ニュージーランド戦、ハイチ戦のメンバー発表会見では、ホワイトボードに自作資料を張って、約20分間にわたって戦術講義をぶったハリル監督

このところのハリルホジッチ監督の記者会見には、冷ややかな空気が流れている。質問に答えるのもそこそこに、「私のサッカーが批判されるのはおかしい」と持論を展開する指揮官の姿はおなじみの光景だ。

ピッチの外では一体、何が起きているのか!? 両者のバトルの真相に迫る!

■監督はスポーツ紙の記事を逐一チェック

ニュージーランド(NZ)、ハイチとの2連戦で、ふがいない戦いに終始してしまった日本代表。このままでは来年のロシアW杯が思いやられるが、同時に心配なことがもうひとつある。予選突破を決めて以降、もともと良好とはいえなかったハリルホジッチ監督とスポーツ紙などのメディアとの関係がさらに悪化してしまっているのだ。

まずホームでW杯出場を決めた8月31日のオーストラリア戦後、ハリルホジッチ監督は記者陣の前に姿を現したものの、「私はもしかしたら(日本代表に)残るかもしれないし、残らないかもしれない」などと意味深な発言をわずかにしたのみで、質疑応答を拒否して会見場を退出。

その翌日、あらためて記者会見を行なったが、「昨日の発言は、私を批判し、プレッシャーをかけていた人々に対しての言葉だ」と、オーストラリア戦前にハリル解任論を唱えていた一部メディアへあからさまな一撃を加えたのである。

続いて9月28日、NZ、ハイチとの親善試合に臨む代表メンバー発表会見の席では、「日本は指導者もメディアもすぐ『ポゼッション』と口にする(重視する)が、相手よりボールを持ったからといって勝てるわけではない」と、今度はメディア相手にサッカー講義をぶった。

対するメディアの側も負けていない。単調な攻撃パターンに、少なからぬ媒体が再三にわたって異を唱え、ホームでのオーストラリア戦前には一部スポーツ紙が「引き分け以下で解任」と報じ、さらに辛勝したNZ戦(10月6日)翌日には、1面で「ハリル日本、赤点」の大見出しを掲げた。

日本代表監督とメディアが火花を散らすのはよく見られる光景だが、今ほどの冷戦状態は過去に例がなかった。なぜ双方がここまで対立してしまうのか。まずはハリルホジッチの側から考察してみよう。ベテランのサッカーライター、後藤健生(たけお)氏が語る。

「もともとハリルホジッチのように、旧ユーゴスラビア出身の監督というのは、多弁で自己主張が強い人が多いんですよ。日本で指導した人に限っても、オシム(元日本代表監督)しかり、ペトロヴィッチ(前浦和監督)しかり、ポポヴィッチ(元FC東京監督)しかり……」

確かに。

「でも、ハリルホジッチほどメディアに敵対的な姿勢を示す人はちょっと珍しい。あくまで仮説ですが、その根本には彼のバックグラウンドが関係しているように思います。ご存じのように、彼はもともとイスラム系ボスニア人です。旧ユーゴの中でボスニア人というのは、セルビア人やクロアチア人から差別を受ける立場。だから彼は現役時代、実力は折り紙つきながら旧ユーゴ代表チームでの出場機会に恵まれませんでした。

そして引退後、彼はフランスへ移住して指導者としてのキャリアを積みますが、フランスにおける旧ユーゴ人というのも、やはり人々から一段下に見られる存在。彼はずっとそんな境遇のなかで、反骨心を抱え肩ひじ張って生きてきたので、自然と攻撃的なキャラクターになってしまったのではないでしょうか。だからメディアからの批判に対しても、過剰に反応してしまう」

選手から漏れてくるハリル監督への不満

なるほど。では、メディアの側はなぜ、ハリルホジッチを叩くのか。スポーツ紙日本代表番記者のA氏が言う。

「第一の理由はやはり、彼のサッカースタイルへの疑問です。日本が培(つちか)ってきたパスワークを捨て去り、フィジカル勝負で縦に急ぐサッカーを選手に強要している。なんとかW杯出場という最低限の結果は出しましたが、その内容はお寒い限りなのですから、批判を浴びるのは当然ですよ」

でも、ただの戦術論争の域を超えているのでは?

「彼はとにかく、自己弁護や言い訳が多すぎる。しかも、それを指摘すると、逆上して反論したり、『あなた方は監督の私よりサッカーを見る目を持っているらしい』と皮肉を言ったりする。結局、日本のメディアを見下しているんでしょう。

事実、フランスの記者相手に『日本のメディアは、まるでサッカーをわかってない』とこき下ろしていますからね。そのくせ自分がどう報じられているのかを非常に気にしていて、通訳に逐一、日本語の記事を訳させ、勝手にメディアに対する恨みを募らせている。そういう潔くないところがなおさら反感を招き、アンチの記事が多くなるんです」(A氏)

■選手から漏れてくるハリル監督への不満

記者も人の子だということか。だからこそこんなことも、“ハリル憎し”の理由になる。

「代表選手とメシを食いに行ったりすると、彼らから漏れてくる監督への不満がスゴいんですよ。『ろくな戦術も授けないくせに、結果が出たときだけ自分の手柄にする』とか、出るわ、出るわ。仲がいいからこそ、こちらに正直な気持ちを話してくれているわけですから、『じゃあ、俺がその選手の鬱憤(うっぷん)を晴らしてやろう』と、ハリルホジッチを叩いてやりたくもなりますよ」(A氏)

とまあ、双方に譲れない事情があるようだ。でも、このままの状態が続いていいの?

「もちろん、代表監督とメディアがなれ合う必要はありません。どの国でも、両者はぶつかり合う関係ですから。ただ、ハリルホジッチは、もう少し大人になってもいいんじゃないでしょうか。確かに彼が感じているような、レベルの低い報じ方をする日本のメディアも一部にはあるでしょう。でも、そんな相手も仕事としてやっていることなんですから、彼らに対してムキになったり、妙な報復をしたりせず、どっしり構えて『健全なケンカ』を繰り広げればいいんです」(後藤氏)

代表チームの通訳さん、この記事も翻訳して、監督に読ませてください!

(写真/時事通信社)