たばこ税が低く抑えられている加熱式たばこの“大増税”が検討されはじめている (写真はイメージです)

自民党の税制調査会で来年度(18年度)のたばこ増税が検討されている。1本当たり3.5円の税額アップとなった前回(2010年)のたばこ増税から7年、今回の増税は紙巻たばこからの乗り換えが加速している加熱式たばこの“狙い撃ち増税”との呼び声が高い。

官公庁や地方自治体、企業向けに禁煙化を推進する労働衛生コンサルタントの大和浩(産業医科大学教授)はこう話す。

「現在、国内で販売される加熱式たばこはアイコス(フィリップモリスジャパン)、プルームテック(JT)、グロー(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン)の3種ですが、たばこ市場における販売シェアは目下、1割以上になります」(大和氏、以下同)

さらに、JTが都内約100店舗限定で販売していたプルームテックを来年前半にも全国に販売網を拡充するなど、各社の販売体制が整えば、「今後、加熱式たばこは加速度的に販売数が伸び、いずれ紙巻たばこの消費は減少するでしょう」。

そこで問題となるのがたばこ税の税収だ。例年、2兆円代で安定的に推移してきたたばこ税の税収。アイコスの全国販売が開始されたのは昨年4月だが、その年度(2016年度)の税収は約2兆1100億円と前年度(約2兆1900億円)から800億円減った。

「禁煙者が増加しているのに加え、加熱式たばこにシフトしている現状を考えれば、今年度はさらに税収が落ちることが確実で、このままいくとまもなく2兆円を切るでしょう」

紙巻から加熱式に乗り換える人が増えれば増えるほど税収が減る。その理由は、税額に大きな差があるためだ。

では、加熱たばこの税率が低いのはなぜか? ひと言でいえば、「税率を定めるたばこ税法が加熱式たばこを想定していないから」だ。

たばこ税法は、国内に流通するたばこを「紙巻」、「パイプ」、「葉巻」、「刻み」の4種類に分けて、それぞれに税額を定めている。基準となるのは紙巻たばこで、1000本当たり12,244円(=1本・約12.2円)と規定。パイプたばこと葉巻たばこは、たばこ葉が詰められた部分の重量1gを紙巻1本に換算して課税するのだが、4種類のいずれにも属さない加熱式たばこは、仕方なく「パイプたばことして扱わざるをえなくなった」。

これを加熱式たばこ3商品に当てはめると「アイコスのたばこ葉部分は15.7gだから約192円(12.2円×15.7g)、グローは同9.8gで約120円、プルームテックは同2.8gで約34円」と、課税額が劇的に安くなるというわけ。プルームテックに至っては紙巻たばこのわずか7分の1の税額だ。

もしや、加熱式たばこの開発はメーカー側の節税対策だったということ?

「そうではないでしょう。たばこ葉を火で燃やさず、筒状のヒーターなどで加熱して発生させた蒸気を吸引するのが加熱式たばこ。熱をしっかり通すためにはたばこ葉を少なくせざるをえないという構造が、結果として税率の低さにつながったということかと」(大和氏)

とはいえ、「税率が低いのに販売価格は紙巻たばこと同等。つまり、各メーカーにとって加熱式たばこは粗利がデカい」“ドル箱商品”というわけだ。

そこで、問題の加熱式たばこを狙い撃つ増税――その目的はもちろん、税収確保にある。

「これまで、税収が2兆円を切りそうになると財務省は増税に踏み切ってきました。つまり、税収2兆円は財務省にとっての“課税ノルマ”。これを死守するためにも増税は避けて通れないということです」(大和氏)

増税に前のめりな財務省主税局を直撃!

この増税について、たばこ税法を管轄する財務省主計局の担当官にも話を聞いてみた。

―加熱式たばこを増税するんですか?

担当官「現状を考えれば減税はありえませんから、見直しの結果、増税になるかもしれません」

―ノルマを達成しなきゃいけませんもんね?

担当官「ノルマなんて存在しませんが、同じたばこに類する商品で、値段は同等にも関わらず、加熱式たばこの税率は紙巻に比べて低い。また、加熱式3商品の中にも税額の格差が生じています。“税負担の公平性”という観点からもたばこ税の見直しは必要かと」

―加熱式たばこをどういう手法で、どれくらい増税する?

担当官「あくまで仮定の話ですが、まず、たばこ税法上、加熱式たばこをパイプたばこに分類したままでは税額の格差は解消されませんから、パイプとは切り離し、別のカテゴリーを新設するという考え方はあるかと。また、紙巻と比べると、約14%(プルームテックの場合)しか税額がないのが現状ですから、同等のレベルで課税しようとすると、5倍以上にしなきゃいけないというところですが…。そこも含めて、これから税制調査会で検討していくということです」

このように、加熱式たばこの増税に前のめり気味だった財務省。しかし、財務大臣はJT株の33.35%を握る大株主だ。加熱式を増税すれば、販売が落ち込んでさらなる配当減&税収減の“ダブルパンチ”を食らうハメになるのでは?との疑問も湧くが、大和氏はこれを否定する。

「確かに、たばこが増税で値上げされるとやめる人も出てきますが、やめた人が払わなくなった税金より、まだやめられなくて吸い続けている人たちが払う税金のほうが大きくなる、というのがこれまでのパターン。そこは、財務省が一番わかっているところですよ」

だが、たばこ増税を推し進めたい財務省にとっての最大の抵抗勢力になりそうなのが、自民党内の“たばこ族議員”なのだという。

「その筆頭が、財務大臣の麻生太郎氏。彼は喫煙者で、肺がんと喫煙の関連性について『そんなに関係あんの?』、『国会で(電子たばこ)を吸えるよう提案してみてはどうか。イライラが収まって激論もちょっとは減るんじゃないか』などと発言しています(いずれも今年2月の衆院・財務金融委員会で)。

また、たばこ産業の保護を目的にするたばこ議連の会長で、前税制調査会長の野田毅氏や、元副総裁で衆院議長の大島理森氏も喫煙者で、たばこ増税や喫煙規制に反対する立場。JTから政治献金も受け取っています。自民党内の“権力者”の多くがそうだから、国会と議員会館には喫煙できる場所が多数残っています。

自民党の控室に至っては、席だけ分けた意味のない対策で、実質的には“たばこ吸い放題”なのが現状です。加熱式たばこの増税に彼らが黙っているはずがありません」

そうした反発も予想されるなか、「財務省が先制攻撃に出た」と見る向きもある。

「(先に示した)加熱式たばこと紙巻たばこの税率を比較した表は、今年になって一部のメディアで取り上げられるようになり、ネット上で拡散し始めています。これを見れば税負担の不公平さは明らかで、『加熱式たばこの増税やむなし』の世論を盛り上げる材料になる。このデータは元々、財務省サイドが意図的にリークしたものじゃないかとも言われています」(全国紙記者)

加熱式たばこの狙い撃ち“大増税”の行方やいかに…?

(取材・文/週プレNEWS編集部)