1987年生まれ、埼玉県出身。市民ランナーとして力を伸ばし、2011年、13年、17年の世界選手権に出場。これまでフルマラソンを70回以上走り、自己ベストは2時間8分14秒。

長期低迷する日本男子マラソンの復活なるか!?

箱根駅伝でも活躍した有力日本人選手がそろい、注目を集めた福岡国際マラソン(12月3日)で、期待の大迫 傑(おおさこ・すぐる、26歳)が国内歴代5位(2時間7分19秒)となる好タイムをたたき出した。

同レースでいつも通りの粘りの走りを見せ、日本人4位(2時間10分53秒)に食い込んだ“最強市民ランナー”川内優輝(かわうち・ゆうき、30歳)が、自身と各選手の走りをふり返る。

■今回の私は完全に体重オーバーでした

2020年東京五輪の代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」への出場権もかかった今大会には、ハイレベルな外国人選手に加え、大迫 傑や神野大地(かみの・だいち、24歳)ら注目度の高い日本人選手が顔をそろえた。

川内はレース前、「30kmまで先頭集団についていければ、表彰台も狙える」と意気込んでいたが、フタを開けてみれば17km過ぎで先頭集団から遅れ、一時は順位を17位まで下げる苦しい展開。終盤に持ち前の粘り強さを発揮したものの、結果は2時間10分53秒の全体9位、日本人4位に終わった。

「最後の日本代表」と宣言して挑んだ今夏の世界選手権(9位)後、“燃え尽き症候群”に陥(おちい)っていたという川内を、レース後に直撃した!

―8度目の出場となった福岡国際マラソン。順位と結果について思うところは?

川内 一番イヤな順位ですよね(笑)。目標が3位だったとしても、入賞(8位)というもうひとつの基準もありましたので。いつもどおりというか、世界選手権と同じ9位。早い段階で(先頭集団から)落っこちて、そこから拾っていくという…。もう少し先頭集団で勝負したかったんですけど、スピード不足です。予想どおり、序盤から1km3分というペースになったものの、そこに対応できる状態にはなかったということです。

―ウエイトがかなりオーバーしていたようですが。

川内 ベストは62kg(身長は172cm)なのに、1週間前の時点で68kg近くありました。最後の1週間で絞ろうと試みたのですが、ちょっと今回は重すぎました。

―敗因は調整不足?

川内 というより、“世界選手権ロス”というか、世界選手権が終わってからかなり怠(なま)けてしまって、練習が不足気味だったんです。(通常、実業団所属の選手は月間1000km以上走るとされているが)9月と10月は500km台ですから。それで体重が増えてしまった。やっぱり最低でも600kmは走らないと…。ただ、完璧に準備しての結果ではないですし、これだけ体重オーバーでも2時間10分台で走れたわけです。負け惜しみっぽくなっちゃいますけど、もう少し絞れればまだやれると思っています。

―代表選考のプレッシャーから解放され、気楽に走れると話していましたが。

川内 人間はやっぱり追い詰められたときのほうが、いい結果が出るのかもしれませんね。(世界選手権の選考レースだった)昨年の福岡国際は、大会直前に足首を捻挫し、満足に練習もできない状態だったのに、2時間9分台で走れましたから。今年はペースが速かったとはいえ(早々と先頭集団から脱落し)、タイムは昨年より1分以上遅い。ちょっとリラックスしすぎたかもしれません(苦笑)。

私にアドバイスを求める若手選手なんていませんからね(笑)

■アドバイスを求めてくる若手はいない(苦笑)

―最も注目を集めていた大迫選手は、2時間7分19秒の好タイムで3位入賞です。

川内 序盤から先頭集団の後ろの位置をキープして、様子を見ながら走っているようだったので、「調子がいいんだろうな。いい記録が出るんだろうな」と思って見ていました。私は1km3分ペースで精いっぱいでしたが、余裕でついていっていましたから。(初マラソンで2時間10分28秒だった)ボストンに続いて2回目がこれですから。順調なんでしょうね。

―大迫選手とは何か話はしましたか?

川内 レース後に「おめでとう」と声をかけましたが、それ以外はほとんど話していません。大迫君は、(以前所属していた日清食品の)佐藤(悠基)君らと仲がいいみたいで。まあ、人と違ったことをやっている私にアドバイスを求める若手選手なんていませんからね(笑)。

―同じく注目を集めていたマラソン初挑戦の神野選手は、2時間12分50秒の13位でした。

川内 初マラソンですし、それほど気にすることはないと思います。大迫君とか、(初マラソンの今年2月の東京マラソンに続き、9月のベルリンマラソンでも2時間9分台をマークした) 設楽(悠太)君(25歳)が特別なだけ。マラソンは経験を積むことで強くなっていくもの。勝負はこれからじゃないですか。

―昨年の福岡国際では、行きつけのカレー屋が潰れていたため、レース前日恒例のカレーは「松屋」で食べたそうですね。今年はどこでカレーを食べたのですか?

川内 実は今年、同じ場所にまた違うカレー屋ができていたんです。ただ、そこで2杯食べたんですけど、ちょっとオシャレな店で、さすがにひとりで3杯も頼むのはマズいというか、恥ずかしくなって、結局、シメで松屋にカレギュウを食べに行きました。今ふり返れば、その弱気さがレースにも反映されてしまったのかも(苦笑)。

―日本代表からは引退を宣言していますが、今後もレースには積極的に出るんですよね?

川内 現役を引退したわけではないので、ガンガン走ります。今後は12月17日に防府読売マラソン、1月1日にはアメリカのマーシュフィールド・ニューイヤーマラソンに出ます。さすがに元日からのフルマラソンは私も初めてですけど、マーシュフィールドは通算78回目のフルマラソンで、76回目のサブ20(2時間20分切り)を達成し、世界記録に並ぶ予定です。

―今日のレース後、ファンサービスに長蛇の列ができていました。やはり人気ですね。

川内 まさか(サインや写真撮影に)2時間もかかるとは思いませんでしたけど、喜んでもらえたならそれでいいです。でも、今回は招待選手なのに、この結果ではホントに情けない。自己ベスト(2時間8分14秒)も13年以来、更新できていませんが、サブ10(2時間10分切り)の達成率は確実に上がっていますし、なんとか来年もう一度体重を絞って、更新したい気持ちは強いです。

(取材・文・撮影/栗原正夫)