キルギス人と日本人は顔が似ているんだって!

カザフスタンからマルシュルートカ(ミニバス)で向かった、お次の国はキルギス

かつての正式国名はキルギスタンで、キルギス人が70%以上を占めるその国民の顔は日本人に似ていて、「キルギス人と日本人は兄弟だ」なんて言う人がいるほど親日的。

日本人は「60日以内ならビザなし」と中央アジアでも唯一、ビザ不要の国で、隣国へのビザ取得待ちのためにここで長期滞在する旅人が多い。

安宿も千円を切るお手頃価格(オフシーズン時)で「滞在しやすい国」なのだが、問題なのは国境越え。ここの国境では入国手続きの間に「必ず乗ってきたバスに置き去りにされる」というトラブルが旅人の間で名物となっているのだ。

「置いてきぼりはイヤだなぁ…」とドキドキしていたのだけれど、幸い国境からキルギスのビシュケクという街まで20km程度。私は自ら乗ってきたマルシュルートカを捨て、そこから出ている別のマルシュルートカに乗る計画を立てた。これがトントン拍子でうまくいき、宿の目の前までヒョイっと到着し、我ながら旅の達人になってきたもんだと自画自賛した。

やってきたのはキルギスの首都ビシュケク

さて、カザフスタンでは全く旅人に会わず、相部屋も個室状態だったけれど、今回やってきたのは旅人の間で有名な日本人オーナーの宿。ここなら絶対に旅人がいるだろう、とドアを開けると……「ナマステ」。そこはインドだった。6人部屋にいたインド人男性が一斉にこちらを振り返る。

え? ここって日本人宿のはずだけど? どうやら最近、一部のインド人に人気の宿となっているようで、女子はひとりもおらず、さすがに個室にしようかなと思ったら、そこに山口県から来たという日本人男子学生が現れたので、ひとまず私は彼の横のベッドに荷物を置いた。

南インドのケーララから来ているというインド人男子たち。イビキ率高かったけど(笑)、みんな良い人たちでした

そして夕方になると、他の日本人宿泊者や近所の日本人が集まってきて、いよいよ日本人宿らしくなる。「親に出てけと言われたからキルギスに来て住んでみた」という変わり者のロン毛関西男子、エセ関西弁を操る千葉男子、ロシア語留学中の山口女子など…。

キルギス伝統の謎の飲み物で歓迎された後は、「馬タンとモツ鍋を一緒に食べない?」と早速、日本人グループのシェア飯に誘われた。

キルギス民族伝統、大麦発酵ドリンク「ジャルマ」。別名「ショロ」。発酵独特の酸味と塩気のある味で、ザラザラとして舌触り

キルギスに隠れた日本人の巣窟でモツ鍋を喰らう。ところで、このモツどこで手に入れたんだろうか。お腹大丈夫かな…

秘密のキルギスナイトライフ

カレーを食べるインド人グループを横目に、まさかこんなところでモツ鍋が食べられると思わず、寒い夜にすするスープはひときわ身体にしみてウマイ。さらにはキムチのような白菜の漬物を出されて驚いたが、中央アジアには韓国系住民も多く、バザールなどではキムチが普通に売られているそうだ。

またキルギスもイスラム教徒がほとんどの国だが、やはりここも戒律は緩く、その辺でお酒が売られている。私たちがビールを乾杯すると同時に、近所のモスクからアザーン(お祈り)が流れてきたのが、これまたなんとも不思議な気分であった。

「一体、私はどこにいるのだろうか…」

モスク

そして夜が更けてくると、日本人男子のボーイズトークが弾み「恥ずかしながら」と言いつつも「秘密のキルギスナイトライフ」が赤裸々に暴かれた。

「キルギスにはサウナがあってね。この間、男ふたりで行ったのよ。サウナの後、椅子で休んでたら次々と女のコが現れて、俺らの所に来るんだよ。『ニェット! ニェット!(No! No!)』ってあしらってたんだけど、何人目かにロシア系の顔した超カワイイ小柄のコが現れてさ。思わず俺たちは立ち上がったよね…! って、いやいや女子がいるのにこんな話、ゴメン!」

なかなか女子旅人が知る由もない体験もあるものだなぁと興味津々に聞きながらも、白い目で見ておくことにした。

こちらがサウナの入り口だそう。一見、普通の家という感じだが、看板はあるようだ

また、ナンパが成功してキルギス女子と2対2でカラオケをしたこともあるんだとか。キルギスで何を歌うの?って感じだけれど、主にお酒を飲んで遊んでいたらしい。ひとりはキルギス女子に気に入られ、この街に残るように請われたそうだが、「アイアムトラベラー(俺は旅人だから)」とキメ台詞を残して去ったそうだ。

「なんとも、カッコイイお話で(笑)!」と、これには旅人一同、大爆笑だった。

翌日、私が外で早めの夕飯を済ませて帰ってくると、その日もまたシェア飯が待っていた。「今日はラム肉買ってBBQしようぜ! 500gくらい買おうか!」

私はとりあえず買物だけ一緒にと夜道をみんなの背中について行くと、宿近くの羊の看板のある店の大きな鉄の扉をノック。ギギギ…と怪しくドアが開くと、そこは家庭のガレージのような場所。そして奥へ進むと庭があり、小屋の中には黒い羊が2匹…。

え? もしかして切り身では売ってないの? 全員が驚き、躊躇(ちゅうちょ)…。そこは精肉店ではなく、どうやら家族経営の羊一頭売りの屠畜場であった。

「一頭5千ソム(約8千円)だよ。さばき代は400ソム(約640円)だ。どちらの羊にするかい?」。おやっさんにそう問いかけられ、最終的に羊を一頭買うことになった。

羊が2頭。前の週にはたくさんいたけれど売れてしまったらしい

ナイフ1本で羊をさばけない男は、男ではない

「え、え、本当に買うの?」。責任転嫁をするわけではないが、私はまだ覚悟ができないまま、ハラハラしながらその様子を目で追っていた。

羊は暴れたり逃げたりする様子もなく、後ろ脚を持ち上げられ前脚だけで進みながら、木製のすのこ台まで運ばれていく。すぐに首元にナイフが当てられると、あまり声をあげずに失血死させられた。

横ではまだ2歳くらいの、その家の小さな子供が無表情でそのシーンを見ている。この子にとってはもう当たり前の光景なのであろう。

羊の首元にナイフを入れる

まるで洋服を脱がすように毛皮をはがす。背中が寂しく見えるのは気のせいだろうか

羊の内臓

私といえば、どうしたことだろう。どういう感情を持ったらよいのかわからなかった。普段、焼肉を普通に食べているし、今さら「かわいそう」と偽善ぶるつもりもないが、しかしそういった感情もあり、なんとも言えない気持ちであった。

最近の日本の小学生は、スーパーで売られている魚の切り身を見て「刺身が海を泳いでいる」と思っているらしいが、私もさして変わらないかったのかもしれない。いつも肉は切られて売っていて、それを買って何も考えずに美味しく食べていた。しかし、キルギスでのこの買物では、命を頂いているということを改めて確認させられたのだ。

お肉や内臓からはまだ湯気が立っていて、ビニール袋に詰められた25kgほどある羊を男子たちが宿のキッチンに運ぶ。キルギスの伝統料理としてさばいた羊は一切無駄にせず、内臓はきれいに洗って鍋にすることになった。お肉は炭の上で焼かれ、レバーやハツは刺身としてテーブルに置かれたが、レバーには何やら見たことのない黄色っぽい斑点があり、皆が不思議がっていた。

羊のハツ

そして、その日のシェア飯では、私はお肉を一片もらった以外はその羊に自ら手を伸ばすことはなかった。単純に夕飯を食べてきてしまったからと、そのため羊代も払っていないから遠慮したのと、レバーの斑点が不安だったことなど理由は複数だが、なんだか今日これをすんなり食べる気にはなれなかったのだ。

しかし、これがキルギス独特の文化。「ナイフ1本で羊をさばけない男は、男ではない」と言われるほど、男性に求められる技能でもあり、お祝い事に羊1頭はかかせない。

この国でモテる男になるためには、羊くらいさばけないといけないのだ。

いつかこの少年たちも一人前のキルギス男子になるのだろう

【This week’s BLUE】私は羊を食べずに、その夜はひたすらビールを飲んだ

●旅人マリーシャ平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】