2年前の夏の甲子園では、1年生にして4番を務めた村上。長打だけでなく、ヒットも量産する巧打を兼ね備えた“打てる捕手”として活躍が期待される

2017年のドラフトの主役は紛れもなく清宮幸太郎(早稲田実業)だった。高卒史上最多タイとなる7球団が競合し、交渉権を引き当てた日本ハム・木田優夫GM補佐の左手は“ゴッドハンド”とも称されている。

再び会場にどよめきが起こったのは、その抽選の後に行なわれた“外れ1位”の指名でのこと。清宮の交渉権獲得に失敗した6球団のうち、楽天、巨人、ヤクルトの3球団から、九州学院高校の捕手・村上宗隆(むねたか)の名が挙がったときだった(抽選の結果、ヤクルトが交渉権を獲得)。

高卒の捕手では、今夏の甲子園で6本の本塁打を放ち、広島が交渉権を獲得した中村奨成(広陵高)に注目が集まっていた。その陰に隠れた形となった村上だが、高校通算52本塁打を誇る、高校野球ファンなら誰もが知る“打てる捕手”なのだ。

まだ一塁を守っていた1年時の5月に、早稲田実業との練習試合で清宮とアーチ合戦を演じたことで注目を集め、同年夏には熊本県代表として甲子園に出場。村上は不発に終わり、チームも初戦で敗退したが、“肥後のベーブ・ルース”の異名は全国に広まった。捕手に転向した後は、投手とのマッチングに苦しんで打撃の調子を落とした時期もある。それでも村上は「捕手としてやるべきことを第一に考えていた」と、毎日のように居残り練習を続けた。

2度目の甲子園出場を目指していた村上だが、2年夏、3年夏の県予選決勝で秀岳館高に敗れるなど、その願いは叶(かな)わなかった。しかし、同県の名門校から村上が得たものは大きい。16年の春から3季連続で甲子園4強入りを果たした打線を相手にインサイドワークを磨き、1学年上の九鬼隆平(くき・りゅうへい、現ソフトバンク)という、秀岳館きっての名捕手から多くのものを吸収した。

二塁送球のタイムをプロ顔負けの1秒84まで縮めるなど、捕手としての総合力を上げた村上。元々の打撃の良さと併せて評価は高まったが、各球団のスカウトは彼の走力にも注目していた。

187cm、95kgという巨体ながら、村上は50mを6秒1で走る。九州学院の坂井宏安監督が「出塁すると、とにかく走りたがる(盗塁したがる)コなんです」と証言するように、本人もかなりの自信を持っているようだ。さらに、村上が2月2日の早生まれということから、「実質、高校2年生なのにあれだけのパフォーマンスを見せている。将来性という意味で見逃せない」と評価するスカウトもいた。

今秋になって外野の守備の練習を始めたこともあり、得意の打撃を生かせるようにと、外野手転向を勧める声も少なくはなかった。ヤクルトの小川淳司監督も「一番の長所はバッティングだと思っている」と述べたが、村上はあくまで「打って守れる捕手を極めたい」と、捕手一本で勝負することを望んでいる。

広陵の中村と共に入団が決まれば、同じセ・リーグで競い合うことになるが、「特に意識はしません」とキッパリ。ドラフト指名会見での表情からは、「チーム内の正捕手争いを勝ち抜かなければ、清宮や中村と同じ土俵では戦えない」という覚悟が見て取れた。走・攻・守を兼ね備えた、“肥後のベーブ・ルース”の神宮デビューが待ちきれない。

(取材・文/加来慶祐 写真/アフロ)