宮澤ミシェル氏が注目するW杯の好カードとは?

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第27回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、前回に続き2018年6月に開催となるW杯ロシア大会の組み合わせ。日本代表以外にも注目の好試合が目白押しのロシア大会で、特に楽しみな対戦カードを語り尽くす!

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前回まではW杯ロシア大会の日本代表の入ったグループについて触れたけど、やっぱりW杯最大の見どころは強豪国同士のガチンコ勝負にある。私が1998年フランス大会で、初めてW杯の解説を担当したチリvsイタリアの両国ともに出場できないのは寂しくはあるけれど、ロシア大会はそれを補って余りある注目カードがグループリーグから実現するからね。

実際、グループリーグBの初戦では、いきなりポルトガル対スペインが見られる。これはスゴイ。想像しただけでワクワクしてくる。ポルトガルはEURO2016のチャンピオンになったとはいえ、スペイン相手には戦い方を考えて臨まないと手痛い目に遭うはずだ。

一番の気がかりはクリスティアーノ・ロナウド。今シーズンはこれまでのようにシュートが決まっていない。昨季も前半戦はなかなか点が取れなかったけれど、それでも10ゴールくらいはあげていた。それが今季はリーグ戦11月までのゴール数はたったの2点。そのうちの1点は自ら蹴ったPKを止められて、そのこぼれ球を押し込んだものだった。

フィジカル面は全く問題ないけれど、ゴール前でのシュートの時に落ち着きがやや欠けている。ジャストミートしなかったり、抜群の切り返しでシュートに持ち込んだのに足の変なところで蹴っていい方向に飛ばない。いいシュートを打ってもGKのファインセーブにあうことも多かった。

その後、リーグでは復調傾向で、チャンピオンズリーグでも点を決めているとはいえ、まだグループリーグ。クラブワールドカップでゴールを決めて、これをきっかけに調子が上がってくるかどうかだろう。

昨シーズンはそのクラブW杯あたりから本来の調子を取り戻して、後半戦はゴールを量産。終わってみればチャンピオンズリーグでは11得点で得点王。リーグ戦はメッシが37得点で得点王になったものの、ロナウドも25得点をあげた。今シーズン、これからロナウドの調子がさらに上がってこないと、ポルトガルは厳しい可能性もある。

アルゼンチンのカギはメッシではなく…

スペイン代表はゼロトップでやるのかどうか楽しみだね。確かにFWにモラタやアセンシオらはいるけれど、生命線はDFラインと中盤でのパスワーク。これが2010年南アフリカ大会のように見られれば、いいところまで行くんじゃないかな。

先日、W杯抽選会の数日後に、日本で暮らすサッカー好きの各国の外国人たちと集まってW杯の組合せについてあれこれ語り合った。そうしたらナイジェリアの方が「アルゼンチンに勝てる」と自信満々だったね。それを聞いていたアルゼンチンの方も「他の国には楽勝だけど、ナイジェリアは警戒しなきゃいけない」と同意していた。

確かにナイジェリアは前回大会でベスト16まで進んでいて、今回のアフリカ予選を無敗で通過している。何より、アフリカ勢は波に乗ったら信じられないようなプレーをすることがある。

そのグループDには初出場のアイスランド、2大会連続5回目の出場となるクロアチアもいて、アルゼンチンが初戦で昨夏のEUROで旋風を起こしたアイスランドと対戦する。アルゼンチンは初戦にコンディションのピークは合わせないと思うけれど、アイスランドはこの試合に照準を合わせてくるはずだ。ピッチとスタンドが一体となる彼らの応援は選手たちに大きな勇気を与えるだけに、アルゼンチンは前半で得点が取れないと苦しい展開になるんじゃないかな。

とはいえ、アルゼンチン代表はメッシが今季も相変わらずバルセロナではゴールを量産している。代表ではパフォーマンスがやや落ちてしまう課題はあるけれど、仮にメッシが故障したとしても、アタッカーにはアグエロがいてディバラがいて、イグアインもいる。メッシ不在でも攻撃は十分機能するほど豪華な顔ぶれだ。

会合で一緒だったアルゼンチンの方は、メッシが出られなくなるよりも「マスチェラーノを欠く方がヤバイ」と言っていた。2003年に代表入りしてボランチに定着し、W杯はドイツ大会、南アフリカ大会。ブラジル大会と出場。ロシア大会後に代表引退を表明しているけれど、それだけキャリアを積んでいてもまだ33歳だ。長く代表に定着して代えが利かない存在だけに、ここから半年はマスチェラーノに注目してみるとアルゼンチン代表の行く末が占えて面白いと思う。

グループリーグを突破することはまず間違いないだろうけど、仮に2位通過した場合は、決勝トーナメント1回戦はフランス対アルゼンチンという屈指のカードが観られそうだ。

イングランドはグループリーグ敗退?

グループCではフランスの1位突破は確実と言ってもいいほど、メンツがすごい。センターバックも中盤もフォワードも、どこのポジションもヨーロッパのトップクラブでレギュラーを張る選手たちで溢(あふ)れている。

12月にバルセロナのサミュエル・ウムティティが全治2~3ヵ月の故障を負ったけれど、代表の選手層的にはなんの問題もない。彼らがコケるとしたら、過信があった時だろう。

W杯に出場する各国人が集まった会合には、タレントのトニー(・クロスビー)も来ていて、イングランド代表の話をしたら「イングランド代表はグループリーグ敗退だよ。だから応援するのはリバプールの選手よ」と言っていた(笑)。

彼はリバプールに所属するセネガル代表のサディオ・マネや、エジプト代表のモハメド・サラーに期待しているそうだ。まあ、トニーがそう言いたくなるほどイングランドはW杯では結果を残せていないけれど、今回はリバプールのジョーダン・ヘンダーソンやダニエル・スターリッジをはじめ、戦力が揃っているから楽しみな存在だ。

ベルギー、パナマ、チュニジアと同じグループGを戦うけれど、順当なら決勝トーナメントに進出できると思う。仮に日本代表がH組を2位で通過して、イングランドがG組を1位で通過すると決勝トーナメント1回戦で当たる。W杯でイングランドと対戦というだけでテンションが上がるし、日本代表が勝とうものなら、トニーの悔しそうな顔を想像するだけで楽しくなるよね。

優勝候補のドイツと同組にはスウェーデン、メキシコ、韓国が入ったけれど、韓国がこのグループを勝ち抜くチャンスは十分にある。韓国はアジア最終予選で苦しんだし、さすがにドイツ戦は厳しいだろうけど、スウェーデン、メキシコとは十分に戦えると思う。

スウェーデンは高さがあるけれど、攻撃のパターンが「教科書通り」というほどオーソドックス。メキシコはテクニックがあるけれど、高さがそれほどはないだけに戦いやすい。前回ブラジル大会でのアジア勢は0勝9敗3分けだっただけに、今回は日本と一緒に強豪国にひと泡吹かせてもらいたい。

リーグ戦やチャンピオンズリーグでの試合によって、これから各国代表の状況は刻々と変わっていく。そのたびに本大会の組合せを見ながら、ああでもない、こうでもないと楽しめる。皆さんもぜひシミュレーションをして楽しんでほしい。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。