12月の流行初期までにワクチン接種できない人が続出している

「この冬はインフルエンザのワクチン製造が遅れており、品薄です。予防接種希望の方は予約してほしいのですが…」(都内の内科クリニック)

インフルエンザが本格流行する季節を前に、ワクチン不足が深刻化している。厚生労働省健康局は、「今冬、確保できるワクチンは昨年より114万本少ない2527.5万本(4.5%減)の予定で、12月には生産は軌道に乗ります」と言うが、東京保険医協会の調査では6割以上の医師が「不足」と回答。予約殺到でネット予約を中止した医療機関もあり、やっと予約できたと思ったら、接種できるのは1ヵ月先…というようなケースも多いという。

通常、インフルエンザはA型が12月から1月、B型が2月から3月に流行。国は毎年、流行する型を春頃に予測し、A型株を2種類、B型株を2種類組み合わせた「4価」のワクチンを作っている。

「しかし、今年は5月に発表されたA型株のうち片方(埼玉型)の製造効率が悪く、7月に急遽、ほかの株(香港型)に切り替えた。そのため製造に遅れが生じているのです」(元農水省病理学研究者)

人間の体内で抗体ができるのは、ワクチン接種の2~4週間後。そのため、接種を希望しても流行初期には抗体ができていない人も多くなるとみられ、例年以上の大流行となる可能性も指摘されている。

ただし、これは従来型の季節性インフルの話。実は、この冬はもうひとつの“インフルパニック”も懸念されている。最近中国で、非常に致死率の高い鳥インフルエンザウイルス「H7N9」が猛威を振るっているのだ。

様々な型のある鳥インフルエンザウイルスは本来、ヒトには感染せず鳥類の間で広がるものだが、ウイルスの性質によっては感染した鳥に濃厚接触をした場合にヒトにも感染する。1997年に香港で初めてヒトへの感染例が確認された「H5N1」もそのひとつだ。

現在注目されているH7N9の状況について、東京都衛生局保健所管理課元職員で医療ジャーナリストの志村 岳(たけし)氏はこう説明する。

「このウイルスは2013年3月に中国の国家衛生・計画生育委員会からWHO(世界保健機関)に報告されました。今年10月のWHOの発表によれば、9月27日までに中国などで1564人の感染が確認され、そのうち死者は少なくとも612人。致死率は約40%という高さです。これまで5回の患者・死者数のピークを迎えており、なかでも今年に入ってからが一番大きな波となっています」

そして今年10月19日には、東京大学医科学研究所のグループが、マウスやフェレットを使った実験で「H7N9が変異して哺乳類への毒性が強まった」との研究結果を発表。中国から取り寄せたH7N9ウイルスは、飛沫(ひまつ)に含まれるわずかな量でも感染した動物のうち7割が死ぬほどの毒性を持ち、さらにタミフルやリレンザ、イナビルなど従来の抗ウイルス薬に耐性を持つ変化も現れたという。

◆『週刊プレイボーイ』49号「日本列島 インフルWパニック!」では、この危機の震源地・中国の現状について現地の医療事情を解説。そちらもお読みください!

(取材・文/世良光弘 協力/近兼拓史 写真/時事通信社)