全国津々浦々、夜の街に今夜もネオンをともすスナック。その数は10万軒以上ともいわれ、コンビニの約5万5000店を上回る。
だが、これだけの店舗数があり身近な存在なのに、その起源や歴史、営業の実態、さらには社会的影響力など、スナックをひとつの産業としてとらえ、研究・分析した本は少ない。
『日本の夜の公共圏 スナック研究序説』は、「スナックとは何か?」と疑問を抱いた気鋭の学者たちがそれぞれの専門領域から、大まじめにスナックを論じた唯一の学術研究書である。
そのページをめくれば、まさに目からウロコ。日本独自の飲食文化といえるスナックの奥深さと、その秘めたる無限の可能性に気づかされるはずだ。著者の谷口功一氏に聞いた。
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―なぜ、スナック研究に没頭することになったんですか?
谷口 父が大分・別府の温泉街のど真ん中に歯科医院を開いていて、家の周りにはスナックがいくつもあった。町内の隣人にはスナックのママさんたちがいて、近所付き合いもありました。私にとって、スナックは幼い頃の原風景としてなじみの深い存在だったんです。だから、大人になってもスナックはよく利用しているんですが、ある日ふと、「これだけ通っているのに、スナックのことをよく知らない。学術的にきちんと調べられないか」と思い立ったんです。
ところが、いざ調べ始めると、わからないことだらけでした。店舗数といった基本的なデータもなければ、スナックについて書かれた本もほとんどない。ひとりで調べるには限界があると感じて、さまざまな分野の学者に参加を呼びかけて「スナック研究会」を結成しました。十数回にわたって大まじめな研究報告や議論をしていくなかで、やっと完成したのがこの本というわけです。ちなみに各章の執筆者はみんな第一線の研究者ばかり。スナックについて、本邦初の本格的な学術書に仕上がったと自負しています。
―タイトルにもある、スナックを「夜の公共圏」と位置づけているところが斬新でした。
谷口 スナックは東京オリンピックが開かれた1964年前後に生まれたのですが、その変遷をたどるうちに、単にお酒を飲む場所ではなく、地域の人々が夜な夜な集い触れ合うコミュニティ、つまり「夜の公民館」、あるいは「夜の公共圏」と呼べる存在になっているのではないかと考えたんです。
実際、地方に行ってその土地のことを知りたければ、スナックを訪ねればいい。地元の常連とグラス2、3杯を酌み交わすだけで、住民しか知りえないレアな情報を聞くことだってできるのです。それくらい、スナックには濃厚な地域コミュニティが形成されているんです。
しかもスナックにはレベリング(水平化)機能があって、店内では社会的地位のある人もそうでない人もみんな平等。初見の客でも快く迎え入れますし、誰でも自由闊達(かったつ)にコミュニケーションに参加できる。まさしく「夜の公共圏」です。