熱心に支持した層はかなりの部分で重なっているようです。ただ、実は2012年に関西電力・大飯原発の再稼働を決めた当時の民主党政権で経産大臣を務めていたのが、他ならぬ枝野さんですよ。その判断の是非はともかく、応援する人たちもメディアも、そんなおいしいツッコミどころを都合よく無視していいんでしょうか。安倍政権に対しては、それこそ重箱の隅をつつくようなことまで大騒ぎするというのに...。
反安倍・反自民ならなんでも乗ってしまえ――そうして生まれたのが小池都知事
―まさに、本の中で指摘されている通り、「日本型リベラルには内部批判が足りない」と。
モーリー リベラル勢力を中心とする、日本のメディアや政治議論における「反権力」という立ち位置の甘さでしょうか。反安倍・反自民ならなんでも乗ってしまえ――そうして生まれたのが小池都知事であり、都民ファーストの会であり、希望の党でした。
特に、TVは本当に影響力が強い。これは間違いありません。本当は簡単に解決できるはずもない複雑な問題を前にしても、安倍政権や自民党に対する"感じ悪いよね"というふんわりしたバイアスを元に「これはエスタブリッシュメントの腐敗である。ちゃんと草の根の声を拾い上げていったらすぐに変わるんだ」と"煽動ボタン"を押せば、3回に1回くらいは煽動できてしまう。これはある意味、トランプが米大統領選に勝った時の流れと似ています。
もちろん、枝野さんが小池さんと同じだとか、ましてやトランプと同じだなどと言うつもりは全くありません。しかし、選挙中のあまりに無批判な迎合ぶりを見るにつけ、結局、多くのメディアは現実など見ていない、あるいは見る気がないのだと思わざるを得ないのです。
枝野さん自身は過去に改憲の必要性を述べたこともあるし、原発の再稼働に踏み切ったこともある。是々非々の現実的な政治家なのでしょう。しかし、今回はある意味で「ポピュリストに祭り上げられてしまった」ようなところがある。共産党とも選挙協力をして現在の議席を得た以上、これから現実路線に進もうとした時、今回の選挙で"純粋な気持ち"で枝野さんを応援した人たちの中から「裏切りだ」という声が上がってしまう可能性もありますよね。
―ともあれ、選挙の結果は今回も「自民党政権が消極的に支持された」ということになりました。
モーリー しかし、だからといって自民党が本当の意味で現実を見据えているかといえば、僕にはそうは思えません。選挙では実利に徹してうまく勝利したかもしれませんが、これまでやってきたこと、そして選挙で掲げた政策の多くは決して本質的ではなく、少子高齢化と国際的な影響力低下で朽ち果てゆく日本を"延命治療"しているだけです。
◆後編⇒「平和憲法が日本を守っている」という幻想ーーもっとマッチョで"優しくない小泉進次郎"は出現するか?
■『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社 1400円+税) なぜ日本社会はポピュリズムに揺さぶられてしまうのか? TVも新聞も提供できていない「ガチンコの議論」とは? 右からでも左からでもなく、ニュースを「立体視」する知性を提供するモーリー氏の新刊が好評発売中!