MCのふたりが声を務めるモグラの人形、ねほりん(左・山里)とぱほりん(右・YOU)

NHKという公共放送、しかもEテレ(教育テレビ)において異彩を放つトーク番組『ねほりんぱほりん』をご存知だろうか?

聞き手の山里亮太とYOUのふたりがモグラに変身、ブタに変身した顔出しNGのワケありゲストの赤裸々な話を掘りまくるーー。

古くは『ひょっこりひょうたん島』から始まるNHK伝統の人形劇と暴露トークが合体したような番組だが、とても公共放送は思えない過激な描写はもう、かなり破天荒!

そこで、一部で熱狂的な支持を受ける異色の番組の裏側を探るべく、前編に続いてチーフプロデューサーの大古滋久(おおこ・しげひさ)氏を根掘り葉掘りしてみた!

―『ねほりん~』が人形劇を取り入れているのも『ひょっこりひょうたん島』からのNHKの歴史を踏襲(とうしゅう)されていて好感が持てますよね。

大古 ウチの伝統芸ですからね。だけど人形を使おうっていうのも、たまたまそうなったんですね。

―たまたま?

大古 そのアイデアはウチのディレクターが言い始めたんですけど、そもそもネットとの親和性がある番組を作りたいと思ったんですね。

―それはどういう意図があるんでしょうか?

大古 NHKの視聴者層は「U59」と言って、59歳以下の視聴者は壊滅的なんですね。70代以上の視聴者が大半の局なので。民放に比べると、あまり若い世代に観られていないんです。

―そこまで壊滅的だったとは!

大古 ええ。だけど『ねほりん~』は、逆に70歳以上の方には観られていないんですよ(笑)。それは意外でしたね。この間(「元国会議員秘書」)の再放送は20代が多くて。

だから結果的にはこちらの思惑通りになったんですけど、そもそもは若い層に見てもらえる番組を作りたいっていうのと、TV業界全体の抱える問題として視聴者がネットに移行している現状をなんとかしなければいけないと。

それでネットを見ている方々にも観てもらえる番組を作りたいなぁっていう課題がここ数年ありまして。まずネット上で人気を集めるブロガーの方に話を聞いてみようと、ウチの女性ディレクターが日本全国の人気ブロガーさんに会いに行ったんです。

―あ、実際に会いに行かれたんですね。

大古 20人以上会ったんじゃないですかね。そしたら、そんなことは会う前からわかってはいたんですけど、話を聞いてあらためて「顔を出さない」から思い切ったことが書けるんだと。

―それはそうですよね(笑)。

大古 最初は人気ブロガーの方に集まってもらって言いたい放題言ってもらう番組を作ろうかと思ったんです。お面を被るとかモザイクを入れるとか、もしくは下半身だけ映すなんてことはどうかなと。

ただ、それだとパッと見では企画的に面白いかもしれないけど、すぐに飽きるなあとか。そもそも顔出しナシで番組を作るってどうなんだろう?って。そしたら「人形でも使いますかね?」っていう意見があって、それは面白いかもっていう話になったんです。

『ねほりんぱほりん』でチーフプロデューサーを務める大古滋久氏

前取材段階で徹底的にリサーチします

『ねほりんぱほりん』は、毎回ゲストであるブタとMCたちの人形劇形式のトークをメインに番組は展開される

―そこで伝統芸の出番になったと。

大古 実際、やってみてわかったのは、人形を使うと過激な話がマイルドに伝えられる。これがモザイクだったらイヤな雰囲気になるかもしれないけど、どこか憎めない部分があって。

―ただ、マイルドになったとしても、放送できない部分はあるわけですよね?

大古 それは身バレ(身元が特定できる)してしまう部分です。そこはもう完全にカットしますね。具体的になればなるほど面白いんですけど、そうなると誰なのかがわかってしまう。

―裏を返せば、それ以外は公にしているのってスゴいですね。

大古 その分、公にするための理由を持っていなければいけないです。例えば「保育士」の回では保育園に通う園児が両親のマネをして「コスコス」って言いながらSEXごっこをやっている、という話が出てきました。

だけど、それをそのまま出すだけだと単に興味がある話で終わってしまうから、保育士さんがそれを見てどう対処し、親にどう説明するのか。そこまで聞けて、下世話と思えることでも自信を持って出せるんです。

ちょっと下世話すぎると思ったら、それを納得して出すために何を掘ればいいのかは前取材段階で徹底的にリサーチしますね。

―確かに保育士さんが園児の目を見て「それはあかんやろ」って目で殺しておくのが効果的っていうのは、非常に説得力がありましたね。

大古 よくご覧になっていただいて。ありがとうございます(笑)。

―いえいえ(笑)。番組のエンディングテーマも某局の「ヤンボーマーボー天気予報」をパロっていたり、細部にまで凝られているなと。

大古 あれも「NHKたるものがパロディとは何事か。『ヤンマー』の許可は得ているのか。恥ずかしいと思わないのか」って問い合わせがきたり…。いろいろありますよ。

―ところで、前編ではネットとの親和性をという話もありましたがエゴサーチもされたり?

大古 しますよ(笑)。特に、Twitterは気にしていますね。時々、番組内に隠しダジャレを入れたりしているので「あ、よかった! 反応してもらった」とか。「サークラ」の回でも、ナレーションで「サークルクラッシャー、略して『サークラ』」って言っておくと、「サークラ」のダジャレが使えるとか(笑)。

1話作るのにかかる日数はまさかの・・・

―それで映画『男はつらいよ』の音楽がかかって、さくら(倍賞千恵子)のイラストが出てきたりするんですね(笑)。

大古 他にも「クラッシャー」で俳句の「句」とラッシャー板前さんのイラストを使って「句ラッシャー」とか(笑)。

―何をやっているんですか(笑)。

大古 もうね、だんだんディレクター陣も楽しみを覚えて(笑)。わかるかわからないか微妙なレベルだと面白いんでしょうけど、最近は全くわからないのもあったりして。「美容整形」の時に「ビヨンセ」の写真と「池」で「ビヨンセ池(美容整形)」とかやりましたね(笑)。

―そのダジャレには気づきませんでした(笑)。

大古 でも、ネット上での反響があったりするとスゴく嬉しいです。それが嬉しくって、次の取材の糧(かて)になっているってことはありますね。

―そういった細部までのこだわりや徹底したリサーチなど『ねほりん~』を制作するのって、実はすごく手間がかかってます?

大古 それはかかります。スゴくかかります。まず、取材が無限にかかっちゃう。なんとなく主役になるゲストに出会えると、本人もそうですけど、そのジャンルの裾野を掘っていって、いざ収録して編集して、そこに操演さんが人形を当てて、映像を加工して…ってやっていくと、1話作るのに平気で3ヵ月くらいはかかりますね。

―3ヵ月! ちなみに当初の狙いが当たった点と外れた点はありますか?

大古 いや、それがここまできてもまだ手探り状態なんです(苦笑)。どんなものが反響あるのかわからないからなぁ…って思いながらやっています。今のようないろんな価値観がある混迷の時代ですからね。

例えば「声優」をテーマに番組を作れば、それなりに局地的にガーッと盛り上がりますけど、そうではない、ここを突いてきたかぁ!みたいな人を探すべく、毎回苦しんでいますね。なかなか見つからないんです、人が。ホントに。だから怖い(笑)。今後の展望にしても、ないっていうのが本音です(笑)。

―展望がない!?(笑)

大古 今でも20本くらいはリサーチをかけているんですけど、このまま行き当たらなかったらどうしよう…!?って。逆に言えば、簡単に見つかるような人を出しても面白くないですしね。

―確かに。

大古 どこまで人生を語れる人に出会えるか。仮に見つかったとしても、どこまで公に話せるのか。そこが課題ですね…。もしかしたら放送時間にポッカリ穴を開けちゃうかもしれないなって、汗びっしょりになって目覚めることはありますよ。

(取材・文/“Show”大谷泰顕)

■『ねほりんぱほりん』はNHK・Eテレにて毎週水曜日の午後11時より放送中!(第1週・第2週が完全新作、第3週・第4週は過去の名エピソードを再放送)