青の都サマルカンドのシンボル「レギスタン広場」の内部

ウズベキスタンの見どころはいくつかの街に散らばっている。私は首都タシュケントから列車に乗って3時間半、世界遺産の街・サマルカンドへやってきた。

「青の都」と呼ばれるその街並みは、ヨーロッパのような雰囲気もあり、私は一瞬にして気に入った。

宿に着くと、オーストラリア人の旅人でアレックスという男が頭を抱えていた。

「はぁ。ここに来る列車で一眼レフのカメラ一式を盗まれてね…。警察でポリスレポート(盗難証明書)を作ったり、本当に疲れたよ…」

私はかつてオーストラリアに住んでいたこともあり、オーストラリア人贔屓(びいき)なところがある。落ち込んでいる彼を励まし、元気を出してもらおうと一緒に出かけることを提案した。

サマルカンドの街中

カメラのない彼に気を遣い、思うように撮影ができないのは苦であったが、彼は笑顔になったし、久々のオージー英語での会話はなかなか楽しかった。

サマルカンドのシンボルでもある「レギスタン広場」は青い空にさらに美しい青いタイルをキラキラと輝かせ、私たちを魅了した。ロマンチックな景色の前で一緒に写真を撮っている私たちはカップルにでも見えただろうか。

サマルカンドのシンボル「レギスタン広場」は3つのメドレセ(神学校)が美しい

広場中央のティラカリ・メドレセ

すると、そこにライバル登場!? 「私もあなたたちと一緒に周ってもいい?」

メイクバッチリでゴールドの派手なアクセサリーを付けたエキゾチック美人だった。彼女はサビナという名のタジキスタン人で、ひとりで来ているから一緒に周りたいと言う。本来ならウェルカムなのだが、宿で出会った旅人でもないし、超観光地での声掛けは怪しすぎて思わず疑いの目を持ってしまう。

「え、ノーマネーだし、ガイドとかなら要らないよ!」

私がそう言っている横で、アレックスが即答でOKしてしまい、すると彼女は「ありがとう! ここの入場料金は私がおごるわ」と私たちの分のチケットまで買い始めてしまった。

ちょ! 待って! ありがたいけど、ますます怪しい! 外国人料金だからチケットだって高いのに、彼女が見ず知らずの私たちの分まで買うなんて…! 隙を見て「アレックス! 彼女ちょっと怪しくない?」と聞いたが、「何を言っているんだ、大丈夫だよ。彼女はいいコだ!」と全く受け入れてもらえず…。

仕方ないので3人で行動スタート

「アレックス、私と結婚してくれない?」

私はこの後、どんな罠が待ち受けているのだろうかと内心落ち着かなかったが、仕方なく3人で行動することにした。後々、どこかに連れていかれたり、怖い男が出てきて高額を請求されたらどうしよう…。(念のため、私は決してアレックスを男として意識していたワケではないことは言っておこう)

ふたりが会話に花を咲かせ始めたので、逆によかったのはひとり撮影に集中できたこと。すると警察が近寄ってきて、私の持ち物をチェック。「どう見たって私が一番怪しくないのに。なんなのさ…」

奥に見えるのはウルグベク・メドレセ。緑の服が警察で、右下は荷物チェックされた私

広場中央のティラカリ・メドレセの内部は金色の装飾

シェルドル・メドレセ。人や動物などの偶像崇拝はタブーであったが、この装飾は支配者が権力を誇示しようとルールを破ったもの

続いての見どころは「シャーヒズィンダ廟群」という青いタイルの霊廟。まるで死者が私を呼んでいるのだろうか、そのまま天国に歩み寄ってしまいそうな美しさである。

それなのに、ふたりはベンチに座ってお喋り。盛り上がる彼らにとって、この素晴らしき青い世界は書き割り(舞台セット)にしか見えないのかしら?(イヤミ)

お土産屋の並ぶ「タシケント通り」では、サビナはアレックスにポストカードやピンバッチなどをプレゼントしていて、私はもう蚊帳(かや)の外。「こんなにいろいろしてもらって、なんてお礼したらいいんだ」と言うアレックスに、サビナは「キスしてくれたらいいわ♪」だって!

シャーヒズィンダ廟の入口。「生ける王」という意味の青いタイルが美しい霊廟

シャーヒズィンダ廟の内部

そこにウェディングの人々が3組ほどすれ違ったので「タジキスタンの結婚式はどんな感じ?」と聞くと、「3日間、パーティーよ。2万米ドルくらいはかかるわね!」と言う。

タジキスタンの貨幣価値がわからないけど、もしかしたら単純にお金持ちの家庭の娘なのであろうか。そして彼女は続けてこう言った。「アレックス、私と結婚してくれない?」

ギョギョギョ! 逆プロポーズ!? ははーん、さてはビザ目的か! そういうことなら、彼女がグイグイ迫る理由も納得だわ。まあ、私だってオーストラリアのビザは欲しいけど、アレックスのこと好きなわけじゃないから譲るわ(と、なぜか上から)。

結局、彼女にはお世話になったままだったので(特にアレックスがだけど)、今度は私たちがランチをご馳走することにした。レストランのテーブルにアレックスがポンと財布を置いたので「危ないよ(また盗まれるよ)」と言ったら、「何言ってるんだ、ここは室内じゃないか!」とウザそう。

私は邪魔者の上、口うるさい母親のような役どころとなってしまったので、そろそろ彼らをふたりきりにしてあげることにして、ひとり宿へ退散した。

ラブラブなふたりの顔は一応秘密にしておこう(笑)。そして私はお邪魔虫

カメラ盗難事件の意外な顛末

ファッション誌の撮影だろうか、美人モデルたちがめっちゃ絵になってた!

デートを楽しんで帰宅したアレックスはご機嫌な様子であったが、その夜、彼の元へ警察が尋ねて来た。“カメラを盗難された件”での事情聴取であったが、しばらくすると怒鳴り声やドアを激しく閉める音が聞こえ、顔面蒼白のアレックスが叫び始めた。

「なんで同じことを何度も聞くんだ!? 俺は被害者だぞ! ウズベキスタンの警察は嘘をついている! しかも俺に黙れって言ったんだぞ! 黙れと!」

パニック状態のアレックスはなんかおかしい。宿オーナーの女性は少し英語ができるので通訳のため間に入っていたが「警察は彼をヘルプしようと思っているだけなのに、なぜ彼はあんなに怒っているのかしら…」と参っていた。そのやり取りは夜中続いたが、翌朝になると宿オーナーが私に言った。

「彼のカメラ、あったのよ…。自分の鞄の中に

えええ! 宿には防犯カメラがあり、最終手段でその録画映像を確認することとなったそうなのだが、映っていたのはカメラを持っているアレックスの姿だったのだ!

つまり、こういうことーー彼はカメラを盗まれたと嘘をついて、ウズベキスタンの警察を利用してポリスレポートを発行し、保険金詐欺をしようとしていたのである。なんと! 私はすっかりサビナを疑っていたが、疑うべきはアレックスだったとは…(サビナ、ごめんね!)

「オーストラリアは豊かな国だし、アジアを旅するのは余裕のはず。なんでそんなことを…」。それとこれとは関係ないが、私の英語力でそんな風に表現すると、宿オーナーは「実は前にもオーストラリア人女性が薬の瓶に220米ドルを隠していてね、盗まれたって警察を騙(だま)したのよ。同じ国なのは偶然だと思うけど…」

贔屓していただけに、私にとってもショックな事件であった。せめて言い訳や、嘘をついた謝罪を本人の口から聞きたかったが、もう合わす顔などなかったのだろう。彼は早朝に宿から姿を消していたのだった。

さよなら、詐欺師のアレックスーー。

【This week’s BLUE】シェルドル・メドレセの内部でサマルカンドブルーにウットリ。ブルーハンターとしてはたまらない空間でした★旅人マリーシャの世界一周紀行:第174回「ウズベキスタン人にモテまくった理由は…私が“〇〇顔”だから?」

●旅人マリーシャ平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】