悲願の初優勝を果たした川崎フロンターレ

最後までタイトルの行方がもつれた2017年のJリーグ(J1)は、川崎フロンターレの逆転初優勝という劇的なエンディングでその幕を閉じた。

迎えた12月2日の最終節。その時点で首位に立っていたのは勝ち点71のディフェンディングチャンピオン・鹿島アントラーズで、それを追っていたのが勝ち点69の2位、川崎。鹿島としては、最終節のジュビロ磐田戦に勝利さえすれば、川崎の結果に関わらず自力で2年連続の歓喜を味わえる状況にあった。

ところが、その磐田との大一番でまさかのゴールレスドロー。一方、川崎がホームの等々力スタジアムでJ2降格が決定していた大宮を5-0で一蹴すると、両チームの勝ち点は72で並び、得失点差で17点上回った川崎が最後に笑うこととなった。

これまで川崎がリーグ戦を2位で終えたのは4回、リーグカップ(現ルヴァンカップ)準優勝は4回、そして天皇杯準優勝も1回。つまり計9回に渡ってタイトルの一歩手前で涙を呑んできたことになる。それだけに、10回目の挑戦でようやく手に入れた今回のタイトルは、悲願を達成したという事実はもちろん、クラブの歴史を大きく変えるターニングポイントになったと言ってもいいだろう。

特に最終節の大宮戦の勝利は、今シーズンの川崎の強さを象徴するかのようなゲーム内容だった。2012年4月からチームを率いた風間八宏前監督(現名古屋グランパス監督)が植え付けた攻撃サッカーが炸裂し、終わってみればエース小林悠のハットトリックを含む大量5ゴール。

しかも、今シーズンから前任者を引き継いだ鬼木達監督が「簡単に負けないチーム」を目指して開幕前から重点的に取り組んだ守備面のレベルアップを改めて証明し、完封勝利を収めることに成功した。

リーグ随一の得点力を誇りながら、同時に堅守という武器も手にした今シーズンの川崎。それがJリーグの頂点に立てた最大の理由だった。

有力チームが次々と監督交代

一方、開幕前に優勝候補と目されていた有力チームが軒並みシーズン中の監督交代に踏み切るという奇妙な現象が起こったのが、今シーズンのJリーグの特徴だった。通常、シーズン中の監督交代は残留を目標とする下位チームに圧倒的に多いのだが、なぜか今シーズンは上位チームにそれが目立っていたのだ。

鹿島、浦和レッズ、FC東京、サンフレッチェ広島、そしてガンバ大阪といったタイトル経験者たち(ガンバ大阪はシーズン終了後の監督退任をシーズン中に発表)――また、元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキの加入によって優勝争いに割って入ると期待されたヴィッセル神戸もここに加えていいだろう。

口火を切ったのは、昨シーズンの王者・鹿島だった。シーズン序盤の5月31日、成績不振により石井正忠前監督(現大宮アルディージャ監督)を解任して大岩剛新監督にバトンタッチ。それに続いたのは7月4日、12年からの在任中に3度もリーグ優勝を成し遂げた7年目の森保一前監督(現U-21日本代表監督)の解任に踏み切った広島だった。

すると、前半戦で思うような結果が出せなかった有力チームが次々と監督交代を発表。まず7月30日、浦和レッズが7年目のミハイロ・ペトロヴィッチ前監督を諦めてコーチの堀孝史を監督に昇格させると、8月16日にヴィッセル神戸が名将ネルシーニョ前監督を解任。さらに翌9月7日にガンバ大阪が長谷川健太監督の今シーズン終了後の退任を発表し、その3日後にはFC東京が篠田善之監督の解任を決定。

それ以外にシーズン中の監督交代があったチームはJ2に降格したアルビレックス新潟と大宮だけだったことを考えると、いかに今シーズンが異例だったのかがよくわかる(11月2日、横浜F・マリノスもエリク・モンバエルツ監督の今シーズン終了後の退任を発表)。

シーズン最終節を迎えるまで首位を維持するまでに立ち直った鹿島と、リーグ戦は7位に終わるもアジアチャンピオンズリーグ(ACL)優勝を果たすことに成功した浦和については、監督人事が一定の効果を示したといえるかもしれないが、それ以外のチームに関しては、いずれも成績不振のまま不本意なシーズンを終え、計算外の結末を迎えることとなってしまった。

そういう点においても、優勝候補の中で唯一、シーズン中の監督交代という現象が起こらなかった川崎が最後に栄冠を手にしたのは必然だったといえる。

「勝った者がますます強くなる時代」に

こうして有力チームの不振によって群雄割拠の様相を呈しながら最終順位が確定した今シーズンのJリーグだが、来季以降は一転、“格差時代”が到来するかもしれない。なぜなら、Jリーグは今シーズン(2017年)からスポーツ映像配信サービス会社「DAZN」と10年間で2千億円以上とも言われる大型契約を締結し、優勝賞金や分配金などが大幅にアップすることが決定しているからだ。

例えば、今回優勝した川崎は優勝賞金3億円に理想強化分配金という名目で3年総額15億5千万円(2018年に10億円、2019年に4億円、2020年に1億5千万円が支払われる)、さらにJ1均等分配金3億5千万円まで加え、なんと総額22億円を手にすることが決定。2位鹿島が手にする総額10億3千万円と比べても、2倍以上もの“大差”が生まれるのである。

昨シーズン、優勝した鹿島が手にした賞金と分配金の総額が3億6500万円だったことを考えると、まさに雲泥の差だ。これまではクラブ間格差がなるべく発生しないような“予防線”を張っていたJリーグだが、村井満チェアマンが公言している通り、今後は「勝った者がますます強くなる時代」がやって来る可能性は高い。

そこで注目されるのは、今シーズンの勝者である川崎の来季以降の戦略だ。すでに川崎のフロントは、来シーズンはリーグ戦とACLのWタイトルを狙うべく積極的な補強を計画しているという。少なくとも来年度予算は16億円以上も大幅アップするだけに、川崎がポドルスキ級の大物外国人選手を獲得する可能性も否定できない。

いずれにしても、川崎が手にするビッグマネーがファンの夢を広げ、それによってリーグ全体を活性化させてくれることを大いに期待したいものである。

(取材・文/中山 淳 撮影/赤木真二)