ヤクルト就任1年目でリーグ優勝を成し遂げた真中監督

「目を覚ませ!」。東京ヤクルトスワローズの真中 満監督は、この言葉をチームスローガンに「盛り返すぞ。今年は優勝するぞ」とシーズンをスタートさせた。

「ベテランを含めたケガ人も戻り、昨年、若い選手たちはいい経験を積んでいる。フロントも破格のお金を使って新外国人選手を補強してくれました。3年契約の集大成というか、場合によっては責任を取るつもりで挑みました」

しかし、監督の覚悟はシーズン終了を待たずして、つらく悲しいものとなってしまった。開幕すると主力選手が次々とケガで戦線離脱し、チームは2度の10連敗以上を記録してしまう。神宮球場ではイニング交代のたびに「目を覚ませ!」の言葉がむなしく響き渡っていた。

そして8月22日、真中監督は今季限りの退任を発表。この3年間、どんな厳しい状況でも前を向いてコメントしていた監督が会見ではうなだれ、「来年、勝つ自信がありません」と本音を吐露(とろ)した。だが、その言葉に少し疑問を感じたのも事実だった。

「あの会見は、僕の言葉足らずでした。僕の現状の能力と指導力では、チームを立て直す自信がないということです。正直、僕としてはやるべきことはやった。もう手詰まりの状態でした。そういう自信のない態度で指揮を執ると、選手にはそれが伝わってしまいますし、ファンの方にも失礼ですよね。決して『このチームで勝つ自信がない』ということではないんです」

今シーズンのチームにおける故障者の多さを知れば、真中監督への同情を禁じえない。中心選手であった、川端慎吾、畠山和洋、雄平の3人は長期離脱を余儀なくされ、また、バレンティン、大引啓次、中村悠平…投手では小川泰弘、秋吉亮も一度は戦線を離脱している。

「シーズン中に故障者が出るのは当たり前ですし、そこをカバーできる戦力を整えられなかった。これは僕の責任です。トレーナーに問題があるとか、練習量が少ないからケガをするとか、そういうのは一切感じません。どの球団もやってることは大差ないですよ。選手個人の問題だと思います。プロとして1年間試合に出るという責任感。

もちろんプレー中にどうしても防げないケースもあります。責任感があればケガをしないとも言い切れません。ただ、僕たちはプロですからね。オフシーズンも含め、自分でもしっかりケアしていかないと…。トレーナーが指導・治療しようと意味がない。これが僕の見解です」

今シーズンの、チームとしての苦しさの象徴。それはエース・小川泰弘の抑え起用だった。

「あそこが、僕としての最後の勝負手でした。チームは低迷を続け、中継ぎ陣が崩れていたこともあり、勝てるゲームを本当に拾いたかった。ならば小川に抑えを託すしかない。彼が抑えに回るのはチームとしても大きな動きです。野手たちも含め、『監督もここで手を打ってきたな。オレたちもやらなければ』となってくれればいいなという思いもありました」

結果的には成果を上げることができず、批判も強まった。

「選手やファンには失礼になってしまいますが、自分の引き出しを使い切って、今いるメンバーで精いっぱい戦っての結果なので、すっきりした気持ちなんです。小川には大きな負担をかけてしまいましたが、あの経験がこれからの野球人生に生きてくれればと願っています」

僕は神宮の雰囲気が大好きでした

3年間をふり返りながら笑顔を見せる場面も。来年については“白紙”とのことだが、いつかまた、ユニフォームを着てグラウンドに戻ってきてほしい

―退任会見では「思い出はちょっとの時間、苦しい時間のほうが多かった」と話されていましたが。

「監督業は予想していたより大変な仕事でした。思い出に残っているのは、優勝したシーズンの終盤の戦いです。あと、試合に勝った夜に飲む酒は格別でした。勝ったら、自分がヒーローインタビューを受けた気分になるんですよ。もちろん活躍したのは選手なんですけど、『オレがサヨナラホームラン打った』みたいな気分にさせてくれる(笑)。

逆に負けたら、自分のエラーで試合を落とした気分になる。今年も多くの借金がありましたが、それでも勝てば本当にうれしいんです。監督業がやめられないのは、そこにも理由があるんでしょうね」

真中監督は退任することで、スワローズのユニフォームともお別れすることになる。

「来年のことはまだ何も決まっていませんが、楽しみなんですよ。『オレはこれから何をやるんだろうか。どうやって生活していくんだろうか…』と。家族もそういう発想です。『お父さん、何をするんだろうね』『でも、少しくらいは給料稼いでちょうだいよ』って(笑)。いちファンとして、スタンドから試合を楽しみたい思いもありますが、本当に野球から離れてしまうと寂しさが出てくるでしょうね。少しでも野球に携わることができればいいな、とは考えています」

―ヤクルトの監督として過ごした3年間をふり返って、今はどんな心境ですか。

「本当に感謝の気持ちしかありません。退任を発表して、しかも借金が増え続けているのに、たくさんのお客さんが応援してくれました。チームが強かろうが弱かろうが、楽しんで応援してくれる。僕は神宮のそういう雰囲気が大好きでした。これからも、選手たちがファンの期待に応えられるように、勝って試合に華を添えてほしいですね。勝って酒を飲んだほうが楽しいに決まっていますから(笑)」

真中 満(まなか・みつる)1971年生まれ、栃木県出身。92年にドラフト3位でヤクルトに入団し、俊足好打の外野手として活躍。2008年に現役を退いた後は指導者の道へ。15年シーズンから1軍チームの監督を務め、就任1年目でリーグ優勝を成し遂げた。

(文/島村誠也 撮影/甲斐啓二郎)