「ハローワーク事業を民間に開放した上で、職探しと職業訓練をセットで行なうサービスを民間企業にやらせてみるのはどうか」と語る古賀茂明氏

AI(人工知能)が注目されるとともに、「AIが仕事を奪う」という話題にも関心が集まっている。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、AI時代に適応した、より高度な就労支援の必要性について訴える。

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最近、新聞で「AI」(人工知能)という言葉を目にしない日はない。ただ、夢のような話も多いが、一方でAIによって失業が増えるとか、格差が拡大するという負の側面にも関心が集まっている。

2017年4月に発表されたIMF(国際通貨基金)のレポートは、1995年から09年までの労働分配率について分析している。労働分配率とは、ひと言で言えば企業の儲けに占める労働者の取り分の割合だ。このレポートによれば、スキルの高い労働者への分配率は一貫して上昇しているが、スキルが中程度か低い労働者はどんどん取り分が低下している。この傾向は、AIが普及すればさらに強まるだろう。

経産省の試算によれば、AIやロボットなどの最新の技術革新に対応できなければ、30年度には15年度比で735万人分の職がなくなる。

これらのデータが示しているのは、大学や高校の教育によってハイスキルの人材を育てるだけでは、もはや足りないということだ。むしろ、今働いている人をハイスキル労働者にする必要がある。

最近、「リカレント教育」という言葉をよく聞く。これは、青少年の学校教育だけでなく、生涯にわたって教育と就労を交互に行なう教育システムを指す。その必要性については、ほとんど異論はないだろう。

ただ、1月10日付の日経新聞によれば、社員の再教育を企業が負担して行なっている割合を比較すると、日本は主要国の中で最下位だ。1位インド、2位中国、33位日本という結果だという。

企業がその役割を果たさないなら、国や自治体の出番だ。そこで、厚労省が18年度から年間2万人超の非正規労働者らに最長2年間の教育や職業訓練を無料で行ない、栄養士や建築士、高度なIT系の国家資格などを取らせることになった。都道府県がコースを設定し、専門学校などに委託して実施する。

職探しと職業訓練をセットで行なうサービスを

しかし、このままでは問題がある。なぜなら、専門学校は“教育”さえ行なえば、自治体から補助金が給付され、就職実現の成果は問われないからだ。受講者にはハイスキル労働者になるどころか、就職できるという保証もない。

そこで、確実に成果を出す仕組みを考えてみる。一例だが、ハローワーク事業を民間に開放した上で、職探しと職業訓練をセットで行なうサービスを民間企業にやらせてみるのはどうか。

この場合、自治体は成果に応じて報酬を支払う。“教育した”だけではダメで、前職よりも高い給与の企業の正社員に就職させたら合格、というぐらいの厳しい基準を設けるべきだ。

さらに転職が難しい高齢者を正社員にする、単純作業工をIT技術者にする、といった難易度が高い就労支援を達成した場合は増額する、就業の継続期間に応じて、追加のボーナスを出すのもアリだろう。年間査定を通して、成績が悪ければ認可を取り消すといったことも必要だ。ここまでやれば、高スキル人材を輩出する優良企業だけが残る。

もちろん、ハローワークは厚労省の利権なので、民間への開放には強く抵抗するだろう。しかし、これくらいのこと、いやこれ以上のいいアイデアを考えて実行しないと日本の労働者の多くが悲惨な状況に陥る。安倍首相に改革断行の覚悟があるのか。それが問われている。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中