不動産の購入法について、騙されないための裏を語る榊 淳司氏(左)と夏原 武氏(右)

男子たるもの“一国一城の主”を目指すべき!? マンションや戸建てを買うことが目的になってませんか? 

30年以上、不動産業界に携わり著作も多数の気鋭の住宅ジャーナリスト・榊 淳司氏と、『クロサギ』シリーズの漫画原案でヒット作を生み、現在ビッグコミックで好評連載中、嘘が上手く吐けなくなった不動産営業マンを描いた漫画『正直不動産』でも原案を手がける夏原 武氏が緊急対談! 

前編記事では、一般人が知らないと怖い“不動産業界の嘘と闇”について深掘りしていただいたが、今回は公開されない不動産の購入法をおふたりが伝授する!

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夏原 榊さんの新書『マンションは日本人を幸せにするか』を拝読しましたが、マンション業界に対して、かなり辛口なことまで発言されていますよね。そんな評論家、なかなかいないように思いますが?

 私はマンションの広告・販売に20数年携わり、現在の評論家のようなことを始めたので、人が言いにくいことをいうのが役割だと思っていますから。ただ、確かに私のような業界を真正面から批判する人は、ほぼいないですね(笑)。

夏原 そうですね(笑)。

 単純な話、どこからお金をもらっているかという話なんですよ。細かな記事を書いて出版社や新聞社から細かく稼ぐよりも、お望みの記事を書いて不動産屋からお金をもらうのが一番簡単なんで。そういう私も以前は払う側の人間で「この評論家やライターたちは、こんなに楽して稼いで…」という現状を見てきています。

夏原 確かに、稼ぐにはそっちのほうが効率がいい。まぁ、要は不動産屋が儲(もう)かっているってことですよね(笑)。大小含めれば、国内にコンビニの倍以上、不動産屋があるというデータもありますからね。

 知り合いの不動産屋の社長は大学時代に水商売の黒服をしていて、偉そうな客の職業を調べていったら、全員、不動産屋だったそうで。そんなに儲かるならやってみようと。今では、ご多分に漏れず縦ストライプのスーツを着ています(笑)。

夏原 ハハハハハハ。

 町の不動産屋なんかは「客を10人捕まえていれば食える」と言われているんですよ。その10人が売ったり買ったり、そのうち順番に死んでいくでしょ? 待っていても相続が発生して、最低でも名義の変更がありますからね。さらにそこで売却があったり。ちょっとした地主さんをひとりかふたり、あとは普通の家を持っているような客、計10人いれば食えるんです。

夏原 親子代々で不動産屋というのも多いですね。ただ、不動産業界で面白いのは大手だから安心、町の小さな不動産屋だから心配ということでは一切ないということですよね。

 町の不動産屋のような場合、客を騙(だま)すような商売をしたら1回こっきりの使い捨てになってしまうから、焼き畑農業的な商売の仕方はしません。悪評が立てば商売もしにくいので、特に地元の人には誠実に対応してくれることが多いですよね。

反対に、大手の社員は支店をグルグル回りますから、基本的には今、成績が上がればいいという考え。ですから、住みたい街が決まっているのなら、地元の不動産を当たるというのも、安直ではありますがいい方法だと思います。

ネットで済まそうとしたら失敗する

 夏原 ただ、賃貸の場合、ネットだけを頼っていい物件を見つけ、「ここがいい!」と電話してアポを取り、店を訪れると「たった今、決まってしまいました」なんて言われるのがオチですよね。来店させて、他の物件を契約させるための、いわゆる囮(おとり)物件も多いですから。

榊 一般の人は、ネットで探せる物件が全部だと思っているんですよね。アットホームなどの不動産情報の総合サイトは掲載料も高いので、小さな町の不動産屋は総合サイトに掲載しないで、店頭に訪れた客にだけに紹介する物件を持っていたりしますからね。

夏原 やはり、ネットだけで済まそうと思うと失敗しますよね。他に家選びで失敗するのはどのような場合が多いですか?

 私はマンション購入の際の、無料・有料の相談もしているんです。様々なケースを見てきて、やはり買うことが目的になってしまう人は失敗する場合が多いと思います。本来なら、「こういう暮らしをするために、このマンションを買う」というように、買った家で幸せに暮らすことが目的のはずなのに、買うという行為自体が目的になっていると上手くいかないことも多いですね。

夏原 ただ、現実問題として、やはり家を買うというのはサラリーマンにとって、ひとつの目的になっていますよね。「一国一城の主」なんて言葉がいまだに残ってますから。

 誰もが知っているような会社に勤めていて、45歳、奥さん、子供がいる人が賃貸に住んでいたら、「何かあったの?」みたいな空気って確実にありますからね。

夏原 「あと何年ローン残ってる?」が挨拶のような感じすらありますしね。銀行員など、家を持っていないと出世に響くと聞きますよ。転勤も多いのに、家やマンションを買うと自分が信用を得たような気にもなるんでしょうね。

榊 そうですね。「俺もここまできたんだ!」と。

夏原 ちゃんとした銀行でローンを組んで、社会的信用を得た気分になる。借金なんですから、社会的信用も何もあったもんじゃないんですけどね(笑)。

 そうなんですよね。しかも、不動産は日本人を狂わすんですよ。買う時に正常な判断ができない。

夏原 人生最大の買い物ですから、ものすごく興奮しますからね。

 相談を受けていると、いい大学を出て、いい会社に務めていて、話を聞いていて地頭もいいのに、なんでこんなバカな選択をしてしまうのかというケースが多々あります。

夏原 モデルルームや内覧会を訪れると、やっぱり冷静じゃいられないんですよ。舞い上がってしまって。「壁芯がいくつで…」なんて冷静な人はまずいない。

パッションがなければ不動産は買えない?

  私はモデルルームを「イリュージョンルーム」と呼んでいます(笑)。ほぼファンタジーの世界だと思ったほうがいい。それに最近はモデルルームで接客用の想定問答集が完璧に用意されていますからね。ありとあらゆるデメリットに関する質問に対しどう答えるか、全部覚えてから社員は現場に立っている。浮かれ気分の客は掌(てのひら)の上を転がされます。

夏原 夫婦で訪れると、奥さんが気に入らないと結局、購入しないんで。奥さんのほうを積極的に切り崩そうとするのが、モデルルームあるあるですよね(笑)。

 その通り(笑)。あと、執拗に煽(あお)りますからね、営業マンは。人って、買う、買わないで悩むと、必ず買わないという選択をするんです。だから、営業マンとしては、悩む時間はできるだけ短くさせたい。

夏原 「今が買い時です!」と(笑)。

 そうです。「不動産なんてパッションがなければ買えませんよ!」などと言って煽るんです。

夏原 あの煽り方はすごい。「決めましょう。今日、決めましょう!」と。バーっと熱くしてハンコを押させちゃおうと。確かに一度、家に帰ったら冷静になりますもんね。誰かに相談したりして、「もうちょっと探してみるか」と。

 だから、結局は同じ話になりますが、不動産で損や後悔しないためには消費者がしっかり勉強するしかないんですよ。情報の非対称性なんて言いますが、一般消費者と不動産屋の情報レベルが凄まじく違いますから。

夏原 ちゃんと勉強すれば、「調べたらこうだったんですけど?」ってツッコめますからね。必要以上に怯(おび)えたり、譲らないこと。客と不動産屋は対等な立場なんだと思うことも大事ですよね。

 そうですね。あとは焦っては絶対にダメです。「3ヵ月以内に買わなくてはいけない」みたいな人は大体、失敗しますから。例えば、笹塚のマンションを買いたいと思うなら、笹塚の市場を1年くらいご覧になっていたら、地元の不動産くらいには相場や状況がわかるようになります。たまさか安い物件が出たら、それを買えばいい。運良く、探し始めてすぐに優良物件が見つかる場合もありますが、そんな幸運はまずないので長いスパンで考えるべきなんです。

夏原 我々は肉屋にオススメされた肉を買って食べて、美味しかったらまた買います。ただ、不動産にはまたがない。車なら試乗できますが、マンションや戸建てを買うために、試し住みなんてことはできませんからね。「この家、オススメですよ!」と言われて買ってしまったら、もう後戻りはできない。やはり何より知識が必要ですよね。

 『正直不動産』だったり、私が書いた本を数冊読むのも手ですよ。少し勉強をするだけで騙されないんですから。とはいえ、何度言っても騙される人は後を絶たない。賢い消費者が増えれば、不動産業界も変わってきたはずなんです。

しかし、いつまでたっても一定数、騙される人がいるので、業界の「儲かるところから徹底的に儲ける」という姿勢は変わらず、今に至っている。そして、法的に消費者が保護されるような法改正も見込めない。結局、騙されて後悔しないためには各自、勉強して防衛するしかないんですよ。

(撮影/三輪憲亮)

『正直不動産』登坂不動産の営業マン・永瀬財地は嘘を厭わぬ口八丁で売り上げNo.1を叩き出す凄腕。しかし、ひょんなことから嘘が上手くつけなくなり、正直営業で悪戦苦闘するが…。不動産屋の裏側をぶっちゃけまくりなニュー・ヒーロー、誕生!(C)大谷アキラ・夏原武・水野光博(小学館『ビッグコミック』連載中)

『マンションは日本人を幸せにするか』「マンション」と呼ばれる鉄筋コンクリート造の集合住宅に日本人が本格的に住み始めて約60年。この新しい住まいは日本人を幸せにしたのか? マンション業界歴約30年の住宅ジャーナリストが鋭い視点で切り込む!(榊淳司著 集英社新書)

榊 淳司(さかき・あつし)1962年生まれ。京都府出身。住宅ジャーナリスト。20年以上、マンションの広告・販売戦略立案に携わった経験を生かし、購入者側の視点に立ちながら日々取材を重ねる。著書に『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)、『2025年東京不動産大暴落』 (イースト新書)など多数。

夏原 武(なつはら・たけし)1959年生まれ。千葉県出身。裏社会やアウトローに関した題材を得意とし、『別冊宝島』などに執筆。代表作に『歌舞伎町アウトロー戦記』など多数。詐欺師を騙す詐欺師を題材にした漫画『クロサギ』、『新クロサギ』で原案を担当。現在、ビッグコミック(小学館)で『正直不動産』の原案を担当する。