フェイスブックは少数民族のロヒンギャに対する差別を助長する場にもなっていると語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ロシア介入疑惑もあるフェイスブックについて語る!

今年6月、全世界の月間ユーザー数が20億人を突破したフェイスブック。今や国境を超えたインフラともいえるこのSNSが、実は独裁者や差別主義者たちにとって"都合のいいツール"になっていた!?

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米カリフォルニア州シリコンバレー地区のメンローパークという場所に、フェイスブックの本社があります。そこに集まるアッパーミドル層の白人たちによる、性善説を前提とした"友達紹介システム"から始まったこのサービスは、スマホの普及と共に各国でビジネス規模を拡大し、今年7~9月の四半期は売上高、最終利益とも過去最高を更新。今や全世界的なインフラとなりました。

しかしその一方で、近年はまるで粗い縫い目から汚水が漏れ出るかのように、いろいろな問題が表出しています。昨年の米大統領選挙におけるロシア介入疑惑もその一例ですが、もっと踏み込んで言えば、実はフェイスブックは多くの独裁者や権力者たちにとって"都合のいいツール"となっているのです。

例えば、タイ。フェイスブック上に、タイ王室に関する英BBC放送のドキュメンタリー番組の一部を引用した25歳の民主化活動家が「不敬罪」で2016年12月に逮捕されました。彼は多額の保釈金を支払い、一度は保釈されたようですが、再びフェイスブックに警察を揶揄(やゆ)するコメントを書き込むと、すぐに再逮捕。5年の実刑判決を食らってしまいました。

軍政下の同国において、実名制のフェイスブックはいわば"民間製の国民ID"。本人の投稿に加え、デモ参加者や活動家同士の横のつながりといった情報も含めて監視することで、国家権力は反体制派を容易に"釣り上げる"ことができてしまうのです。

ミャンマーの状況はもっと深刻です。2011年の時点で、インターネットにアクセスできるミャンマー人は人口のわずか1%程度とみられていましたが、ここ数年、格安スマホや格安SIMの普及で爆発的にネット人口が拡大。多くの人々はスマホを購入するとすぐにフェイスブックのアカウントを取得し、無邪気に楽しんでいるようです。

しかし、フェイスブックは少数民族のロヒンギャに対する差別を助長する場にもなっています。フィードには悪意にあふれた偽情報や、さまざまな隠語を用いて民族憎悪を駆り立てる投稿があふれ、それらが虐殺やレイプといった蛮行を引き起こすこともある。ミャンマーの有名なムスリム差別主義者も、「ロヒンギャ差別の拡散はフェイスブックがなければ成しえなかった」と語っています。

なぜ、差別が放置されたのか?

ではなぜ、こんな差別が放置されたのか。実は、フェイスブックはミャンマーに支社を持っておらず、タイにある支局(それも本社直系の支社ではなく「代理支局」)がタイ、ミャンマー、カンボジアの3国を管理しています。こうした脆弱(ぜいじゃく)な管理体制に加え、ミャンマー語特有の差別スラングをタイの支局も米本社も把握できなかったようです。

こういう問題に関しては、「包丁が悪いのではなく、包丁で人を刺す人が悪い」というタイプの反論が必ずあります。悪いのはフェイスブックではない、差別主義者や独裁者が悪いのだ――と。しかし、今や全世界規模のインフラであり、また巨大なニュース配信媒体でもあるフェイスブックに、そのロジックをそのまま適用していいのか。「フェイスブックはロヒンギャ差別の温床になっている」と世界中の活動家から批判されていますが、今のところ誰も責任を取ろうとはしていません。

◆この続き、後編は明日配信予定!

Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日本テレビ)、『報道ランナー』(関西テレビ)、『教えて!NEWSライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送)、『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)などレギュラー・準レギュラー出演多数。 2年半に及ぶ本連載を大幅に加筆・再編集した新刊『挑発的ニッポン革命論煽動の時代を生き抜け』(小社刊)が好評発売中!!