株式会社ベネクスの取締役副社長・星 繁信氏(左)と営業部リーダーの畝川 亨氏(右)。手にしているのはシリーズ累計150万部突破の付録つき書籍『疲れとり首ウォーマー』。VENEX愛用者の裾野を広げた1冊だ。

着るだけで身体の疲れがとれる!? そんな夢のような素材があるという。ナノプラチナの線維化に成功した布を使った機能性ウェア「VENEX(べネクス)」だ。

れを巷(ちまた)にあふれる健康グッズと十把一絡にするなかれ。機能性ウェアの中で今、注目されている自己回復力を発揮する“リカバリーウェア”の第一人者なのである。

まず“筋肉の殿堂”フィットネスクラブのゴールドジムから人気に火がつき、機能性の高さでプロ野球選手ほかオリンピック級のアスリートまで多数、愛用中という。

Tシャツから始まった製品も、長袖やロングパンツなど全身カバー系からネック、アーム、アイマスクなど疲れを感じやすいボディパーツ向けまで全33アイテムへと拡大。一体、何がそんなにスゴいのか? なぜそこまで支持されているのか? 「VENEX」の開発ストーリーを探ってみた!

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「出張中はベッドが変わるから、ちょっと眠りが浅かったりするじゃないですか。ところが、VENEXを着て寝るとぐっすり眠れて、疲れが軽減するんですよね。それと、お酒の抜け方が違うんです(笑)。飲んだ日はVENEXを着て寝ると二日酔が軽減するので試してみてくださいよ(笑)」

自社商品を語るのは、株式会社ベネクス・取締役副社長の星 繁信(ほし・しげのぶ)だ。続いて、元大手スポーツメーカー勤務のキャリアを持つ、営業部リーダーの畝川 亨(せがわ・とおる)氏もいかにVENEXが肉体疲労を回復に導くのかを熱弁する。

「私はマラソンをやっているんですが、VENEXを着用する前までは日曜日の大会の筋肉痛が1週間は続いていたのに、今は火曜日にはとれているんです! 本当にハードワークの疲れを解消してくれますね」

VENEX製品は、ナノプラチナ等の鉱物が織り込まれている布で作られる。触り心地はサラサラして気持ちいい。付録つき書籍『疲れとり首ウォーマー』の首用のネックウォーマーもゆるっとしていて締め付けは全くないが、遠赤外線のおかげで首回りがポカポカして眠たくなる。もちろん個人差はあるが、就寝中でも気になりにくく、寒い冬にももってこいのアイテムだ。

そんな「VENEX」を販売するベネクスは、代表取締役の中村太一氏、取締役副社長の片野秀樹氏、そして今回取材を受けてくれた星繁信氏の3人が立ち上げた会社だ。中村氏が介護業界でコンサルティングをしていたことから、当初の事業内容は介護向けだった。

最初に手掛けたのは、寝たきりの高齢者が床ずれを起こさないようにするためのベッドパッドの開発。うっ血を防止し、自立神経の働きを活発にするために繊維に微弱な電磁波を出す鉱物を織り込むことを考えた。目をつけた素材が、ナノプラチナだ。

しかし、テクノロジーのことは門外漢の3人。会社のある神奈川県のかながわ産業振興センターに相談し、まず経営に関する人的サポートや融資を受けた。県の紹介でナノテクノロジーを研究する大学や教授を紹介してもらい、その流れで東海大学健康科学部に繋がる。

「私たちも鉱物について勉強はしましたが、所詮は素人。僕なんて元々は内装業ですから(笑)。どの鉱物が血流に効率的に働くのか3人で頭を下げてナノテクノロジーについて教えてもらい、技術会社とともに開発、東海大学さんに検証を依頼しました。商材にエビデンスがしっかりしていないと説得力がないですからね」(星氏)

試作が完成すると、血流を機械で調べる。検証と仮説を立てることを繰り返し、1年以上の歳月をかけて完成したベットパット。繊維に織り込まれたナノ化プラチナ等の鉱物から微弱な電磁波が流れて自律神経に作用、副交感神経が高まって血流が上がる。さらに、遠赤外線との相乗効果で体温が上がるため、疲れもとれるという生地のVENEXが誕生した。

「ベットパットの価格は10万円以上。売れませんでしたねぇ。僕らは“いいモノだったら売れるだろう”で考えていたんですが、新参者が販路を開拓するのは至難の業(わざ)なところに、気軽に買ってもらえる値段でもありませんでした」

そこで、日勤や夜勤で生活が不規則で肉体的疲労度も高い介護士など、福祉業界で働く人に向けてTシャツも作ったが「売れませんでしたね」と、星氏は苦笑しきり。業績が伸びず苦しい経営の中、転機となったのが2008年6月。ゴールドジムで試験販売を始めたことだった。

疲労回復が期待できるリカバリーウェアの市場を開拓した「VENEX」。最近ではアパレル的なアイテムも手がけるように

ブームのきっかけはゴールドジム

業績は右肩上がりというベネクス。日本のみならず、ドイツなど海外でも商品展開中だ

「前年に出展した展示会でゴールドジムの方と名刺交換をしていたんです。それを覚えていた中村が『去年もお会い致しましたね』というような感じで声をかけたところ、その展示会の後、ゴールドジムから会社に連絡が入って営業に行ったんですよ」

星氏を出迎えたのは、社長と事業部長だった。

「今になって言われることがあるんですが、最初からこのふたりに会えるのは珍しいらしいらしくラッキーでした。その時の会話で印象的だったのは、社長の『会員はみんな疲れてジムへ来て、疲れて帰るんですよ』という言葉。

当時はパフォーマンスを上げるウェアが流行っていたんですが、VENEXは副交感神経を高めてリラックスを誘うもの。時流とは逆ですが『新しくて面白い。これまで足りない考えに気づかせてくれたし、何よりエビデンスがしっかりしているから』と商品に共感してもらえ、ケアウェアの“疲れがとれるTシャツ”として試験販売を始めてもらえることに」

一般的なスポーツクラブに比べて、本格的に筋肉を作りたい人が通うジムなため、K1やプライドなどに参戦する格闘技選手はじめ、プロ野球選手など多くのアスリートは元より、俳優やタレントといった仕事に必要な肉体作りに余念がない会員も多い。身体が資本なだけに彼らはTシャツ1枚1万円(当時)という高価格帯でも、本当によい商品であれば積極的に購入してくれた。

「愛用されているアスリートの方々から聞いたのは『よく眠れる』でした。試合などで緊張を強いられるからでしょうね。そんな緊張が続く時に着るとよかったみたいです」(星氏)

さらに、トレーナーが会員の購入をブーストしたそうだ。

「正直なところ、着るだけで疲れがとれるというのがよく疑われたんですよ(笑)。そりゃ、そうですよね。見たことも聞いたこともないブランドだったし、僕だって作ってなかったら同じように思うでしょう。

ところが、自分で着て実感していたトレーナーが『本当にいい』と勧めてくれたことで、ジム内での信憑性が増したんです。ゴールドジムのトレーナーといえば、トレーニングを極めたカリスマ。そんな方々が『筋肉痛の抜けが早い』『筋肉のハリが違う』と言ってくれたんですね」

こうして支持されたことで、ベネクスの事業は介護からスポーツウェアに大きく舵を切った。

「2010年には新宿伊勢丹での販売がスタートしました。知り合いの知り合いに伊勢丹のバイヤーがいてお会いしたことが縁だったんですが…お恥ずかしいことに、その頃の僕は伊勢丹の業界でのポジションや価値をよく理解していなくて。臆さずVENEXのよさを主張したのがよかったのかもしれません。

そのプレゼンで『新しい考え、モノを発信していくのが伊勢丹なんです』と僕らの考え方に共感し支持していただき、トントン拍子にメンズ館の7Fでかなり広いスペースをいただいてTシャツを販売することが決まったんです」

スタート当初こそ緩やかだったが、翌11年には月4千枚の販売数をマーク。新宿伊勢丹のスポーツ売場での売上げNo1の座に躍り出た。

「新宿伊勢丹での販売で認知度が上がりました。他のメーカーや小売店などから『あの商品はなんですか? 普通のTシャツなんですけど』なんて、電話がかかってきたりしましたけど(笑)」

そこからアイテムも少しずつ増え、Tシャツ2種類、長袖Tシャツ、ロングタイツ…と展開。そこで、次なるブレイクのポイントが訪れる。それが、VENEXのネックウォーマーを付録につけた書籍『疲れとり首ウォーマー』(KADOKAWA)だった。

深い眠りにつけるのは、人間だけじゃなかった! ペットなどの哺乳類から爬虫類までVENEXの寝床でグッスリ!(株式会社ベネクスHPより)

コストが合わず、工場にもいくつか断られ…

就寝時に首につけることで快眠を促すネックウォーマー付き書籍『疲れとり首ウォーマー』は2012年の初版から5年近く売れ続けるロングベストセラー!

2012年の初版以降、売れ続けてシリーズ累計150万部突破。伊勢丹同様に知り合いの知り合いからの紹介で動いたプロジェクトだった。

「…実は、原価を考えて一度お断りさせていただきました。でも広告宣伝費と思えば、と利益を度外視して受けることにしたんです。そこから試行錯誤を重ね、何度もチャレンジしたのですが、なかなかコストが合わない。工場にもいくつか断られたりして…やっとの思いででき上がったんです」

そして、本が発売になってわずか数日で重版。こうして一般レベルで疲れている現代人と結びつき、リカバリーウェアの第一人者としての地位を確固たるものにした。

「首は自律神経が集まっているため、使用した読者の方が深い眠りを得られ、疲れがとれたのを実感しやすいと考えた上でのアイテムでした。我が社はその頃、Tシャツを販売することを先行して余裕がなかったですし、アクセサリー類を作りたくても販路がありませんでした。『疲れとり首ウォーマー』でネックウォーマーを作ったことは、アクセサリー類を商品化する、いいモデルケースになりましたね」

お金がかけられないから知恵を絞った結果、1万円以上するVENEXをリーズナブルに1500円で体感できるものを作った。それが爆発的に商品の知名度の裾野を広げることになったのだ。

「書籍が入口になってVENEXのよさを知ってもらえ、また書店で売られることで認知度が高まりました。首ウォーマーがよかったからTシャツを買った、なんてお声もよくいただくんですよ」

アスリートなどプロから、広く一般に購入者層を広げたVENEX。だからなのか、最新の企業パンフレットはアパレルメーカーのようである。

「これから先は、ライフスタイル市場が主戦場になると思います。競合はスポーツメーカーではなく、アパレル。これからもリカバリーウェアのトップランナーとして進んでいきたいと思っています」

海外市場も視野に、さらに飛躍しようとしているベネクス。介護業界から始まり、現代人に寄り添う力強い味方としてこれからの展開にも期待大のようだ。

(取材・文・撮影/渡邉裕美)

第2段は足首ウォーマーが付録の『疲れとり足首ウォーマー』。足首を温めて入眠しやすく冷え性解消にも