デビュー以来、映画やドラマ、舞台の第一線で活躍し続けている林遣都さん

あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ“友達の輪”を!とスタートした『語っていいとも!』

前回、俳優の太賀さんからご紹介いただいた第52回のゲストは俳優の林遣都(けんと)さん。

07年に『バッテリー』主演に大抜擢され、その後も『DIVE!!』他、映画やドラマ、舞台の第一線で活躍し続けているが、最近では芥川賞を受賞した又吉直樹の話題作をドラマ化した『火花』や三谷幸喜の舞台『子供の事情』にも出演。

コミカルな役まで演技の幅を広げ、さらに注目されているが、前回はそこに至るデビューの経緯や10年のキャリアについて話を伺ったーー。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)

―その最初のイメージが強烈に植え付けられたのもあって。それが後々、悩みや辛さにも繋がるんでしょうけど。そこから楽になれた転機というか、きっかけはあるんですか?

 …『火花』ですかね、やっぱり。

―Netflixで配信されて、NHKでも去年OAされた又吉直樹さん原作の話題のドラマですよね。すごく最近じゃないですか。

 はい。それこそ太賀が、やっぱり彼自身もすごい「負けたくない」っていうのがあると思うし、そんな簡単に同世代のこととかを褒(ほ)めたりしないんですけど。これだけやってきて、1回も「あれよかったですね」とか言われたことなかったのに、初めて「『火花』やられました」って言ってくれて。すごい嬉しかったんです。

―それについて僕も彼に熱くアピられました(笑)。「遣都さんにしかできない芝居だと思って、久々に心震えました。ほんとヤバイですよ」って。

 本当ですか(笑)。

―で、僕も見逃していたんで、正月に一気にチェックさせてもらいました(笑)。

 ありがとうございます。とろサーモンも今当たりましたしね。なんか、『火花』は自分の中で奇跡的な瞬間が結構いっぱいあって。ちょうど『バッテリー』から10年っていうのもありましたし。

廣木隆一監督と出会えたこと…『バッテリー』の滝田洋二郎監督と同世代で、全然タイプは違う方ですけど、どこか通じる空気感みたいなものを感じて。よく「10年に一度そういう作品に出会えたらいいな」みたいな話を俳優の間で聞くんですけど、まさに自分の中ではそうだったんじゃないかなって思って。

―ある意味、一番最初に自分の運命を変えた『バッテリー』以来、10年経って今の自分の集大成的な…。

 そうですね。全部なんか…燃え尽きましたね。ちょうど、そういった物語だったというのもすごくありがたかったです。芸人さんのお話ですけど、共感できることがたくさんあって。関西から東京に出てきて、うまくいくわけもなく、自分の思う通りにいかない日々が続いたりとか。

嫉妬したり、卑屈になったり、酒飲んでフラフラしてっていうのを全面に、あの時の自分をそのままやればいいみたいな撮影がそのタイミングでできた作品だったなと。

―自分を重ね合わせて共感できる作品との出会いだったと…。観させてもらって、なかなか最近こういう贅沢な撮り方をさせてもらえる作品もないなと思いましたが。

 ほんと贅沢でした。こういうことがやりたかったんだって思ったし。また、それを芸人さんたちと共有できたのもラッキーで。漫才だけじゃなく、その裏側まで。

―地上波の連ドラなら1クールで12回とか決まってて、視聴率が悪ければその前に打ち切りもあるし、どんどん要素を詰め込んで、めまぐるしく展開して…みたいな作りですよね。この『火花』に関しては、間のゆったり感とか、ここ削るよなっていう細部までこだわって、贅沢だなと。

 そもそも、廣木さんが台本持ってないんです。その場で「はい、やって」って言って(笑)。台詞でも「なんで、すぐ言うの?」みたいな。で、台本に書いてあるシーンで終わって、止まったら怒られるんでいつまでも続くことがあったりとか。すごい役者を試してくる。アドリブだらけでした。

「どっかでその役を生きてればいいや」

―それで演技のナチュラルさ、自然な感じがそのまま醸(かも)し出されてるわけだ。

林 すごい勉強になったのが、台詞をいかに染みこませるかっていう…いかに台詞じゃないように言うか。もちろん場面によるし、“ザ・セリフ”みたいなドラマもあって全部違うんですけど。『火花』はやってて楽しかったですね。出ている芸人さん全ての方がめちゃめちゃ上手なので、お互いに引き出しあって。

―芸人バトルの大会とか描写がそのまんまリアルで、本当にありじゃない?っていう。

 それこそ漫才は撮影の時、本当にゆったりしてたんです。何よりも監督さんたちが漫才のシーンは最初から最後まで信頼してくださって、リハーサルを1回も見ないんです。もちろん、ネタを用意する作家さんはベースにいるんですけど、単独ライブのシーンで3分の2くらいは勝手に自分らで全部作って。

そういうことをやらせてもらえる環境が他ではないので。その分、めちゃめちゃ難しかったです。やってる最中、ほんと今までで一番難しいなって思いました。漫才、芸人さんを演じるって。そういう意味でも『火花』は結構大きかったです。

―そのデビューから10年の間に「これじゃ続けていけない」という葛藤があって。それでも三枚目的なコミカルな役もこなして、違う引き出しも持てたというか。「カッコつけなくていいんだ」「ダメな自分でも大丈夫」と思えた、分岐点になる作品も他にあったのでは?

 うーん…常にコメディとか振り切ってたらいいんですけど。人を演じる上で、ウソっぽいことが好きじゃなくて。言葉にすると恥ずかしいんですけど、どっかでその役を生きてればいいや、みたいな。特に「この作品で変われたな」っていう感じはなくて。

―一作ごとにその役を生きてたら、自然に幅が広がった?

 はい。いろいろ悔しい思いをして、怖いものないなって思ってから、全部振り切ってやろうというスタンスで。「なにくそ!」っていう感じでいたのが23,24歳くらいまで。

それこそ『火花』でそういう思いを爆発させることができて、言い訳ができない、ウソが通じない撮影の仕方も楽しかったですけど。廣木組は、その人になってなきゃ通用しないチームだったので、それがやれて…なんか、本当に気持ちが変わって。ひとつ自分の中でやっとできたかなって、ちょっとだけ余裕もできたというか。

―そこまで分岐点ともいえる作品になったんですね。その自信で今後の役者人生もしばらくやっていけそうな。

 ちょっと充実してきたかなって。そう思えてからは人との接し方も変わりましたし、お酒の飲み方も変わりました(笑)。一昨年から初めて舞台をやらせていただいて、またゼロから新しいことに挑戦できてる感じです。

―三谷幸喜さんの『子供の事情』は観させてもらいました。評判でだいぶチケットが入手困難でしたけど(苦笑)。

 『子供の事情』の他2本やって、一昨年の夏に初めてやったんですけど。またそこで今までやってきたことが全く通用しなかったりとか。『火花』を終えて、ちょうど10年で初めての演出家さんに出会ったり、舞台役者の方たちと一緒にやって、また新しい一歩を踏み出せたなと感じるので上手いことできてるなぁみたいな。

「やめたら、実家帰って引きこもりですね」

―元々「役者がやりたい!」「映画が好きだ!」というんじゃなかったのが、やってるうちに生き甲斐になって…という、本気で覚悟が定まったのが『火花』以後の今だと。

 そうですね。ずっと覚悟を定めようとしてたんですけど、やっと実感するっていうか。これ、自分に言い聞かせてるんですけど、上の人たちを見ていて、間違いなく覚悟持って努力してないと残っていけない仕事なんだなって。20代からすごい痛感して。

そういう覚悟決めないと、たぶん続けていけないなと。今出てる役者さんとか、ずっと続いてる人たちはひと握りで。何も考えてないとか、映画を観てない人だったり、舞台を観てない人ってやっぱりいなくて。

―そうですよね。皆さん当然プロだし、職人的な本気度も生半可ではないし。だから、太賀さんもあんな子供の頃からこの仕事をやりたいと言って入ってきたのに「一生やり続けますとはまだ簡単に言い切れない」と言ってましたし。

 へぇ…太賀がですか? そっか…。

―やっぱり、毎回怖いですと。でも、最初に自分から芸能界に入りたい、役者の道をいきたいとか、自分が自分がって主張があってというのとも違って、遣都さんの場合、どう自分を色づけされてもいいし、好きに料理してもらえればというスタンスだったり?

 人からの目とか言われてることが意外とよかったり、本番とかでも「あれ? 違ったなぁ」みたいな。やっぱりあるんで。

―こうだって、自分で決めちゃったら、きっとつまんなかったりね。毎回、それこそ発見というか、こんな引き出しが自分の中にあったんだ!とか。

 なんか、出会いというか、好きになる人も変わってきて…人のいいところを見つける人が素敵だなって。悪いところを指摘するんじゃなくて、変な人でもいいところを引き出して接する人というか。自分もそういう人になっていきたいなって。

―もう、ここまでやり続けたことで、この仕事の魅力とかハマる部分とか気付きもあるでしょうし。魅力的な人たちとも出会って、やり続ける覚悟をね…。

 太賀と同じじゃないかもしれないですけど、もう他にできることがないし…。やめたら、たぶん実家に帰ってしばらく引きこもりですね。

―そうそう、太賀さんも言ってましたよ。逆にサラリーマンとか就職の仕方もわからないし、他の仕事をやれる気がしないと(笑)。

 ホントですか。そういうのがもう覚悟っていうか…一緒ですね。怖さはあるけど。だからこそ、満足できないし面白いと思うんですけど。

―それこそ、スポーツ選手もですし、どの職人の仕事もずっと道を追い求めるのは同じで。理想はまだまだ先にあって、死ぬまでそうなんだろうなと…役者も同じじゃないですか?

 はい。やっぱり社会のこと…僕なんか怠りがちというか、あんまり目を向けてなかったりとか。演技してお芝居することだけ一生懸命になって、きっとそれだけじゃダメで。人間関係もやっぱ広げていかなきゃなって思います。

次回のお友達は、あの大物芸人の息子で…

―それで言うと、僕がすごい印象的なのが、ロバート・デ・ニーロにインタビューしたことがあって。高級ホテルの中を歩いてきて、部屋に入っても、ただのオッサンだった(笑)。

 そうなんですか(笑)。

―汚いヨレヨレの服着て、無精ひげはやして…そこらへん歩いてても気づかないような(苦笑)。当人にそういう話を振ったら「俺はただのニューヨーカーなんだよ、元々ね」って。でも、それが逆に難しいというか。セレブになっても、それでいられるからこそ、また役者としてなんでもできるのかなと。

林 結構、僕も最近そういう風なことを考えてたんですけど。父親がどっちかっていうと、すごいオープンな人で、昔から映画が好きだったり、TV関係好きだったりとか…華やかなものが好きなタイプで。その父の血があるからこそ、こういう仕事ができてるのかなって思いつつ、母親が真逆で、とにかく控えめな人間なんですけど、自分も私生活はほんとに静かに暮らしていたいなって、普通の感覚を持っていて。

―まっとうな部分というか? 「セレブってこういうものですよ」って、夢を与える一面はあるんでしょうけど。一介の人として、演じる際にも、まともな生活感だったりはオンとオフであったほうがいいですよね。

 なんか、そういう切り替えをしていけたら楽になるかなって思いますね。最近、俳優だけで飲みにいくのも減りましたし。静かな当たり前の生活を…朝起きて散歩して、ご飯食べて銭湯行ったり、野球中継観てみたいな(笑)。

―あははは、野球観ながらビール飲んでちょっとのんびりみたいな?(笑) 昭和的というか、至福の時間じゃないですか。

 充実したすごいイイ時間ですね。あと、私生活も酒飲んで仕事の話してだと、やっぱり変になってしまうので。

―(笑)『火花』でいうと、吉祥寺の街を先輩とぶらつくという庶民的なね。ちなみに、そのお父さんの期待でいうと、野球で活躍してくれて甲子園みたいな夢もあったんですかね?

 あぁ…でも野球に関しては、僕はもう全然。体力も才能もなかったので、早くから諦めてて。

―じゃあ、『バッテリー』で、あんなスーパーヒーローを演じただけで本望みたいな?(笑)

 それはもう、はい。父はそれこそいつまでも夢を追いかけてるような、結構熱い人だったりして。今、60過ぎているんですけど、まだ新しいことやりたいって人で。僕に嫉妬したりします(笑)。そういう血を引けてるのは嬉しいなって。

―負けん気は強いしと(笑)。でも、いい意味でそういう体育会系なのは根本にあるんじゃないですか。中学までの野球もそうですし。『火花』的な意外とお笑いの世界もですけど。

 そういうのがないとできないとは思います。芸人さんとかでも上下関係スゴいですしね。

―まだそこらへんのお話もしたいですが(笑)、そろそろお時間ということで。次のお友達に挙げていただいてるのが、俳優の駿河太郎さん…鶴瓶さんの息子さんとしても知られてますよね。

 7年前、『荒川アンダーザブリッジ』という作品で出会ってから、ずっと仲良くしていただいて。心から尊敬していて、なんでも話せる優しい方なので、実のお兄さんのように慕ってるというか。役者以外にもいろいろな経験をされてきているので、昔の話なんかを聞いているととても刺激になります。

―世代的にはひと回り上で、よき兄貴分という感じなんでしょうかね

 本人に伝えたことはないですけど、会うたび、太郎さんのような大らかで人に愛される男でありたいと。そんなことを思いながらお酒を飲んでいます(笑)。

―了解しました。気になっている役者さんだったので楽しみです。では繋がせていただきます!

(撮影/塔下智士)

●語っていいとも! 第53回ゲスト・駿河太郎「『やっぱ半分、鶴瓶やな』って…“黒鶴瓶”を完全に受け継いでるらしくて(笑)」

●林遣都(はやし・けんと)1990年12月6日、滋賀県生まれ。07年に『バッテリー』の主演で俳優デビュー。「日本アカデミー賞」「キネマ旬報ベスト・テン」などの新人賞を受賞。09年、高校を卒業し上京。その後もドラマなどで活躍を続ける。現在、『FINAL CUT』(カンテレ・CX系)放映中。2月17日には『チェリーボーイズ』、2月24日には『野球部員、演劇の舞台に立つ!』と出演映画が公開予定。

2月17日公開の主演映画『チェリーボーイズ』 (c)古泉智浩/青林工藝舎・2018東映ビデオ/マイケルギオン