フェイスブックに出資したロシア政府系企業のなかに「ガスプロム」の名前があることも興味深いと語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、パラダイス文書が暗示するフェイスブックとロシアの不自然なつながりについて語る!

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国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手・発表した、タックスヘイブン関連の大量の内部資料「パラダイス文書」。欧米で特に注目されているのは、ロシア政府系の巨額資金が、ロシア人大物投資家が創設したファンドを通じてフェイスブック(以下、FB)やツイッターなどアメリカのSNS企業に流れていたことです。昨年の米大統領選ではSNS上にフェイクニュースや米社会の分断を煽(あお)るような投稿があふれましたが、今回明らかになった「過去の資金提供」という事実は、これがロシアの"情報工作"であったとの疑念をより深めています。

問題のファンドの創設者で、プーチン政権ともつながりが強いといわれる世界的投資家のユーリ・ミルナー氏が、当時はまだ米シリコンバレーの新興企業だったFBに対して約2億ドルの出資を決めたのは2009年5月。FB創設者のマーク・ザッカーバーグCEOとミルナー氏は「公私ともども仲がよい」とされていますが、西側諸国の投資家が驚くような大胆な投資をしたミルナー氏にザッカーバーグ氏が信頼を置くようになったのは自然なことでしょう。

さらに、このファンド経由でFBに出資したロシア政府系企業のなかに「ガスプロム」の名前があることも興味深い。半国営の同社は世界最大の天然ガス企業で、その圧倒的な生産・供給量と資金力を背景に、内政ではプーチン政権の言論統制の手助けをし、外交ではロシアがプレッシャーをかけたい国家に対してしばしばガスの値段をつり上げる、供給を突然止めるなどのハラスメントを行ない、"資源ナショナリズム"のパワーの源となってきました。

例えば、米オバマ政権時に決められたロシアへの国際的な経済制裁に対し、最後まで難色を示したのはドイツのメルケル首相でした。ドイツは2011年の福島第一原発事故の余波で「段階的な脱原発」を決め、ロシアのガス資源に対する依存度を高めていたのですが、このこととメルケル首相の態度が無関係だったとみるのはナイーブすぎるでしょう。ロシアのガスに依存するとは、つまりそういうことなのです。

「ただのビジネスだ」という当人たちの言葉を素直に信じていいものか

ガスプロムを含むロシアの資金が入っていたSNS企業側が、情報工作に加担していたことを示す証拠は今のところありません。ただ、最近の欧米主要国のあらゆる選挙(米大統領選のみならず、イギリスのEU離脱を問う国民投票、フランス大統領選、ドイツ国政選挙など)で社会の分断を煽る政治広告やフェイクニュースが投稿されていたという事実と、それを取り巻く背景を俯瞰すると、「ただのビジネスだ」という当人たちの言葉を素直に信じていいものかどうか...

近年はシェールガス革命により資源価格が下落し、ロシアはかつての"武器"を失いかけていた。その苦況下で、各国の選挙に"情報工作"をいつも以上に激しく仕掛け、分断を煽り、地政学的アドバンテージを維持しようとした。SNS企業側は積極関与はせずとも、それを黙認したーー。このあたりが僕の現段階での見立てです。ただもちろん、あくまでも現時点では「グレー」ですし、それ以前にパラダイス文書の信憑性も「グレー」。「グレーのマトリョーシカ」の中に何があるのか...というところでしょうか。

Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。10月より日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』が好評発売中!!!!