ねじ曲げられた事実が拡散していくと語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがSNSなどの普及から見た、ヒラリー・クリントン氏の「ウラニウム・ワン疑惑」について語る!

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元来、人は信じたいものしか信じないーーこのコラムで何度も指摘してきたことですが、その"習性"が、SNSなどの普及でより強固になっていると感じさせられた1年でした。日本でも、マスメディアまでもが数字(視聴率や部数)欲しさにその流れに迎合し、事実がねじ曲げられることが往々にしてあります。

それをあらためて実感したのが、ヒラリー・クリントン氏の「ウラニウム・ワン疑惑」に関する騒動です。詳細は後述しますが、この疑惑ははっきり言えば単なる陰謀論。しかし最近、トランプ政権とその提灯(ちょうちん)持ちの極右メディアが、まるでイカが墨を吐くように自身の疑惑から世間の目をそらせようと、過去のヒラリー氏の疑惑を蒸し返している...という構図があります。

先日、僕はこの問題を日本のあるTV番組で解説することになったのですが、正直言って困ってしまいました。あまりにもワイドショー的で真実が置き去りにされた"物語"に逐一、反論しなければならなかったからです。

ウラニウム・ワン疑惑とは、オバマ政権時代の2010 年、カナダのウラン採掘企業であるウラニウム・ワンを、ロシア政府の原子力機関が買収したことに端を発します。アメリカのウラン鉱脈の5分の1を保有していた同社の買収を、当時のヒラリー国務長官が強く推し進め、その見返りとして「クリントン財団」は同社の大株主から多額の献金を手にした―という"物語"です。

この陰謀論は、15年に『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』が記事にしたことで広く知れ渡りました。当時はヒラリー氏が大統領選挙への出馬を表明するタイミングでしたから、NYTはその注目度に乗っかることで記事が「ウケる」と判断したのでしょう。極右メディアの編集長による『クリントン・キャッシュ』という乱暴な内容の書籍をもとに、この"ネタ"を拾い上げたのです。

ところが、ネット上に公開された記事はいつまでも残ります。トランプ氏は昨年の大統領選でも、そして現在もNYTのこの記事を頼りにヒラリー氏を攻撃し続けている。前述の日本のTV番組でも、ウラニウム・ワン疑惑は「あのNYTも認めた」という売り文句で紹介されました。

NYTはつい先日、元IAEA(国際原子力機関)大使によるオピニオン記事を掲載し、ウラニウム・ワン疑惑をファクトベースで検証した上で明確に否定しましたが、もはや後の祭り。アンチ・ヒラリー派に根づいた風評は覆りません。

ごく小さな綻ほころびが瞬時に広がり、ねじ曲げられた事実が拡散していく

番組終了後、ツイッター上では「クリントン擁護派のモーリーは信用できない」といった声がいくつも上がりました。それに対し、僕は「これだけの根拠があります」と、英語記事のリンクを張ったり日本語訳をしたりと、20ツイートほどの反証を行ないましたが、それも読まずに攻撃してくる人もいた。なるほど、"post-truth"はこうして生まれるのか...と身をもって知った次第です。

凋落(ちょうらく)を食い止めようとセンセーショナリズムに走る大手メディア、そこに寄生するネットメディア、それを娯楽的に消費する人々。この時代においては、ごく小さな綻(ほころ)びが瞬時に広がり、ねじ曲げられた事実が拡散していくのです。メディア関係者はそれを肝に銘じるべきでしょう。

Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日本テレビ)、『報道ランナー』(関西テレビ)、『教えて!NEWSライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送)、『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)などレギュラー・準レギュラー出演多数。 2年半に及ぶ本連載を大幅に加筆・再編集した新刊『挑発的ニッポン革命論煽動の時代を生き抜け』(小社刊)が好評発売中!!

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