12月15日未明、長野県上伊那郡中川村大草の県道で建設中のトンネル上部の斜面が崩落。クルマが土砂に突っ込み、バンパーがへこむ事故もあったが、幸いけが人は出なかった。

昨年末、大手ゼネコン4社の不正受注調整が明るみに出た「リニア中央新幹線」。JR東海は2027年の開業への影響を否定、工事続行を表明した。

しかしその直後、長野県中川村で進んでいたリニア関連のトンネル工事現場付近で土砂の崩落が発生! 住民生活に大きな影響が出ているという。現地在住のライター、宗像 充(むなかた・みつる)氏が緊急レポートする。

■村の温泉宿の売り上げが激減!

「あまりにも素人の仕事。これで本当に南アルプストンネルなんか掘れるのか…」

土砂の崩落があった現場に近い、長野県大鹿村(おおしかむら)に住む紺野香糸(こんの・かいと)さん(38歳)はあきれ顔でこう漏らす。事故は、不正受注疑惑でJR東海の柘植康英(つげ・こうえい)社長が会見したわずか2日後の12月15日に起こり、村へ通じる県道は全面通行止めになった。

筆者は一昨年9月から大鹿村で暮らしている。山間の村での暮らしは災害と隣り合わせ。崩落が起きた県道は、以前にも土砂崩れや落石が起こっている場所だ。

人口約1千人の大鹿村は、リニア中央新幹線「南アルプストンネル」の長野県側の起点だ。隆起の激しい、断層・活断層が複数横切る南アルプスを25kmにわたって掘削するため、このトンネルは難工事といわれている。

また掘削工事では、大量の土砂が生じる(大鹿村では東京ドーム2.4個分)。それを運搬するダンプカーが通行できるよう、県道の拡幅工事が先行して進んでいた。

今回、崩落が起きたのはこの県道だ。拡幅工事の一環で新たに建設されていたトンネル外側の斜面が、開通まで残り13mのところで崩落し、土砂が県道をふさいだ。JR東海は事故原因を、掘削時の発破(火薬を仕掛けて岩石を爆破すること)作業の振動だとしている。

事故の影響は、まずガソリンスタンドに表れた。「特売中止」の看板が出されたのだ。村内のガソリン価格は村外と比べると割高だが、水曜は特売日で村外の安めのスタンドと同程度の価格となる。

しかし、ガソリンなどを運ぶタンクローリーは迂回(うかい)路(通行止めになった県道とは別の細い峠道)を通れず、村ではガソリン不足が生じたのだ。週に1度の特売を心待ちにしていた筆者も、正月を前に泣く泣く10円割高のガソリンを給油した。

「売り上げは例年の半分です…」

大鹿村から望む南アルプスの赤石岳。南アルプストンネルは、隆起の激しい断層や活断層が入り組む山脈を25kmにわたって掘削する難工事。

また、いくら薪(まき)ストーブで暮らしている住民がいるといっても、冬場に灯油がなくなれば緊急事態だ。

村で温泉宿を経営する平瀬定雄さん(49歳)は「灯油のタンクが満杯にならない。温泉を沸かすにも必要だし、設備が凍結すれば営業もできなくなる」と危機感を募らせる。

筆者が訪れたとき、照明を切った宿のロビーは閑散としていた。「今日も宿泊客がない。あの迂回路を来てくれとも言えない。いつ復旧するかわからず予約は受けられない。年末年始は書き入れ時なのに、売り上げは例年の半分です…」と平瀬さんは嘆く。

袋小路に追い込まれたかのような不安を抱いた筆者は、初めて村外で灯油をまとめ買いしたのだが、隣の松川町までは片道約18kmで40分ほどかかる上、迂回路経由で距離はさらに延び、その分、ガソリンも食うハメになった…。

◆『週刊プレイボーイ』5号「リニア新幹線ずさん工事に住民大迷惑ルポ」では、仮復旧された現地の様子や事故の原因について、さらに詳しく掲載。そちらもお読みください!

(取材・文・撮影/宗像 充)