ルヴァンカップに続き、天皇杯も優勝したセレッソ大阪

「ルヴァンカップと天皇杯で優勝し、リーグ戦でも3位に入ることは簡単なことではありません。これは誰かひとりの力で成し遂げたものではなく、大勢の皆さん、全選手、全スタッフ、セレッソに関わる全ての皆さんが力を合わせた結果だと思います」

2018年元日。試合後の記者会見でそう語ったのは、延長戦の末に2-1で横浜F・マリノスを破ってクラブ史上初となる天皇杯優勝に導いたセレッソ大阪率いるユン・ジョンファン監督である。

エースの杉本健勇を負傷で欠くものの、下馬評では圧倒的にセレッソ有利と言われた今回の決勝戦。しかし、いざ蓋を開けてみれば、マリノスが開始8分に伊藤翔のゴールで先制し、その後もマルティネスを中心に素早いカウンターから何度かチャンスを作った。逆にセレッソは、エンジンがかからないまま前半を終えることとなった。

ただ、「(柿谷)曜一朗とも、チャンスは来るから慌てずにやろうと話していた」と山村和也が試合後に語ったように、セレッソが焦りの様子を見せることはなかった。むしろ後半に入ると、時間が経過するとともにセレッソの躍動ぶりが目立ち始め、マリノスに疲れが見え始めた後半65分、同点に追いつく。ネットを突き刺したのは、スタンドで見守る杉本に代わってトップに入った山村だった。

そして1-1で迎えた延長前半95分、左サイドから山村が入れたクロスをファーで水沼宏太が頭で合わせ、ついにセレッソが逆転。結局、終了のホイッスルが鳴るまでセレッソの運動量が落ちることはなく、120分の激闘に終止符が打たれた。

ユン監督は「予想した以上に厳しい戦いになりました」と試合を振り返ったが、この持久戦に持ち込む展開こそ、今季のセレッソを象徴するものだったと言えるだろう。しかも、この試合でゴールを決めたのが今季のセレッソを象徴する山村と水沼だったという点も、シーズンを締めくくるに相応(ふさわ)しい結末でもあった。

就任1年目にしてセレッソにふたつのタイトルをもたらせたユン監督は一体、セレッソの何を変えたのか?

試合後の会見でその核心に迫る質問を受けた本人は「昨日も同じ質問を受けましたが、逆に皆さんに質問してみたいです。我々の選手たちは何が変わりましたか?」とはぐらかしながらも、次のように答えている。

「要因としてひとつ挙げるとすれば、勝とうとする姿勢。自己犠牲を惜しまず、献身的に走り、最後まで諦めない姿を見せることが、一番変貌(へんぼう)したところだと思います」

2冠に満足せず、早くも新シーズンに視線

キャプテンの柿谷を筆頭に、清武弘嗣、山口蛍、杉本などテクニックに優れた日本代表クラスのタレントを擁するセレッソは、それまで好不調の波が激しいことがチームとしての大きな課題とされていた。実際、2013年にタイトルまであと一歩というところに迫りながら、初優勝が期待された翌シーズンに一転、歯車がかみ合わないままJ2降格を強いられたこともあった。

つまり、ユン監督はそこにメスを入れるところからチーム作りを始めたのである。開幕前のキャンプから3部練習で選手の肉体と精神を鍛え上げ、才能豊かなタレント軍団を勝つためにハードワークを惜しまない“戦う軍団”に変えることを最優先。その厳しい指導によって、セレッソは勝利への執着心に満ち溢れるチームへと変貌を遂げたのだった。

例えば、かつてサガン鳥栖時代にユン監督の指導によって飛躍的な成長を遂げ、今季FC東京からレンタルで加入した水沼は、現在のセレッソを象徴する選手のひとりとなった。確かにテクニックの部分では他のチームメイトに劣るかもしれないが、ユン監督は常に献身的かつ最後まで諦めずに走り続けるプレースタイルをチーム全員に求めている。この試合の決勝点も、水沼の諦めない姿勢によって生まれたと言っていい。

また、ユン監督によってトップ下にコンバートされた山村もチームに欠かせない存在としてブレイクを果たした。それまで守備的MFを本職としていたが、開幕前のキャンプ中に山村の高さと強さを前線で生かせることを見抜くと、結果的にその起用が大当たり。柿谷や清武という国内屈指のトップ下を擁しながら、敢えて山村をトップ下に置いたことが目指すサッカーを象徴している。

才能溢れるタレントたちが、最後まで諦めずに勝利を目指して走り続ければ、勝てないわけがない。かつて鳥栖をJ1の常連チームに仕立て上げたユン監督を招へいした時点で、今季のセレッソの成功は約束されていたのかもしれない。

「現役時代に優勝できなかった天皇杯で、指導者になって優勝できて感激しています。でもこれがすべてではないですし、もう1ヵ月後には来季が始まります。早く休んで体を回復させて、来季に向けていい準備をしないといけないと思っています」

2000年から3シーズンに渡ってセレッソでプレーしたユン監督は、今季果たした2冠に満足することなく、早くも来季に視線の先を向けた。

天皇杯初優勝の余韻に浸りつつも、“勝って兜の緒を締める”頼もしい韓国人指揮官は、2018年シーズンでチームをどのように進化させるのか。少なくともユン監督がチームを率いる限り、セレッソが過去と同じ過ちを繰り返すことはないはずだ。

(取材・文/中山 淳 撮影/藤田真郷)