長妻昭政調会長は、与党・民主党時代は厚労相を歴任。「消えた年金問題」を追及したことで、「ミスター年金」と呼ばれた。

昨年12月28日、立憲民主党は党の「基本政策」を発表。「国のかたち」「外交・安全保障」「暮らしの安心」など7つの柱を立て、「原発ゼロ基本法の制定」「共謀罪の廃止」「国家公務員の天下り規制の強化」など、全89もの政策を掲げた。 

だが現在、この基本政策のひとつが波紋を呼んでいる。それは「公務員の人件費」に関する政策だ。

果たして、立憲民主党がこの政策をぶち上げた真意は? キーマンを直撃した!

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■本当に公務員の人件費は高いのか?

基本政策は立憲民主党のツイッターでつぶやかれていることもあって、特に「公務員の人件費」に関する項目は、ツイッター民を中心にこんな反論が殺到した。

「日本の公務員の給与は11年連続OECD最低。なのに、給与削減って、理解できん!」「むしろ非正規公務員の待遇を改善するなど、社会全体の人件費を上げるべきでは?」「デフレ圧力が強くなるだけ」

こうした批判の声に答える形で枝野幸男代表は、1月10日、ツイッターにこんな投稿をした。

「少し言葉足らずでご心配をおかけしています」

「問題点に気づかず、皆さんにご指摘いただいたことを真摯(しんし)に受け止めたいと思います。『非正規を中心とした公的サービスを担う低賃金の皆さんの処遇改善と賃金底上げ』を繰り返し訴えていたため、その前提の中で受け止めていただけるという思い込みがあったと反省しています」

だが、その後も批判の火はくすぶり続けた。例えば元大蔵官僚の高橋洋一嘉悦(かえつ)大学教授は「立憲民主党の公務員人件費カットの基本政策は、旧民主党時代からの代わり映えしない劣化コピー」(1月16日付、夕刊フジ)と噛みついた。

公務員改革に詳しい元経産官僚も「単なる人気取りの政策なのでは?」との疑問を口にする。

「公務員の給与カットは国民に人気の高い政策ですが実際にやろうとすると、立憲民主の場合、支持母体である連合の自治労から苦情が出かねない。そこでミソとなるのが『労働条件を交渉で決める』という文言。公務員に労働基本権を認めるなんて、労組嫌いの自民など、保守派は絶対に認めない。だから自治労には『成立することはないから安心して』と説明できる。一方で、国民には立憲民主の支持率アップのためのアピールができる、という寸法です」

こうした見立ては本当なのか? 政調会長として党の基本政策をまとめた長妻昭政調会長に、「公務員給与削減」政策の真意を聞いてみた。

給与アップは国民負担が増えることを意味します

■政権奪取後に実現する政策

―なぜ、党の基本政策に公務員の給与削減を掲げたのでしょうか?

長妻 政策の後段にある“人件費削減”という部分だけがクローズアップされていますが、私たちとしてはむしろ前段の“労働基本権の回復”という部分に大きな問題意識を抱いているんです(*1)。ヨーロッパ諸国などでは公務員の労働基本権が認められているのに、どうして日本では認められていないのか? ILO(国際労働機関)からはこうした状態は是正すべきとして、これまで10回も勧告が出ている。そのことを重く受け止めた結果、基本政策の「国のかたち」に入れることにしたんです。

(*1)賃金労働者に対して憲法上認められている基本的な権利。その中でも①団結権、②団体交渉権、③団体行動権(争議権)は労働三権と呼ばれる。しかし、公務員は職種によって三権の適用に制限がかかる。例えば、警察、消防、自衛隊などは三権すべてが×。非現業公務員(官僚など公権力に直接関わる仕事)は②は一部制限、③は×。そのほかの公務員も③は認められていない。

―確かに枝野代表も「政策のポイントは(公務員の)労働基本権の回復と労使交渉による労働条件の決定という憲法的価値の実現です」とツイッターに投稿しています。ただ、労使交渉を認めれば、普通は賃金アップにつながると誰もが考える。なのに、給与削減を目指すとなっている。なんだか、政策の前段部分と後段部分が矛盾しているように見えます。

長妻 民間企業は労使が合意すれば、賃上げができます。でも、公務員の場合、労使間で合意が成立したからといって、野放図に給与アップをしてもいいのか? 公務員の給与の原資は国民の血税であり、給与アップは国民負担が増えることを意味します。そう考えると労使が合意したからといって、公務員の給与をどんどん上げてもよいとはならない。公務員の賃上げには慎重さが求められるべき。そうした政治的メッセージとして、政策の後段に「人件費削減を目指します」と入れたんです。

―官界の一部からは「立憲民主の公務員給与削減政策は人気取りのための政策だ」という声も聞こえてきますが。

長妻 それは絶対にありません。そもそも、公務員に労働基本権を認めるというのは世界の常識。だから、ILOも日本に何度も勧告を発しているんです。

―「労働条件を交渉で決める仕組みを構築する」という文言は、自治労といった支持母体に対して「政策が絶対に成立しない」と担保するためのもの、という評もあります。

長妻 その見立てはちょっと意地悪すぎる。確かに公務員に労働基本権を与えることに否定的な自民が政権にいる限り、この政策が日の目を見ることはないかもしれません。でも、基本政策はわが党が政権に就いたときに実現したい政策を列挙したもの。立憲民主が政権を取れば、実現できると確信しています。

―「官製ワーキングプア」という言葉があります。給与削減を目指すという文言が、現在60万人台後半にまで増加した非正規公務員の処遇をさらに悪化させるということはありませんか?

長妻 それもありません。なぜなら、私たちは基本政策で「同一価値労働同一賃金の実現」も主張している。非正規公務員は正規の公務員と同じ仕事をしながら給与は低い。その不公平は解消されるべきでしょう。一律何万円給与を削減するというのでなく、非正規職や介護、保育部門などではペイを増やすという選択もありえる。そうした是正は政府に任せるより、むしろ労使交渉に任せたほうがスムーズに進むと期待しています。

「新しい公共」にふさわしい公務員の働き方を決める

■立憲民主が掲げる「新しい公共」

―公務員に労働基本権を認めると、人事院(*2)が不要になる。

(*2)国家公務員の人事管理や給与に関する勧告などを行なう中央人事行政機関。労働基本権の制約に対する代償として、公務員の福祉や利益を図ることが同機関の目的のひとつ。

長妻 そうなる可能性もありますね。この政策で私たちが一番訴えたかったことは給与だけでなく、公務員の働き方も労使で交渉して決めるような仕組みを作らないといけないということなんです。人事院の勧告で公務員の処遇が一律に連動して決まるような形では、これからの少子高齢化時代に対応できなくなる恐れがある。

―公務員に労働基本権を認めることや、総人件費の抑制が少子高齢化社会への対応とどうつながるんですか?

長妻 これからは若い人が少なくなる一方、高齢者が激増します。しかも地縁、血縁、社縁が薄れ、無縁社会化が進んでいます。地域や会社などでの支え合いが失われようとしているんです。そんな時代に、これまでと同じようにすべての公共サービスを公務員に任せていたら、膨大な人員と予算が必要となる。これからは公務員だけでなく、NPOや市民団体、PTA、保育所、介護施設、消防団、商店会、さらにはコンビニ、宅配所、新聞配達所など、地域の実情をよく知る多様なプレイヤーにも地域での支え合いに参画してもらいたい。そして公務員はその地域での“支え合いを支える”という「新しい公共」のモデルを構築する事務局の機能を担うのです。

―公務員の働き方、あり方を変えてゆくためにも労使交渉が必要ということですか?

長妻 ええ。政府が一方的に決めるのでなく、労使が納得して「新しい公共」にふさわしい公務員の働き方を決めることが大切。そうして地域の小学校区単位ごとに地域包括ケアシステムを大幅に拡充し、「新しい公共」の拠点を構築してゆく。それが立憲民主党が考える少子高齢化社会を克服する日本型モデルです。

―では最後に、公務員の給与削減政策以外にも立憲民主党の基本施策で反響の大きかったものを聞かせてください。

長妻 どの地域でも最低賃金時給1000円という政策は、全国的に手応えを感じています。ドイツは、昨年から全国一律で時給8.5ユーロ(約1165円)を導入した。日本も時給1000円くらいはすぐにでも実行すべきです。ほかにも反響の大きかった「公文書管理の強化」や「情報公開制度の運用透明化」「カジノ解禁阻止」などは議員立法として国会に法案を提出しました。残念ながら、公務員人件費削減政策は批判の声もいただきましたが、公党の政策が広く議論されるのはよいこと。ウエルカムです。しかも、批判があるということは、それだけ多くの国民がわが党の政策に注目してくださっているという証左でもある。本当にありがたいと思っています。

(撮影/五十嵐和博)