筑波大学で講義をする落合陽一(右)と「ヤバイTシャツ屋さん」の小山拓也(左)

小山拓也はバンド「ヤバイTシャツ屋さん」をギター&ボーカルとして率いるミュージシャン(バンドでは“こやまたくや”名義)であり、“寿司くん”の名義で同名のアニメ『寿司くん』を製作したり、さまざまなミュージックビデオ(MV)を手がけたりする映像作家でもある。

2016年に大きな話題となり、昨年9月には文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門新人賞を受賞した岡崎体育の楽曲『MUSIC VIDEO』のMVも彼の作品だ。

ただ、彼の作品群の独特かつ圧倒的な面白さを語ろうとしても隔靴掻痒の感は免れない。まだ未体験の方はぜひチェックしていただきたい、と足早に済ませ、小山の才能の“早期発見者”のひとりである落合陽一に、出会いの衝撃を前編記事に続き語ってもらおう。

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落合 小山さんの作品ではポップさが大事な要素になってると思うけど、自分ではどう考えてますか?

小山 僕がやってるのって、ポップって言うより「ベタ」やと思ってて。ベタからちょっとだけずらすのが笑い――関西風の笑いやと思ってるんですけども。

落合 ベタとポップってどう違うんですか?

小山 ポップって言ったら、なんやろ? ベタなのは、例えば吉本新喜劇ですね。

落合 なるほどなるほど。『MUSIC VIDEO』のギミックなんかヤバイですよね。だって、ベタ、ベタ、ベタのベタ殺しじゃないですか。

小山 あるあるネタって、どの世代にもウケるんですよね。それってお笑い芸人の人もよく言うんですけど。『MUSIC VIDEO』はまさにそれで。僕自身はあるあるネタが好きでも嫌いでもないんですけど、それがウケやすかった要因でもあると思うんですけどね。

落合 岡崎体育さんのMVをずっと作ってるけど、彼がメジャーデビューして変わったこととかありますか? 岡崎さんが昨年発表した『感情のピクセル』のMVを観たとき、すげーメジャー感あるなあって思ったんだけど。

小山 あれは前の作品と比べてめちゃめちゃ予算かけてまして。『MUSIC VIDEO』の一発屋だって言われる状況を打破したいと思ってたんで、もう一回バズるように考えて作りました。『MUSIC VIDEO』のチープさを逆に伏線にして、ちゃんとした曲をやったという感じです。岡崎さん、そもそも曲がいいですからね。

落合 確かに、あれはクオリティ高くてよかったと思う。けど、やっぱり僕はその前の『MUSIC VIDEO』のほうが、岡崎さんの「うぉりゃあー!」って感じが出てたとも感じるんだよね。

小山 あのときは、僕が撮ってるアーティストさんがメジャーデビューするの初めてやったし、やっぱり力が入ったんですかね(笑)。

自分のバンドってなると、コケても自分の責任やし、別に何してもええって思ってました

落合 面白いなあ。じゃあ、自分がメジャーデビューする時のMVは?

小山 あれはもう適当に作ったろうと思いましたね。

落合 適当に作ったろう(笑)。

小山 ほかの作品だとできんことをやろう、と。やっぱりどっかでストッパーがかかっちゃうんですよね。ほかの人のやつやと。お金を出してもらってるわけだし、ヘタなことできひんし、それなりにきれいにまとめんとダメだって意識がどっかにあって。

自分のバンドってなると、コケても自分の責任やし、別に何してもええって思ってました。メジャーデビューしてから制作した『ヤバみ』っていう曲なんて、サビでカメラが引いていくんですけど、人のMVやったら怖くてできませんよ。肝心なとこでアーティストが豆粒大になるっていう(笑)。わざわざ沖縄まで行って撮影して、ムダなことをしてるんです。

https://www.youtube.com/watch?v=329F4L9ATcw

落合 僕ね、ヤバTの映像のほうは、すげえアートっぽいと思ってて。ああいいな、ってニヤニヤしながら観てるんですけど。

小山 でも、よく映像作家がアーティスト性出しすぎて曲が死んでることってあるじゃないですか。それはよくないなと思ってて。普通のかっこいいバンドにめちゃくちゃな映像付けて、めちゃくちゃかわいいアイドルにめちゃくちゃな映像付けて、みたいなことをする人もいるんですよね。そういうの見てると、もったいなって思いますよね。

そういうことを普段いろいろ考えてて、鬱憤が溜まった結果、自分のバンドのMVがめちゃくちゃになったところはあります(笑)。

落合 逆に人から「好き勝手やってください」って頼まれることもあるんじゃない?

小山 はい。でもそういうときって、結果、好き勝手できないんですよね。制限もあるし。

落合 僕もそうだ。「売れないとまずい」と思って仕事しますね、正直。

小山 やっぱり自分のことじゃないとダメなんですよ。ヤバTの場合、あそこまで振り切れたのは、どっかで僕の本業は映像作家だという思いがあるからで。もちろんバンドは本気でやっていますけど、自分のバンドがダメでも映像作家でいけるしなっていう思いが少なからずあって、好き勝手できてると思います。

落合 なるほどね。よくわかる。僕も教員、アーティスト、経営者っていう3足のわらじ履いてるからわかります、その感じ。最低限ここでは生きていけるから、あっちでは本当にやりたいことやろうみたいなことは僕もあります。

あと、これ聞きたい。いいものを作るのと、ウケるものを作るのとは違いますか? 一緒ですか?

小山 僕はウケるものがいいものだと思って作ってます。

マニアックさをポップに見せられるかが、その人のセンス

落合 なるほどね。僕は、小山くんのやってることもそうだと思うけど、最近のコンテンツを見てると、趣味趣向が多様化してるからなるべく引っかかることを作って、いろんな世界のベタを仕込んだ、そういうものしかあんまりウケないのかなって思ってるんですよ。

小山 僕が思ってるのは、なんか“大人の臭い”がするものに対して、見てる人が敏感になってるのかなって。音楽にしろ映像にしろ。

アイドルとか特にそうなんですが、「あ、これ大人がやらせてるな」とか、「大人が金出してるな」とか、なんか“自由にできてない感じ”を感じ取るのがすごい上手になってしまってるような気がしていて。ネットが普及してるから裏側も知った気になってしまうし、実際に知れてしまうこともあるし。ちゃんと自分でクリエイティブ感を出せてへんと、拒絶されてしまうようなことがあるなと思ってて。ほんまにいろんなバンドのお客さんとか見てても、インディーズからメジャーに行った切り替わりの期間とかに、みんな敏感に何かに気づいてんやろうなとか、そう見えちゃうんです。みんなすごく純粋なものを求めてんやろなと思います。

落合 確かにね。作りものじゃないものを求めてる感じはありますね。僕もテレビに出るときとか、昔はちゃんと台本読んで覚えて、それ通り進行できるようにして現場行こうって思ってたんですけど、そうすると言わされてる感が出てしまう。で、台本を暗記してしゃべらないようになったんですよ。そっちのほうが自然で面白いなって思って。そういうのって観てる人は敏感なのかなって。

小山さん自身は、メジャーデビューしてから変化したことはありますか?

小山 やっぱり、より幅広い層に届くようにしたいとは思いますよね。ただ、自分のほんまにやりたいように、表現としてマニアックにするのもよさやと思ってるんで、ちょうどいいラインを目指して作っていくのが楽しいんですけど。

例えば新曲で『ハッピーウェディング前ソング』っていう結婚をテーマにした歌があるんですけど、「からだの相性」っていう歌詞が出てくるんですよ。それってポップじゃないじゃないですか。メジャーで出す曲としてはどうかな、外そうかなって思った時に、メンバーに「昔やったらその歌詞入れてたで」って言われて、あ、やっぱりブレずにいこうって思い直したり。そのへんはすごいせめぎ合ってます。

1月10日発売の2ndアルバム『Galaxy of the Tanktop』。オープニングのへヴィロックチューン『Tanktopin your heart』から、ストリングスが際立つ亀田誠治プロデュースのラスト曲『肩 have a good day-2018 ver.-』まで、音も歌詞も振れ幅広すぎな一枚。

落合 わかるわ。だんだん大人の作り方になっていくわけじゃないですか。そうなったときに初心をいかに忘れないようにするかが大切だと思ってて。その秘訣があれば教えてください。

小山 アーティストになりたい人ってどっかポップを嫌うというところがあるじゃないですか。やっぱりマニアックなことをほんまはしたいっていう思いがあるじゃないですか。でも、そこでどれだけ自分のマニアックさをポップに見せられるかが、その人のセンスやと思うんで。そこを戦いながら作っていかなあかんと思います。

落合 ちなみに、10年後は何してたい?

小山 岡崎さんとよくしゃべってるんですけど、文化人になりたいって(笑)。コメンテーターになりたいっていうか。

落合 あー文化人ね。俺は学者枠文化人なんで、よくコメンテーターとして番組に出てるんですけど、小山くんがコンテンツプロデュースしてる未来はすごくよく見えるな。天才としてぜひカルチャーを変えていってほしいと思います。

■「#コンテンツ応用論2017」とは?本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」つきで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

落合陽一(おちあい・よういち)1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピューターが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。1月31日に新刊『日本再興戦略』(NewsPicks Book、幻冬舎刊)が発売予定。

小山拓也(こやま・たくや)1992年生まれ、京都府出身。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。在学中から"寿司くん"名義で、シュールなアニメシリーズ『寿司くん』やMVなどの映像作品を発表。監督した岡崎体育の楽曲『MUSIC VIDEO』のMVは文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門新人賞を受賞。並行してバンド「ヤバイTシャツ屋さん」のボーカル&ギターとしても活動し、2016年にユニバーサルミュージックからメジャーデビュー。今年1月10日発売の2ndアルバム『Galaxy of the Tank-top』はiTunes週間アルバムランキングで1位を獲得!

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)