昨季、ブラジル1部リーグを制したコリンチャンスのエースとして活躍したジョー。代表復帰を果たすためにも、名古屋で存在感を示したいところだ。

J1復帰を決めた名古屋グランパスにブラジルの超大物ストライカーが加わった。その名は、ジョアン・アウヴェス・デ・アシス・シウヴァ(30歳)。通称“ジョー”だ。

ジョーは、昨年のブラジル1部リーグ得点王であり、MVP。その活躍ぶりから、イタリア・セリエAのナポリをはじめとする欧州クラブや、中国のクラブなどからオファーが殺到した。しかし、名古屋が契約金約12億円、年俸約3億5千万円(いずれも推定)の3年契約という条件で争奪戦を制したのだ。

身長191cm、体重96kgの「高さ」と「強さ」を生かした空中戦が武器で、ポストプレーも巧み。大柄ながら俊敏で、最終ラインの裏へ抜け出し、落ち着いてシュートを決める。利き足の左だけでなく、右足と頭でも点が取れるオールラウンドタイプだ。このクラスのブラジル人選手が日本に来るのは、2000年代前半に東京ヴェルディや浦和レッズでプレーした、エジムンド以来だろう。

そんなジョーのキャリアは、まさに“波瀾万丈”だ。

ブラジルの名門クラブであるコリンチャンスの下部組織で育ち、03年に16歳でトップチームデビュー。その2年後にCSKAモスクワ(ロシア)に移籍してゴールを量産し、08年にはイングランド・プレミアリーグの強豪マンチェスター・シティに移籍金40億円で入団した。

順調にキャリアを重ねていたが、イングランドではブラジルとのプレースタイルの違いから力を発揮できず、11年に失意の帰国。インテルナシオナルの一員となるも、欧州で失敗したストレスを酒で紛らわせるようになり、12年にチームから戦力外通告を受けてしまう。

一度は国内の強豪アトレチコ・ミネイロに拾われ、ロナウジーニョと共演して貴重なゴールを決めるなど、ブラジル代表にも選ばれた。それでも、14年のブラジルW杯では3試合に出場したものの不発。再び酒の力を借りるようになり、15年に再び戦力外を言い渡されることになる。

その後は、UAEのクラブを経て中国のクラブへ入団したが、ここも5ヵ月で退団し、「すでに終わった選手」とも揶揄(やゆ)された。だが、妻の勧めでキリスト教プロテスタントの福音派教会に通うようになると一変。練習に励んで体調を回復させ、16年末に2年契約を結んだ古巣コリンチャンスで大爆発したのである。

熱狂的なコリンチャンスのサポーターは、代表復帰も噂されるエースの日本流出に「昨年に国内王者になって、今年は南米王者や世界王者を目指すべきなのに、首脳陣は何を考えているんだ。ジョーがいなくて誰が点を取るのか」と激怒。一方で「ジョーは本当によく頑張った。金の力には勝てないよ」と嘆く声もあり、彼を“略奪”する形となった「名古屋グランパス」の名は、ブラジルでも有名になった。

ジョーが名古屋でゴールを量産するためには、日本での生活とチームが求めるプレースタイルへの適応、チームメイトとの連携の構築が欠かせない。しかし、風間八宏(やひろ)監督が目指す超攻撃的スタイルにハマれば、名古屋が今年の台風の目になるかもしれない。他クラブのサポーターも、この規格外の点取り屋のプレーを見ておいて損はないだろう。

(取材・文/沢田啓明 写真/ゲッティ イメージズ)