多くのファンに愛され幕を閉じる新宿JAM

12月31日をもって37年の歴史に幕を閉じる「新宿JAM」。かつて、スピッツ、エレファントカシマシ、ザ・ブルーハーツ、氣志團など名だたるバンドを輩出した老舗ライブハウスだ。

大きなライブハウスに出るための登竜門として機能した新宿JAMだが、長い歴史の中で様々な出来事もあり、音楽関係者や音楽好きに知られる存在に。

前編記事「知られざる舞台裏」では、2006年から店長を務めてきた石塚明彦氏に196時間ぶっ通しの「JAMフェス」や飲み放題の導入、そしてヤクザとのトラブル(!)など、これまでの歴史を振り返ってもらった。後編では、石塚氏が近年のバンドやライブハウス事情から新宿JAMへの思いを明かす――。

―最近のバンド事情について、感じることはありますか?

石塚 単純な例ですけど、僕らの頃はバンドやってるだけでモテたじゃないですか。サッカー部や野球部が好きな女のコもおれば、音楽をやっている人が好きなコもおった。でも、今は音楽をやっているからって、そんなにモテないみたいですよ。売れてれば別ですけど、ただ音楽やってるだけでは将棋やってるとか釣りやってるとかとそんなに変わらない。むしろ「あんたの彼氏バンドやってるの? 貧乏でしょ~」ってなる(笑)。

―昔とはイメージが。

石塚 違ってきましたよね。そこはライブハウスが増えたことも関係しているかもしれない。敷居が低くなった分、誰でも出れるようになって「私のお兄ちゃんでも出てるわ」って。そしたら憧れもなくなりますよね。でも、今はモテるからバンドをやるなんてコがいないだけにみんなクオリティが高いです。

店長就任前から音楽業界に身を置く石塚氏。昨今のライブハウス事情を語る

―一方で、最近はアイドルも結構出ているみたいですね。

石塚 もうアイドルなしでは、どこのライブハウスは経営できないくらいになってますよ。特に地下アイドルは強いですね。熱心なコも多いですよ。

バンドマンは全員とは言わないですけど、客がいなかろうが、ライブで失敗しようがケロッとしてる。でも地下アイドルは「今日はお客さんを楽しませられなかった」とか言って泣いてるし、動員が少ないと「すいません!」と謝ってくる。昔のバンドマンと重なるところがありますね。

―それを聞くと、ライブハウスにアイドルが増えているのは当然なのかもしれないですね。

石塚 だからバンドマンも負けてられへん。ひたむきにやらんとね。別にアイドルみたいに対応しろという話じゃなくて、自分の音楽をきっちり追求して、聴いてもらう努力をしないと。曲作って、CD出ましただけでは地下アイドルの熱心さには負けますよね。

社会に適合できない人たちの場所

落書きはもちろん、更衣室のカギすらも壊れ、すべてがボロボロの控え室

―長くやってきて、改めて思うライブハウスのいいところは?

石塚 この200人くらいのキャパだと、うまいこと社交場になればいいなと思うんです。大きいハコでライブを観る時って、当たり前ですけどライブしか楽しみがないじゃないですか。でも、こういう小さいハコは、アーティストとお客さんの垣根なんてないに等しいし、気軽に話しかけられる。それがわかれば、結構楽しいところだと思うんですよ。

例えば、仕事帰りにふらっと寄ってきたサラリーマンのおじちゃんが女子大生のバンドと話をするとか、なかなか普通の生活ではないですよね。音楽だけではない社交場になればいいなと思ってます。

―共通の趣味を持っている人にも出会いやすいでしょうし、JAMみたいなハコだと普段は接点がないアウトローな人にも出会えそうですよね。

石塚 いるいる。結構な確率でいる(笑)。アル中みたいな人とか借金だらけの人とか。あえて集めてるつもりはないけど、寄ってきますね。やっぱり、ちょっと変わった人が多いし、僕もそのひとりかもしれないけど、そういう人たちの居場所になっている面はあると思うんですよ。社会にうまく適合できなかった人たちが仲間を見つけられる場所というか。

―石塚さんのJAM人生を振り返って感じることはありますか?

石塚 やっぱり最初はしんどいことが多かったんですよ。ブッキングが決まらないとか設備の不具合が多いとか。僕が来た時はトイレも男女共用だったし、雨漏りも多かったし。マイナス点ばかり目についてたんですけど、今思うと、そういうのもかわいくなってくる。手のかかる子供は目が離されへんみたいな感じですかね。だって、下水の臭いがするライブハウスなんて、今どきないでしょ?

―昔はたくさんありましたけど、最近は珍しいですね(笑)。

石塚 ここは取り壊しを待つビルだったから修理してもらえなかった。昔は下水臭くてバンドマンから「なんや!」と怒られてたんですよ。でも最近は「これがJAMや!」って。貴重な臭いとさえ言われるようになりましたからね。

「さようなら、新宿JAM!」

スピッツがメジャーデビューする前に貼っていったステッカーを見に来た中学生

―そんな昔ながらの感じを味わえるのも、もうすぐ終ってしまいます。31日はどんな感じに?

石塚 一応、ライブはやるんですけど、有名な人を迎えてみたいな感じではないですね。そういう人たちは大晦日よりも前にちょくちょく出てくれたので。おかげさまで、閉店を発表してから、もう一度JAMのステージに立ちたいとか、最後にイベントをやりたいとか連絡をくれる人たちも多かったんですよ。

―ちなみに有名どころだと?

石塚 もう終わっちゃいましたけど、さっきも言ったThe Collectorsは12月24日に、大槻ケンヂさんは27日に出演してくれました。あと、KERAさんとかデキシード・ザ・エモンズとか。スピッツ、エレカシ、ブルーハーツ周りはNGになっちゃいましたね。

様々なバンドのステッカーに囲まれるスピッツのステッカー。古すぎて、もはや壁に同化している

―そういえば、さっきも中学生がスピッツのステッカーを見たいと来てましたよね。

石塚 結構、来るんですよ。店の前で記念写真を撮って帰る人とか。ステッカーは楽屋のほうにあるので、ライブをやってる時は見せられないけど、それ以外の時間なら大丈夫なので、見たい人は31日までに足を運んでもらえれば。

―閉店の瞬間はどんな感じで迎えたいですか?

石塚 僕、最近ずっと酒をやめてるんですよ。やっぱり酒飲んだ次の日はしんどいじゃないですか。最後だし、しんどい顔でみんなに会いたくないなと。だから、12月31日のライブが終わった時にキュッと飲もうと思っていて。

―その酒は最高においしそうですね!

石塚 その瞬間が楽しみなんですよ。そこで「さようなら、新宿JAM!」と言いたいですね。

(取材・文/田中宏)