記録と記憶に残るプレーで多くのファンを魅了したロナウジーニョ。元チームメイトのみならず、新旧のレジェンドたちから引退を惜しむ声が届いた。

2015年にフルミネンセ(ブラジル)を退団し、無所属の状態が続いていたロナウジーニョが、正式に現役を引退することになった。元ブラジル代表の“スーパースター”は、16年7月からインドのプレミアフットサルリーグに出場し、衰えを感じさせないプレーで観衆を魅了していた。それだけに、1月16日に代理人を務める兄のアシス氏から引退が発表されたことに寂しさを覚えたサッカーファンも多いだろう。

今回の発表を受け、バルセロナで共にプレーしたアルゼンチン代表のリオネル・メッシが「フットボールはあなたの笑顔を永遠に忘れない」とコメントすると、ブラジル代表のネイマールも「あなたは超えることが難しい遺産を残してくれた。あなたはフットボールをアートにした」と、37歳でスパイクを脱ぐ母国の先輩に賛辞を贈っている。

02年の日韓ワールドカップでブラジル代表を通算5度目の優勝に導いたほか、バルセロナ時代には2年連続でFIFA(国際サッカー連盟)最優秀選手賞を受賞するなどロナウジーニョが残した輝かしい記録は数えきれない。しかし、ネイマールのメッセージにあるとおり、ロナウジーニョが近代サッカーに残した最も大きな功績は、サッカーを「アートにした」ことではないだろうか。

それを象徴するゴールといえば、05年3月8日のチャンピオンズリーグ準々決勝・第2戦で生まれたスーパーゴールだろう。チェルシーと対戦した試合の前半38分、相手ペナルティエリアの手前でボールを持ったロナウジーニョは、一瞬ダンスを踊るかのように体を揺らして相手DFを惑わす。そして、ノーステップのまま右のつま先でボールをミート。誰も予想できないモーションから放たれた芸術的シュートは、ロナウジーニョの代名詞として世界中のサッカーファンの記憶に刻まれることとなった。

サッカーを芸術にした天才フットボーラー

また、多くの日本人が驚愕(きょうがく)させられたのが、日韓ワールドカップ準々決勝での決勝ゴールだ。イングランドを相手に同点で迎えた後半5分、ブラジルはゴールまで40mの距離でフリーキックを得た。イングランドの名GK・シーマンを含め、誰もがゴール前へのクロスボールを予想していたが…。ロナウジーニョは意表を突いて直接シュートを狙い、見事にゴール左上ネットを揺らしてみせた。

これらの芸術的ゴール以外にも、エラシコやノールックパスといったブラジル伝統のテクニックを、ロナウジーニョはトップレベルの真剣勝負で惜しみなく披露した。そのプレースタイルは、勝利至上主義のもとで“遊び”の部分を排除してきた近代サッカー界に一石を投じた。苦しい場面においても笑顔を絶やさず、サッカーを楽しんでいるロナウジーニョの姿に人々は魅了されたのである。

今夏のロシアワールドカップ後には、ロナウジーニョの引退を記念した世界ツアーが計画されているという。また、すでに歌手デビューを果たしているロナウジーニョは「音楽に関連した新しいプロジェクトを考案中」とコメントするなど、ピッチ外の芸術活動にも本腰を入れる構えだ。

サッカーを芸術にした天才フットボーラーの第二の人生はいかに。“芸術家”ロナウジーニョの魅力は、今後も尽きることはない。

(取材・文/中山 淳 写真/ゲッティ イメージズ)