多くの人が焚き火を囲み楽しんでいた

焚き火が静かなブームだという。都心ではできる場所がなかなかないが、キャンプの定番アトラクションとしては依然として根強い支持を得ている。

焚き火愛好者の間ではその癒やし効果からか、「悩みの種だったコミュ障が治った」「気になる女子を誘ったら急接近できた」など、コミュニケーションツールとして絶大な威力を発揮するという説もある。

焚き火好きが高じてペンネームを「たきび」にした筆者も、自身が主宰する「たき火の会」でカップルが生まれる事例を何度も見てきている。あれも焚き火マジックなのだろうか。真偽を検証するために焚き火好きが集まるイベントに出向き、生の声を聞いてきた。

そのイベントとは、今年11月11日(土)、12日(日)に江東区立若洲公園キャンプ場で開催された「焚火クラブ」。3回目の大規模開催となった今年は、両日でおよそ1300人が訪れた。週プレNEWS取材班は15時過ぎに到着。同行した編集者(彼女募集中)は「焚き火マジックで女のコと仲良くなるメソッドを覚えて帰りたい」と鼻息も荒い。

会場の入り口では、キャンプ場などの運営・管理を行なう株式会社ヒーローの巨大人形がお出迎え

公園内に入ると、早くもあちこちで焚き火の炎が揺らめいていた。お気に入りの“焚き火Tシャツ”でキメてきた甲斐がある。

落書きのようなゆるいイラストが焚き火にぴったりだ

ステージからは参加アーティストたちによる演奏が聴こえてくる。家族連れの参加者も多いせいか、ステージサイドには子供向けのアトラクションも充実していた。

流しそうめんの要領で玉を転がす子供たち

ハンディサイズの「エコグリル」はアウトドア料理で活躍

そして、焚き火好きのハートをわしづかみにしていたのが「試焚き火」コーナー。衣服でいう試着のような感覚で自分に合った焚き火台を探せる。本番さながら、実際に薪(まき)を燃やして試せるとあって大盛況だった。

試焚火エリア内で使用するのであれば薪は無料

ズラッと並ぶ焚き火台。こんな機会はなかなかない

また、会場内には焚き火料理を味わえる食堂もあり、ここで、ミスジステーキ(800円)と赤えび(300円)、マシュマロ(100円)を購入。しかし、どの焚き火シートも埋まっている。すると、上品なご夫婦が相席を勧めてくれた。焚き火好きに悪い人はいない(はず…)。

聞けば、彼らは50代のご夫婦で都内在住。焚き火は子供の頃によくやったという。

アウトドア風の装いだが、そうした趣味はないそう

「普段はキャンプとかはしないんだけど、これなら道具も持参しなくていいし、のんびりくつろげるかなと思って。火を見ていると原始の魂が蘇るね。会話も自然に落ち着いた感じになるし、仕事の話も出ません」

やはり、焚き火はフラットなコミュニケーションにひと役買うようだ。続いて話を聞いたのは、インスタ映えするフランクツリー(2000円)を見ながら盛り上がっているグループ。

単品で人数分買うより安かったそうだ

仲良し6人組かと思いきや、実は初対面だというふたつのグループの相席状態。焚き火を囲めば知らない人ともすぐに打ち解けられるようだ。

女性陣からは、「焚き火の前ではわりと無口になります。気を使わなくていい上に、なぜか絆が深まる」、「男子はカッコよさが3割増しぐらいになるよね。ゲレンデマジックならぬ焚き火マジック(笑)」などの意見が出た。

やはり、焚き火マジックは実在するようだ。ちなみに、「今度、焚き火しようよ」って誘われたら? との問いには「えっ?って思うけど、気になる人だったらOKしそう」。なるほど、脈があるなしを判断するリトマス試験紙として使えるかもしれない。

夕暮れを過ぎると、カップルに変化が…

さて、いよいよ日も暮れてきた。焚き火マジックが本領を発揮する時間帯だ。

焚き火と夕焼けのマリアージュ

焚き火バーも営業中

続いてお邪魔したグループも初対面同士の連合軍。こちらも初対面のよそよそしさはなく、旧知の仲のように和やかな雰囲気。

知らない者同士、まったりとした時間を過ごす

北海道出身だという男性が言う。

「子供の頃は普通に焚き火してましたよ。夏でも泳ぐと寒いから、純粋に暖を取るためにね。こういう場だと薪を補充してくれた人にお礼を言ったりとか、会話のきっかけは生まれやすいですよね」

先の女性らが言っていたように、焚き火を囲んでいると無理やり話さなければいけないというハードルがないため、自然な会話がしやすいのかもしれない。他の相席グループも、やはり知らない人同士で楽しく焚き火を囲んでいた。

すでに2時間以上火を見つめているという20代のカップルにも話を聞いてみた。交際歴は10年だという。

彼氏はふたつの焚き火台を同時に操っていた

「最初はひとりでやってたんですが、恐る恐る彼女も誘ってみると意外にもOK。それ以来、ふたりで焚き火を楽しむようになりました」

お次も20代のカップル。彼氏は初めてのマイ焚き火台を探しにきたビギナー“タキビスト”だ。女性が言う。

「火の粉を避けるフリをして寄り添えるのがいい(笑)。別の人に誘われたら? 1対1は無理だけど大勢なら」

取材中も幸せオーラがハンパない

このふたり、確かに距離が近い。周りを見渡せば、カップルは皆、肩を寄せ合って自分たちの世界に入り込んでいる。「言われてみれば、いつもより密着してるかも(笑)」という声も。これも焚き火の為す効果なのだ。

最後に声をかけたのは会社の同僚グループ。キャンプ仲間でもあり、焚き火経験は豊富だ。

完全に宿泊態勢を整えている

「リラックスするせいか、ぶっちゃけ話もついつい飛び出しがち。今日来られなかった男がいるんですが、この真ん中のコから『実は付き合ってる』という告白を受けたばかりです(笑)」

彼女募集中の編集者が「これも焚き火マジックですねえ」としみじみ呟いた。

艶めかしく揺れる炎が人々を魅了する

結論が出た。焚き火マジックは確実に存在する。後日、同行した編集者から次のような報告メールが届いた。

「あの後、8人の女子に『焚き火しに行こうよ』と誘ってみて、5人が『焚き火? よくわからないけど、複数人ならいいよ…」という感じ。残りの3人からは『何それ、楽しいの?』と、けんもほろろに断られました(笑)」

…焚き火マジックは存在する。しかし、どう女子をその現場まで呼び寄せられるか…が難しいようだ。

(取材・文/石原たきび 取材協力/焚火クラブ)