「今年の安倍首相は、国会での盤石な体制を背景に悲願の憲法改正に向けて着々と準備を進める」と予測する古賀茂明氏

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、2018年の安倍政権で要注意の法案と政策を斬る!

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2018年は国政選挙などの大型選挙がない。

こういう年の政権は大抵、国民に不人気な法案や政策を押し通そうとする。それで批判を浴びて支持率を落としたとしても、選挙に響くことはないからだ。

では、6年目に突入した第2次安倍政権はどうだろうか? 予想してみよう。

■「憲法改正」実現のカギを握るのは……

最大のものは安倍首相の悲願である憲法改正の発議だ。現在、改憲メニューとして浮上しているのは「9条改正」「教育無償化」「緊急事態条項の創設」「参議院選挙の合区解消」の4つだ。そのなかで首相が力を入れているのは9条改正である。

現在、9条改正について、自民党内ではふたつのプランが対立している。ひとつは「戦力不保持」を定めた2項を削り、自衛隊が「軍隊」であることを明確にした条文を加える案。もうひとつは1項、2項を残したまま、自衛隊の存在を明記する“3項”を追加するだけという首相案だ。

とはいえ、発議後の国民投票で否決となれば、内閣は総辞職モノだし、その後しばらくは改憲などできなくなる。そのリスクを避けるためにも、最後は比較的マイルドな首相案が承認され、発議されることになるはずだ。

残りの3つのメニューでは、教育無償化にゴーサインが出る確率が高い。教育無償化は維新が熱心に主張する改憲項目。官邸はその意向を受け入れて維新との蜜月関係を築き、その後の改憲発議や国民投票を乗り切る腹積もりだろう。

ただ、問題なのは発議のタイミングだ。通常国会では自民党内で9条改憲案を取りまとめるのが精いっぱいで、発議は早くても秋の臨時国会になるだろう。

ここで留意すべきことがある。19年7月の参院選だ。国民投票法は発議から60日以後180日以内の投票実施を義務づけている。つまり、今年秋に発議すれば19年春頃にまで投票がずれ込む可能性があるのだ。直後の夏に参院選を控えていることを考えると、あまりに慌ただしい。

そこで、発議は19年の通常国会にずらし、参院選と国民投票は同時に行なうという案が出てくる。ふたつを同日に行なうことで、税金の支出額も抑えられるし、国民の負担も小さいというわけだ―と、ここまでは誰でも考える。しかし、私の予想は違う。

まず、これと絡む重要なテーマについて話したい。それは消費増税だ。

スーパー好景気を利用した重大なシナリオ

次の消費増税は19年10月に予定されているが、正式な実施の決定は今年の12月初めまでに行なう必要がある。12月末の予算編成前に19年度にどれくらいの税収が入るかを試算しなければならないからだ。

その際、安倍政権はまたもや“増税延期”をぶち上げるのでは? というウワサもある。19年10月増税だと、その直前の夏の参議院選に悪影響を与えるという理由だ。

しかし、これは正しくない。なぜなら、増税前には駆け込み需要のピークが来るからだ。14年4月の8%への増税直前と同様、駆け込み消費で車や住宅、家電などの高級消費財が売れて、「スーパー好景気」のなかで選挙ができるのだ。そうなれば、安倍政権への好感度はもちろん上昇するだろう。それは、憲法改正案承認の弾みとなる。

だが、10月の増税後は反動減で消費は停滞、建築・土木関連の五輪特需は19年夏がピークとされており、その後は落ち込む。

ここまで考えると、あるシナリオが見えてくる。それが、スーパー好景気を利用した参議院選、改憲の国民投票と衆議院解散総選挙のトリプル実施だ。そんなことをやられたら、野党はとても十分な数の候補者を立てられない。

また、改憲を問う国民投票では、宣伝のための経費に上限がない。自民党は湯水のごとく金を使ってPRするだろう。それは改憲のためという名目だが、事実上、選挙活動にも使われる。自民党絶対有利の展開になるはずだ。

衆参同時勝利で改憲も成功となれば、一石三鳥。安倍総理の勢いは頂点に達するだろう。しかもその後、3年間は選挙がないから、日本を好きなように変えられる。その先には、21年の自民党総裁4選の目も出てくるだろう。

今年は森林環境税、出国税などの増税法案成立も控えている。まさに増税決定ラッシュの年となりそうだ。

原発維持を実現する“トリッキーな手法”

■原発維持を実現する“トリッキーな手法”

安倍政権はベタ遅れとなっていたカジノ実施法も今年に必ず成立させる。20年の東京五輪後は公共工事などの発注減で、日本経済の落ち込みが心配される。その落ち込みをカジノ経済でカバーしようというのだ。まずはギャンブル依存症対策法案を春先までに成立させ、通常国会が終わる6月下旬までにはカジノ実施法が仕上がるだろう。

原発維持のため、電力会社の経営をサポートする悪法も上程されることになりそうだ。

安全対策や核ゴミ処理などのコスト増で、電力会社は原発の維持に四苦八苦している。そのため、電力会社が原発で赤字を出さないで済むよう、原発事業の赤字補填(ほてん)や事故時の損害賠償上限設定などを可能とする法案が政府内で検討されているのだ。

ただ、バカ正直に法案を出すと、国民の猛反発を受ける恐れがある。だから、例えばこんなトリッキーな手法を繰り出してくるのではないか? まずは現行の「地球温暖化対策基本法」の改正など、一見、原発と関係のない法案を提出する。その上で原発サポート法案をこれに紛れ込ませ、一本化して成立させるのだ。その先に待つのは原発の新設、更新である。

最後に、安倍政権に実施してもらいたい政策を述べよう。日本はEV(電気自動車)シフトに大きく出遅れた。このままでは各国が成長戦略の目玉としてしのぎを削るEV市場で、日本が敗者となるのは必至。せめて排ガス規制を強化するなどして、EV普及を促す新法くらい作ってみたらどうなのか? そのほうがずっと国民の役に立つ。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中