「今後、“小泉小委員会”から、政府の要職に就く政治家が増えていくでしょうし、小泉進次郎にとっても大きな転換期になったと思います」と語る藤沢烈氏

2020年の東京オリンピック以降の日本を見据えて、熱い議論を交わしていた若手政治家たちがいたことをご存じだろうか?

2016年2月、小泉進次郎を中心に若手政治家たちでつくられた、自民党「2020年以降の経済財政構想小委員会」、通称“小泉小委員会”だ。

この小委員会は「こども保険」「人生100年型年金」「健康ゴールド免許」など、キャッチーで新しい政策を提言。19年10月から消費税率が10%に引き上げられるが、その増税分から2兆円が子育て対策に支出されることになるなど、安倍政権の決断にも大きな影響を与えた。

そんな彼らの500日に密着した書籍が『人生100年時代の国家戦略 小泉小委員会の500日』だ。著者は小泉小委員会に皆出席し、若手政治家たちと共に走り続けた藤沢烈(ふじさわ・れつ)氏。氏が目撃した小委員会の裏側に迫る!

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―若手政治家が国の未来を憂いて激論を交わす。まるで、『キングダム』や『三国志』を読んでいるような熱さがありました。深夜まで日本の未来について議論したり、徹夜で原稿を作ったり。国を造るってこういうことなんだなと。

藤沢 そう言っていただけると、とてもうれしいです。政治家の会議というと、官僚がお膳立てしてシナリオはすでに決まっていて……というケースもあるようですが、小泉小委員会では議員が中心となって方向性を決め、自分たちの手で運営していました。国会議員って実は意外とお互いのことを知らないものなんですよ。たとえるなら同業他社の同期。同じタイミングで同じ業界に内定したけど普段は会わない、みたいな。最初はお互いに様子を見合っていたところもありましたが、会議を重ねるごとに小泉さんのリーダーシップが際立っていきましたね。

―どういうことでしょうか?

藤沢 彼は小泉純一郎元首相のご子息ですし、一見華やかな印象を持たれる方も多いと思うんです。しかし、実際に接してみると勉強家で体育会系なんですよ。毎日本を読んでいるし、自分の演説をすべて見てダメなところをチェックしたり、演説に生かそうと落語を聴いたり。あまり変わったことをやるタイプではなく、実直に、丁寧に一個ずつ物事を積み上げていくタイプ。そんな姿を見ているうちに、周りが自然とリーダーと認めていきました。

―藤沢さんはどんな経緯で小泉小委員会に参加されたんですか?

藤沢 先にも挙げたように、この小委員会の特色は若手政治家たちが手作りで運営していたところです。ただ現実的には議員だけではこなせないこともあるので、私を含む外部の人間がアドバイザーやオブザーバーといったかたちでお手伝いすることになりました。

この小委員会のおもしろいところは社会保障の議論をしているのに、AI(人工知能)など一見関係のない分野の専門家を特別講師として呼んでいるところ。私自身は復興と地域活性化の専門家なのでそういった面も期待されつつ、役員会にもすべて参加して事務局的な役割も担っていました。

―そうやっていろんな価値観の人が集まって提言がかたちづくられていったわけですね。ただ、小委員会で挙げられた「人生100年型年金」という提言は、正直キャッチーだと思う半面、個人的にはドキッとして。これからは100年生きる時代だぞ、だからできるだけ長く働けよ、ということを突きつけられたというか。

藤沢 そうですよね。頼もしいと思う人がいる一方で、怖いと思われるのも想定していました。

大きな反発もあった「こども保険」

―団塊世代以前の人たちは2020年の東京オリンピックで「上がり」という感覚なのかもしれないけど、それより下の世代はまだまだ現役なわけですし。

藤沢 実際、委員会ではそういった危機感もありました。メインメンバーは皆30代から40代だったので、彼らは東京オリンピックに向けて盛り上がっていくというよりも、その後の“反動”を意識していたんです。小泉さんがずっと言っていたのは、「政治家というのは、社会の希望を感じさせる言葉を投げかけないといけない」ということ。そのためには現実を直視しなければならないので、提言だけを見ると雇用の流動化や年金支給のあり方の見直しなど、厳しいことも書いてあるんです。

―なかでも「こども保険」は構想の発表と同時に、大きな反発を受けました。

藤沢 高齢者以上に現役世代の反対が多かったのには、驚くと同時に納得させられましたね。今の現役世代ってずっと給料が上がらないまま、保険料だけが上がっている。そこで苦労しているからこそ、現役世代のみ現行の保険料に上乗せされて財源が確保される「こども保険」には反発がありましたし、本当に子育てに使われるのかという不信感もありました。

一方で、こういう政策って実現するのに10年くらいかかるものなのですが、大胆な提言をしたことで一気に議論が進んだのも事実だと思います。現時点で「こども保険」はまだ実現できていませんが、消費税を子育てに充てることになったり、企業からの拠出金が増えたり、規模感的には「こども保険」と同じくらいの政策につながりました。

―とはいえ、少子化対策は国家レベルでやっていくべきこと。「こども保険」に反対する人というのは、個人的には感覚が古い気もします。

藤沢 私はまったくそうではないと思っていて。むしろ、増え続ける保険料や税金に対して、国や政府が何も説明していないのが問題なのだと思います。年金は大丈夫なのか、保険料はなぜ払わないといけないのか、なぜお年寄りばかり厚遇されているのか。こういった疑問に対して、納得できるような発信が十分になされていないんです。小泉小委員会に参加した若手政治家の皆さんには、ぜひこういう問題に正面から向き合ってもらいたいですね。

―特に小泉進次郎議員にかかる期待は大きいでしょうね。

藤沢 彼にとっても、小泉小委員会は大きな転換期になったと思います。もともとほかの議員と交流がなく、電話番号も交換したことがなかったそうですが、この500日を通じて政治理念でつながったチームができた。「青春」といってはなんですが、彼らが今の年齢、キャリアだからこそ、こうした異色の小委員会が成り立ったのだと思います。今後、小泉小委員会から政府の要職に就く人が増えていくでしょうし、貴重な一冊になったと思っています。

(取材・文/テクモトテク)

●藤沢 烈(ふじさわ・れつ)1975年生まれ、京都府出身。小泉小委員会オブザーバー、一般社団 BOOK法人RCF代表理事、新公益連盟事務局長。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立し、NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、RCF復興支援チーム(現・一般社団法人RCF)を設立し、情報分析や事業創造に取り組む傍ら、復興庁政策調査官、福島県「東日本大震災・原子力災害アーカイブ拠点施設有識者会議」委員、国土交通省「まちづくり活動の担い手のあり方検討会」委員を歴任。総務省地域力創造アドバイザー、復興庁「新しい東北」復興・創生顕彰選定委員、釜石市地方創生アドバイザーも兼務

■『人生100年時代の国家戦略 小泉小委員会の500日』 (東洋経済新報社 1500円+税)2016年2月、自民党の若手政治家たちが集まって結成された「2020年以降の経済財政構想小委員会」、通称“小泉小委員会”。全体コンセプトの「レールからの解放」に基づき、現代の閉塞感をぶっ壊すべく500日間にわたって激論が交わされ、そこで生まれたさまざまな政策は安倍政権にも影響を与えた。「将来の首相」と呼び声の高い小泉進次郎とその仲間たちの闘いと成長を、新世代のオピニオンリーダー、藤沢烈氏が描く