宮澤ミシェルが日本代表の今後の強化について考察

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第21回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、10日にブラジル代表と親善試合を行ない、惨敗してしまった日本代表について。14日のベルギー戦後、W杯までにチームを強化する機会が限られる中、今後、どのようなプランが考えられるのか。

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またしてもハリルホジッチ監督には驚かされたね。FIFAランク2位のブラジル、5位のベルギーとのテストマッチにまさか本田圭佑、香川真司、岡崎慎司を招集しないとは予想もしていなかった。

ブラジル戦は1−3で敗れて、日本代表にとって苦しい展開になったけど、ヨーロッパでやるとはいえ、彼ら3人の調子がようやく上向いてきた時に代表に呼んでまた調子を落としたり、クラブでポジションを失ったりすることを避けたかったのだろう。だから、今回は呼ばなかったけど、決して3選手を不要だとは思ってはいないはずだ。

3選手ともポッと出てきたばかりの新戦力ではない。これまで日本代表の中心だったわけだから、コンディションが良ければどんなプレーができるのかわかっているし、連携面なども大丈夫。新しい選手との連携を煮詰める時間は、W杯前の合宿もある。だからこそ、ハリルは目の前にある強豪国とのテストマッチよりも、彼らには今はクラブでトップパフォーマンスを発揮させることを優先させたのだと思うよ。

ただ、そうは言っても、ブラジルとベルギーを相手に、調子が上がっている本田や香川がどんなプレーをするのか見たかったのが正直な気持ちだ。

やっぱりハリルホジッチ監督という人の本質は、裏表がないのだろうね。会見で「ああだ、こうだ」と理屈をこね回すのは、あれはフランスに長く住んでいるヨーロッパ人だから。私は父がフランス人だからよくわかる。何か意見を言うと「ノン、ノン、ノン」と否定から話を始めるくせに、最終的にはこっちの意見と何も変わらない。日本人からすると面倒臭いけど、そういう文化で生きている人だと理解するとわかりやすい。

今回の欧州遠征では、浦和からGKの西川周作、DFの槙野智章、MFから遠藤航と長澤和輝、FWの興梠慎三が呼ばれたけど、これもハリルホジッチ監督の性格がよく表われていると思う。

浦和は11月18日にアウェーのサウジアラビアでACL決勝の第1戦が控えているのに5選手も招集したわけだが、これは浦和がACL決勝を制すると12月からモロッコで開催されるクラブワールドカップに出場することになり、そうすると日程が重なる日本代表のEAFF E-1サッカー選手権で浦和の選手を招集できないからという考え方もある。

ただ、今回5人を招集した理由は、それよりもフッキやオスカルというレベルの高い選手を揃える上海上港戦で見せた浦和の選手のパフォーマンスに、ハリルホジッチ監督が単純に感動したからだろう。

日韓戦は2年前の東アジアカップ以来!

そのEAFF E-1サッカー選手権は調布の東京スタジアムで、12月9日北朝鮮、12月12日中国、12月16日韓国と対戦する。これは海外組に拘束力の利かないAマッチだから、Jリーグ組で臨むことになるはずだ。

東アジアカップの名前で行なわれていた頃から、基本的にこの大会の位置づけは代表の底上げが目的だが、特に吉田麻也とコンビを組むCBの代表選考に重点を置くことになるのではないか。ブラジル戦で先発した槙野のほか、昌子源、植田直通、三浦弦太のほか、中山雄太、中谷進之介ら、誰が呼ばれるのか注目したい。

また、A代表での日韓戦となると、前回2015年の東アジアカップ以来。久しぶりだから楽しみだ。日本代表にも韓国代表にも「この相手にだけは負けられない」という独特の緊張感が漂うからね。

日韓戦の舞台は、代表として戦う責任を強く感じるから、選手が気持ちを入れて臨むことで、普段は出ない能力がドバっと引き出されることもある。それでW杯での代表メンバー入りを引き寄せる選手が出てきてくれたら面白いし、逆に日本代表がコテンパンにやられたら、それもまた課題が出てきて勉強になる。W杯はロシア大会だけではないし、次もその次もあるわけで、そうした経験のすべてが日本代表の底上げに繋がるのだから、Jリーグ組は思いきり勝負してもらいたいね。

浦和は、クラブワールドカップに進めれば、チャンピオンズリーグ王者や南米王者といったレベルの高い相手と試合ができる。去年、レアル・マドリードと対戦した鹿島がそうだったけど、そういう相手と試合をすると自分の限界を超えた力が引き出される。当然、その反動もあって、疲労でケガもしやすくなるのが心配ではあるが、滅多にないチャンスだからつかみ取ってほしいね。

海外組もクリスマス休暇を除けば、W杯まで緊張感の高いシーズンを送ることになって、例年より疲労も溜まりやすくケガもしやすくなる。肉体的なことだけではなく、精神的にも休まることが少ないからキツイとは思うけど、選手みんなが目指している舞台がW杯だから、強い気持ちで戦ってもらいたい。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。