国内はもちろん、海外でも人気上昇中のスーパーGT

「僕はこれまで17年間、F1で戦ってきましたが、今年からスーパーGTに参戦することを決めました。ホンダとともにスーパーGTで戦うことを決断したのは、軽い気持ちからではありません。僕は10年以上も前から、このシリーズに注目していてファンだったんです。

F1を引退した後、スーパーGTで走ることは僕にとって次の目標でした。今、その夢が実現でき、すごく嬉しい。子どものようにワクワクしています。チャンピオン獲得を目指して全力で戦います。ガンバリマス!」

ホンダが2018年のモータースポーツ参戦体制を発表した東京オートサロンの会場で、満面の笑みを浮かべて語るのは、2009年のF1世界チャンピオン、ジェンソン・バトンだ。

現在38歳のイギリス人は2016年までマクラーレン・ホンダのドライバーとしてF1にフル参戦していた。昨シーズンは同チームのリザーブドライバーを務め、インディ500にスポット参戦したフェルナンド・アロンソに代わってモナコGPに出走している。

バトンはこれまで300戦以上のグランプリに出場し、優勝は15回。その実績もさることながら、整った顔立ちとフレンドリーなキャラクターで世界中に多くのファンを持つ。そんなスター選手が今季からスーパーGTの上位クラスGT500にフル参戦することになったのだ。

バトンが所属するのは、1950年代から2輪レースで世界を股にかけて活躍し、4輪レース転向後も国内外の様々なレースで優勝を飾った高橋国光氏が監督をつとめる『チームクニミツ』。

元F1王者は、日本モータースポーツ界のレジェントが率いるチームで2013年のスーパーフォーミュラ(SF)王者、山本尚貴(なおき)とコンビを組み、NSX-GTをドライブする。

「1960年代のエキサイティングな時代のオートバイレースで活躍していた高橋国光さんのことはよく知っています。彼のチームで走ることができて光栄です。

ナオキはSFでタイトルを獲得した日本のトップドライバーです。(12月末の)テストでNSX-GTの開発車両を走らせましたが、ナオキはいいアドバイスをくれました。僕もこれまでのレースで培った知見をすべて共有するつもりです。ふたりで協力しあって、クニミツさんにタイトルをプレゼントしたいです」

日本での新しいチャレンジに向けて、意気込みを熱く語るバトン。彼の言葉は決してリップサービスではないという。「JB(ジェンソン・バトン)は本気でチャンピオンを目指しています!」と証言するのは、ホンダの山本雅史・モータースポーツ部長だ。

「彼は真剣なんです」

「JBは一昨年のイベントで初めてスーパーGTのNSXに乗りました。その後、『スーパーGTのレースに出てみたい。鈴鹿1000㎞だったらドライバーが3人登録できるんでしょう』とJBからアプローチがあったのです。それで昨年の8月に(第6戦の)鈴鹿1000キロに第3ドライバーとしてスポット参戦してもらったのですが、すぐにシーズンのフル参戦をしたいと言ってきました。

具体的に話を始めたのは昨年秋、F1の日本GPの後です。彼のマネージャーも入れて、正式に話しました。JBはマクラーレンとの契約もあったし、今年に関してもマクラーレンはなんらかの契約をしたかったみたいですが、JBはやらないと。スーパーGTに集中したいということで申し出を断ったようです。それだけ彼は真剣なんです」

F1時代から日本のファンも多いバトン

F1でチャンピオンになる前のミハエル・シューマッハやジャック・ビルヌーブが若手時代に日本のレースに出場した例はいくつもある。しかしF1でタイトルを獲得したドライバーが日本のレースにシーズンを通して参戦するのは今回が初めてのケースになる。それはなぜなのか? 『チームクニミツ』の高橋国光監督は、こう語っている。

「F1のチャンピオンが日本のレースに参戦するということは、私の現役時代にはとても考えられなかったことです。バトンは日本が好きで、国内にもファンがたくさんいることもスーパーGTに参戦する理由のひとつでしょう。でも一番の理由は、日本のレースが大きくレベルアップしたことでしょうね。彼の参戦がそれを証明していると思います」

高橋監督の言葉を裏付けるように、バトン本人はスーパーGTのレベルの高さについてこうコメントしている。

「スーパーGTには世界中の自動車メーカーだけでなく、素晴らしいドライバー、エンジニア、タイヤメーカーが参戦していて、本当にレベルが高い。他とは比べるものがない、世界最高のGTレースだと思います。

スーパーGTは現在でも高い人気を誇っていますが、その魅力を世界にもっともっと広げていきたいです。そのために僕も少しでも貢献できればと思っています」

前身である全日本GT選手権を含めると今年で25年目のシーズンを迎えるスーパーGT。バトンの参戦で日本のファンはすでに大いに盛り上がっているが、その熱気は世界にも広がっていきそうだ!

(川原田剛/取材・文 池之平昌信/撮影)