「悪夢の連敗」を糧に推し進める“ヨシノブ流・意識改革”とは? 江夏豊氏が高橋由伸監督を直撃!

2017年は読売ジャイアンツにとって試練の一年だった。球団史上ワーストとなる13連敗を喫し、2006年以来11年ぶりにBクラスへ転落。CS(クライマックスシリーズ)の連続出場も10年で途切れた。就任2年目の指揮官は「今までにない苦しさを経験した」という。

だが、明るい兆しもある。20代の選手たちが主力としてチームを引っ張り、若手も台頭。今オフには期待の新戦力も獲得した。

“常勝軍団”復活を目指し、本気で巻き返しを図る高橋由伸監督が、今季にかける熱い思いを『週刊プレイボーイ』本誌で「江夏 豊のアウトロー野球論」を連載中の伝説の名投手・江夏豊氏に語る。

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江夏 新年を迎えて早速だけど、昨シーズンが終わった後の秋季キャンプで、チームの雰囲気はどうだった?

高橋 若手選手中心で練習メニューもハードでしたが、みんな元気よくやってくれました。チームが変わろうとしていることを個々に感じているのか、なんとかチャンスをものにしたい、という雰囲気がチーム全体に出てきたかなと思います。

江夏 それは何よりだね。ただ、本当に大事なのは2月1日から始まる春季キャンプだから。

高橋 秋季キャンプの最後に選手たちに伝えました。「現時点のコンディションを最低ラインとして、2月1日に集まろう」と。どれぐらい自覚して、どのような状態で来てくれるか。不安もありますけど、楽しみでもあります。

江夏 期待したいよな。

高橋 今年は若い選手が多くなると思うので、坂本(勇人[はやと])、小林(誠司)という20代のふたりにチームを引っ張ってもらうつもりです。

江夏 坂本君と小林君は主力選手だけど、あなたから見て、若手の中でひょっとしたら化けるかも、という選手はいる?

高橋 昨年のシーズン最終戦に先発させた左ピッチャーの中川(皓太[こうた])ですね。彼は今年、先発で使ってみたいなと思っています。

江夏 期待が大きいね。

高橋 真っすぐに力があって、おもしろいピッチャーだと思います。昨年は中継ぎで20試合近く投げましたが、先発は1試合だけ。まだまだ未知数ではありますけど、もし使える状態であればおもしろいですね。野手では、シーズン最終戦でセカンドを守った吉川(尚輝)とファーストを守った岡本(和真)。彼らが期待どおりに伸びてくれたら、うれしい限りです。

江夏 若い人の成長も楽しみだが、抜けた選手の影響も大きいよな。特にマイコラスは残念だった。

高橋 正直、痛いですね。

江夏 痛すぎるわな。昨年は後半に畠(はたけ)(世周[せいしゅう])君が出てくるまで、先発が3人しかいないような状態だったから。

高橋 現時点で計算できるのは菅野(智之)と田口(麗斗[かずと])だけですね。畠も楽しみですけど、まだまだ未知数だと思っているので。

江夏 確かにいいボールを投げるが、後半に限っていい面ばかりが出た感じはあった。

2番にマギーを起用した理由

高橋 一年間ずっと調子よくいってくれればうれしいんですが、まだ経験が浅い選手なので過度な期待をしてはいけないのかなと思います。

江夏 彼ら以外のローテーションはどう考えている?

高橋 まず、一昨年トレードで来た吉川光夫ですね。

江夏 日本ハムで実績を残した左ピッチャーだな。

高橋 はい。実力どおり、もう少し投げてくれればいいなと。あとは昨年、いろいろありましたけども山口俊。

江夏 山口君に関しては、がっかりと言えば彼に対して失礼だけど、ほとんど戦力にならなかったもんね。

高橋 一年間ほぼいなかったようなものなので、実力どおりのピッチングをしてくれればプラス材料になるはずです。

江夏 あとは西武からFAで入った野上(亮磨)君か。バッタバッタと相手をねじ伏せるタイプではないけども、2桁勝てるだけの力はあるから。

高橋 しっかりローテーションを守ってくれると、結果はついてくると思います。菅野、田口に次いで計算が立つのは野上でしょうね。それに山口、吉川、畠、中川あたりで回していけたら理想的です。

江夏 うん。6人ぐらいで回せれば、菅野君の負担も少なくなる。若手の成長も楽しみだけど、個人的には、山口君が復帰しないことには、と思っているよ。

■2番にマギーを起用した理由

江夏 野手では前中日のゲレーロを獲った。

高橋 昨年は打線を組む上でとても苦しかったので、とにかくホームランを打てる4番バッターが欲しかったですね。結局、20本打った選手がゼロでしたし。東京ドームがホームなのに20本打てないというのは……。

江夏 寂しいなあ。そういう意味でゲレーロは適任だと思う。いい成績を残すには助っ人の力が必要だからね。

高橋 大きいですね。優勝するチームはまず外国人の活躍が不可欠だと思います。

江夏 その外国人に関してだが、昨年の戦いを見ていておもしろかったのが、「2番・マギー」という起用法。これはあなたのアイデア?

高橋 私が考えました。なかなかチームが波に乗れなかった7月、マギーにセカンドを守らせる案が出て、打順をどうしようかと考えたんです。そこでマギーの出塁率のよさを考慮しました。結局、初回を除けば何番目の打者になるかわからないので、だったら塁に出る確率の高いバッターを前に置こうと。ただ単にそういう発想でした。

江夏 でも、その発想はまず考えつかなかった。「おっ」とびっくりさせられたよ。これからの野球でひとつのポイントは2番だと思う。今や2番バッターは右打ちができて、バントができて、という時代じゃないからね。

高橋 そもそも1番が出なければ、2番に打ってもらわないといけないですし。1番が出た場合でも、小技というよりも打ってつないだほうがいい、という考えもありました。結果、マギーががんばってくれたからこそ、形になりましたね。

★後編⇒江夏豊×高橋由伸監督「悪夢の連敗」を糧に推し進める“ヨシノブ流・意識改革”とは?

(構成/高橋安幸 撮影/五十嵐和博)

●江夏豊(えなつ・ゆたか)1948年生まれ、兵庫県出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武などで活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ

●高橋由伸(たかはし・よしのぶ)1975年生まれ、千葉県出身。桐蔭学園では甲子園に2度出場。高校通算30本塁打を放ち、慶應義塾大学へ進学。1年生からレギュラーの座を獲得。大学通算23本塁打は六大学野球の最多本塁打記録。1997年、ドラフト1位で巨人に入団。以来18年間、チームの中軸を担う。2015年オフ、球団から監督要請を受けて引退。2016年から、第18代巨人軍監督としてチームを率いる。就任1年目は71勝69敗3分けでリーグ2位。2年目の昨季は72勝68敗3分けでリーグ4位