住宅ジャーナリストの榊 淳司氏(左)と漫画原案を手がける夏原 武氏(右)

誰もが人生で一度は不動産屋のお世話になるはず。しかし、一般人のほとんどがその裏と闇を知らない――。

そこで30年以上、不動産業界に携わり著作も多数の気鋭の住宅ジャーナリスト・榊 淳司氏と、『クロサギ』シリーズの漫画原案でヒット作を生み、現在ビッグコミック好評連載中、嘘が上手くつけなくなった不動産営業マンを描いた『正直不動産』でも原案を手がける夏原 武氏が緊急対談! 

これで、もう不動産業界の嘘に騙(だま)されない!?

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夏原 今日はよろしくお願いします。

榊 こちらこそ、よろしくお願いします。早速ですが、『正直不動産』を拝読させていただきました。正直に申しますと、「あ、やられたな」と。実はいくつかの出版社に「ネタは提供しますから、『ナニワ金融道』の不動産屋版をやりませんか?」と声をかけていたんです。そんな最中にこの漫画が世に出て。先を越されたなと(笑)。

夏原 ありがとうございます。不動産業界は、千の話の中に真実はたった3つ…“千三つ”なんて言われる業界です。海千山千の手ダレが集まる業界の裏と闇を描けば、漫画のネタには事欠きませんからね。

 まさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する世界ですよね。それに業界人のキャラクターも濃い。そのまんま漫画のキャラクターになりそうな人ばかりですしね。

夏原 見た目ですぐに不動産屋だとわかりますよね。偉くなると縦ストライプのスーツに高級時計が定番のスタイル。昼はゴルフ、夜はクラブが必須で、若手はBMW、年齢が上がるとベンツかレクサスのLS(笑)。

 さらに声が野太ければ、まさに“This is不動産屋”です(笑)。

夏原 ネタ的にもキャラ的にも漫画向きなんですよね。ただ、『正直不動産』を立ち上げた裏話をひとつしておくと、不動産業界は嘘がまかり通る世界。嘘と言い切ってしまうと言葉が強いかもしれませんが、「悪い部分は見せない、言わない」が普通の世界です。「お客様、第一」と謳(うた)いながら、その言葉とは裏腹に「儲(もう)けられるところから儲けよう」というのが本音。

でも、やはりそれはおかしい。しかし、誰もが人生の中で一度くらいは不動産屋のお世話になることがあるはずなのに、知識が乏しい人がほとんど。「知らないと怖いよ、損をするよ」と読者に警笛を鳴らすのが、この漫画を立ち上げたきっかけですね。

不動産屋は本音を言わない

  確かに、不動産屋は露骨な嘘を吐いてしまうと宅建業法違反で免許停止になっちゃいますから。まぁ、そんな業者もひと月にいくつか出てきますけど(苦笑)。

ただ、仰る通り、不動産屋は本音を言わないという意味では正直ではないし、嘘とほぼ同義かもしれないですね。「お客様、第一です!」と笑顔で接客しながら、スタッフ同士の会話では「あの客に買わせよう」「この物件はあの客をハメよう」なんて会話が飛び交っていますからね。中には、物件の契約にこぎつけることを「殺す」と表現する業者もいるくらいで。

夏原 買っていただく、借りていただくというより、買わせる、貸してやるという雰囲気がありますよね。手前勝手に「この土地はいい土地です!」と言うけど、土地って家が建って初めて役に立つわけで。言われるがままに買って、実際に家を建てようとしたら、建築基準法や様々な制限によって、ちゃんとした家が建たないことも多々ありますからね。

 よくある話ですね。本来、客と不動産屋は対等な関係のはずなのに、下手に出てしまう感じ、「売っていただく」「借りさせていただく」という客の心理を巧妙に突いてくるんですよね。儲かるところから徹底的に儲けるというのが、まさに不動産屋の本音ですから。

もちろん、本当に誠実な営業マンもいるでしょうが、どれだけいい人に見えても信用しちゃダメです。例えば、マンションの売却で「あなたに任せます」なんて言った瞬間、営業マンは口では「ありがとうございます!」と言いながら、腹の中では「しめしめ」と囁(ささや)いて、「取引価格の3%+6万円は…」と仲介手数料がいくらになるか算盤を叩いていますから(笑)。

夏原 エンドユーザーも不動産屋に関する基礎知識を身につけておくべきですよね。業界では「両手」と呼ばれていますが、不動産屋は極力、ひとつの物件の売り手と買い手、その両方の仲介をして、双方から手数料をもらおうとしますからね。そうすれば、少ない労力で単純計算、仲介手数料が倍になりますから。

でも、これって例えばマンションを売る場合、少しでも高く売りたい売り手の物件を、少しでも安く買いたい買い手に仲介するわけです。結果、誰が損をし、誰が得をしているかは一目瞭然ですよね。

 民法では利益相反関係にある両者の代理人になることは「双方代理」として禁止されているんです。しかし、不動産屋の両手仲介は、限りなく双方代理に近い行為なのに、日本では100%合法。欧米では原則禁止になっている国や州が多いんですけどね。

夏原 被害者と加害者、双方の弁護を同時に務めるような行為ですからね。

榊 まさにそうです。両手仲介のような、建前と本音が全く逆になっていることがまかり通っている業界なんですよね。消費者保護という面においては、最も遅れているんじゃないのかと思います。

業界と与党の自民党は仲がいい

夏原 一般消費者、売り手や買い手の利益にはなんの関係もなく、業者だけが儲かる仕組みは非常に不健全ですよね。

 そうですね。しかも、消費者は中途半端な知識では歯が立たない。不動産屋も必死ですからね。ドラマや小説に登場するみたいな営業成績の悪い社員への鉄拳制裁は当たり前、手をガムテープでグルグルに受話器に巻いて営業電話をかけ続けさせるなんて描写もあったりしますが、あれ現実の話ですからね。某不動産会社が作った業界のお家芸なんですが、いまだに受け継いでいるところもあるくらいです(笑)。

夏原 売るため、買うため、貸すためのテクニックも磨きがかかってますよね。

 不動産屋から車に客を乗せて物件を見に行く際、信号で止まると客のテンションが下がるから、なるべく信号のない裏道を行くなんてことも、客に買わせるテクニックのひとつとして普通に行われていますからね。

夏原 貸し手、売り手が有利な業界独自の商習慣も多いですよね。賃貸の礼金なんて、なんの法的根拠もない。更新料なんていうのも平気で取られますが、あれもなんら法的根拠はないんで。

 住宅が不足している時代にでき上がった商習慣がそのまま残っているんですよ。徐々に崩れ始めている部分もあって、今は礼金なしの物件も多く見かけますし、フリーレント物件などもありますけど。ただ、妙な習慣だけが残っている。

間違いなく法改正が必要な問題がいくつもあると思うんですが、不動産業界と与党の自民党は仲がいいので、今後も消費者の目線に立った法改正が行なわれるとは考え難い。やはり、消費者自身が知識を身につけ、損をしないように自己防衛するしかないのが実情ですね。

◆この対談の記事は明日配信予定。後編では、さらに魑魅魍魎が跋扈する不動産屋に騙されないための具体的な方法を明かしていただく!

(撮影/三輪憲亮)

■『正直不動産』登坂不動産の営業マン・永瀬財地は嘘を厭わぬ口八丁で売り上げNo.1を叩き出す凄腕。しかし、ひょんなことから嘘が上手くつけなくなり、正直営業で悪戦苦闘するが…。不動産屋の裏側をぶっちゃけまくりなニュー・ヒーロー、誕生!(C)大谷アキラ・夏原 武・水野光博(小学館『ビッグコミック』連載中)

『マンションは日本人を幸せにするか』「マンション」と呼ばれる鉄筋コンクリート造の集合住宅に日本人が本格的に住み始めて約60年。この新しい住まいは日本人を幸せにしたのか? マンション業界歴約30年の住宅ジャーナリストが鋭い視点で切り込む!(榊 淳司著 集英社新書)

榊 淳司(さかき・あつし)1962年生まれ。京都府出身。住宅ジャーナリスト。20年以上、マンションの広告・販売戦略立案に携わった経験を生かし、購入者側の視点に立ちながら日々取材を重ねる。著書に『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)、『2025年東京不動産大暴落』 (イースト新書)など多数。

夏原 武(なつはら・たけし)1959年生まれ。千葉県出身。裏社会やアウトローに関した題材を得意とし、『別冊宝島』などに執筆。代表作に『歌舞伎町アウトロー戦記』など多数。詐欺師を騙す詐欺師を題材にした漫画『クロサギ』、『新クロサギ』で原案を担当。現在、ビッグコミック(小学館)で『正直不動産』の原案を担当する。