「現代の魔法使い」落合陽一(右)と作家としても活躍している紗倉まな(左)

「コンテンツ応用論」2ndシーズン最終回はいつも以上に異色の講義となった。

ゲストは週刊プレイボーイ本誌でもコラムを連載中の“まなてぃー”こと紗倉まな。人気AV女優としてのみならず、エッセイに小説に文才を発揮する作家としても活躍している彼女の招来は、その才能に惹かれた落合陽一のたっての希望だった。

有名女優の来校とあって、会場は多くの立ち見が出る超満員。そして“男性密度”もいつもより高め。学園祭的な熱気がこもるなか、紗倉は語り始めた。

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紗倉 紗倉まなと申します。本職はAV女優をやっているんですけども、“セクシー女優”とか呼んでくださる方もいます。でも、それもむずがゆいなと思って、最近自分では“えろ屋”と言ってます。

私がAVを始めるきっかけとなったのは、14歳くらいの時に父親の書斎でAVを発見したことです。「うわ、なんかすごいものがあるぞ」と衝撃を受けて、それから「性行為している時の女性の裸はこんなに美しいものなんだ」と思いました。

その後、私はある高専(高等専門学校)の環境都市工学科に入りました。そこで環境系の勉強をして、毎日コンクリートを練ったりしながらも、あのとき見たAVが忘れられなくて。気持ち悪いとか嫌悪感を抱くというよりも、「女性裸」の美しさに惹かれていました。それで、在学中に事務所に応募してAVデビューしました。

いざ業界に入ってみると、副業でAVをやってる方って本当にたくさんいらっしゃって。学生さんだったり、介護職の方だったり…。普通のOLさんでも、土日だけ撮影に行くとか。そういう様々な形で年間に2千人くらいデビューされているんですけども、私もその一員みたいな感じでAV女優を始めました。…こんなにAV、AV言ってて大丈夫ですか?

落合 もちろん大丈夫です。

紗倉 では、AV女優の仕事についてお話します。

ひと口にAV女優といってもいろいろな活動の仕方があり、大きくは単体女優と企画女優っていう二形態があって、私は単体女優のほうで仕事をしてるんですが、両者の一番の違いは作品の数です。私は月に一本の作品しか撮影していなくて、それも1日しか使わないんですね。なので、残りの29日くらいは違うことをしています。

逆に、企画女優というのはメーカーに専属しない女優さんたちで、いろんなメーカーからたくさん本数を出す方々です。なかには1千本以上も出される女優さんもいて、そういう方々は毎日のように撮影をしていることもあります。

じゃあ、私は普段いったいどういう生活をしているのかといいますと、まず毎月の性病検査というのがあります。これを受けないと撮影ができない、というパスポートみたいなものです。それ以外の日は、イベントに出たりとか、いろいろなメディアに出たりとか。そんな感じで、単体女優さんの中にもいろんな活動をしている方々がいます。

でも、こういう風にAVのお話をしてもみんながAV女優やAV男優になりたいわけでもないと思うので…、今日は私が特に社会とつながれているかなと思える仕事ということで、書き物について話をしたいと思って来たんですけど。大丈夫ですか?

落合 大歓迎です! そもそも最初は、物書きとしてのまなちゃんという目線で呼ぼうと思ったんです。今日はまなちゃんの異色のキャリアと、クリエイター活動を始めてどう感じたのかを同世代の学生さんに語ってもらいたいというのが趣旨なので。

SNSなら無料で書く筋トレができる

紗倉 では、どうして書き物をするようになったかということから話します。

もともと私、AVで裸になることには抵抗がないのに、こうやって人前で話すことにはすごく抵抗があったんですね。いわば“コミュ障気質”というか、あまり人と会話するのが得意じゃなくて。それで3年くらい前、何か社会とつながれる表現方法がないかと模索していた時期があったんですね。

ちょうどその頃、体調を崩して2、3日入院したんですが、ヒマだし、気持ちがふさぎこんじゃうので、当時使っていたガラケーに自分が感じたこととかを小説風にバーッと書いていったんです。

そしたら、それが2、3日の間に原稿用紙80枚くらいの分量になりまして。これは何かに使えるかもしれない、書くことに特化して自分を伝えることができるかもしれないと思って、ソフトオンデマンドの高橋がなりさんに相談したら「それなら“書く筋トレ”をしてコラムのひとつでも持てるようになれよ」とアドバイスをいただきました。

じゃあSNSなら無料で書く筋トレができる、ということで、Twitterで中二病っぽい痛い女の子みたいな感じで、自分の哲学とかいろいろ書いてた時期があって。で、SNSのすごいところが、見てくださる方がいるんですよね。そういう方から書く仕事のお話をいただいて、そこからコラムの連載も持てるようになりました。

書き物の表現をするようになって3年くらいになり、稚拙ではあるんですけど、コラムとかエッセイとか、小説も書いています。少し前には私が書いた『最低。』という小説が映画化されました。

AVをやってる人間が自我を出したり意見を出したりすると、興奮されにくくなるとか、こういう映画が出ると「どういう気持ちでAV観たらいいんだ」っていう声もありまして、確かにその心理もすごくよくわかります。それでもAVの表現と書き物の表現はやっぱり譲れないところが強い軸として心の中にあって。編集者の方とも「ギャルっぽい口調に直すのやめてください」とか、バトルになるくらい話し合っています。自分が妥協したくないことと、世間が求める商品価値ってものすごく差があるなと感じながら。

元々はAVで天下をとりたいっていう感じでAV業界に入ったんですが、ほんとにかわいくてきれいな方とか、才能に長(た)けてる方はたくさんいらっしゃるし、またこの業界は入れ替わりも激しいんですね。そんななかで自分が埋もれないためにはどうやって生きていけばいいんだろうとか、いろいろ模索してきた結果が、今の活動につながっている部分があります。

こういう場所でお話するのも本当におこがましいし、なんのセミナーだよ?っていう感じになってしまうかもしれませんが…。もし、なりたい自分とか夢があるなら、どうしたらなれるのかと、その夢を小分けにして、一番手前にあるものを人に話していくのが、自分の新しい開拓になる近道なのかなと思っています。私みたいなコミュ障でも、こんな風に居場所を見つけられたので、みなさんももっといい場所を見つけられると思います。

AVデビューしても絶対バレないと思ってた

落合 ありがとうございました! 後半の対談パートは、いつも僕が思ったことをずばずば聞いていっちゃう形なんですけど、どこから聞こうかな。まず、進路選択で高専に進学した理由が知りたくて。

紗倉 いろいろあるんですけど、まずひとつは親元から離れたかったというのと、寮生活がしたいなっていう気持ちがありました。あと、受験シーズンに体験入学みたいなのがあって、「楽しい授業が待ってるよ」って先輩がおっしゃってて。

落合 在学中にAVの仕事を選んだときは結構、悩みましたか? それとも自然に?

紗倉 私はAVデビューしても絶対バレないと思ってたんですよ。

落合 なるほど(笑)。学校にはどれくらいでバレたんですか?

紗倉 1週間でバレました。高専って男のコがすごく多かったので、男子寮とかで話題になるらしくて。

私としては肉体も魂も一番若い時に始めたいという思いがあって、学生の頃に応募したんですが、1週間で身バレして。会議室に呼び出されて毎日のように先生にパッケージと自分とを見比べられ、「これはおまえだ」って言われるという、妙な地獄のような日々が待ってました(笑)。

落合 高専生のグーグル検索力やべえ!っていう話ですね。マスメディアの情報やウィキペディアなどを見ると、2012年から2015年あたりがすごくビデオで出てるなっていう印象ですけど、あれでもスケジュール的には月1だったんですか?

紗倉 はい。ずっと月1で年間12本リリースです。なので私、もう7年目くらいになるんですけど、まだ100本出してないんですよ。

落合 それで思ったのは、今はラジオとか執筆とかお仕事がいっぱいあるけど、最初の頃って空いた時間は何してたんですか?

紗倉 エロい雑誌のちょっとしたコーナーの撮影とか、あとはイベントです。特にデビュー当初はいろんな店舗を回って。

落合 じゃあ最初の頃は、いわゆる駆け出しアイドルと同じような生活をしてたんですね。

紗倉 はい。ほんとにそんな感じでした。エロいおもちゃの紹介とか。毎日なんでそんなにエロいおもちゃのネタがあるんだろうってくらいひたすらやり続けて。すごいエロ大国だなってそのとき思ったんですよね(笑)。

落合 ちなみに、AVの仕事を辞めたいって思ったことあります?

紗倉 変な言い方ですが、AVが私にとって唯一の社会人デビューで、比較するようなものがなかったので、特別すごくイヤだなと思ったことはありません。ルーティンワークではない生活で、毎回違う現場で、違う人と会って、内容も違うことをするっていうのが気質に合っていて、辞めたいと思うことはないですね。

職業と人格を関連づけて笑うほうがおかしい

 

落合 1回の撮影時間はどれくらいですか? ものにもよると思うけど。

紗倉 長いときだと、朝7時にメイク始めて、終わるのは夜中の2時とか。

落合 ええっ!? 19時間ってやばいな。待ちが多いんですか?

紗倉 待ちも多いです。スタッフさんは大変そうですね。照明がっつり組むし、シチュエーションによってセットも組み替えるし。よく見ると部屋がかわいかったりしません? 熊のぬいぐるみがいたりとか。

落合 あー、イメージビデオとかでもよく使うやつ。なんかベッドに天蓋がついてたりとか、女子大生という設定だったら女子大生の部屋になってたりとか。

紗倉 ああいうのも全部スタジオで作っちゃってます。あとは痴漢ものだったら、電車のセットがあるスタジオとかで撮ってます。つり革とか全部ついてる、みたいな。

落合 じゃあそこは、AVで使ってないときは再現VTRとか撮ってるんですね。

紗倉 そうだと思います。実際に電車で撮ることはないです。

落合 ああいうの、どこで撮ってるのか超気になってたんだよね(笑)。

紗倉 すみません、いま答えを言ってしまいました。

落合 俺、まなちゃんがいいなと思うのは、他人の文句しか言わない社会のダメなやつにめちゃくちゃ怒ってるじゃないですか? 例えば、SNSやってるとなんか変なやつらいるじゃないですか。僕がまなちゃんのツイートをRTすると、「落合陽一はAV女優の相手してて草」とか言うやつがいるんですよ。

紗倉 あはは。

落合 「草」じゃないだろ、職業と人格を関連づけて笑うほうがおかしいだろって、ときどき僕はブチ切れるんだけど。まなちゃんもよく同じことしてるじゃないですか。「あなたが口汚いのと私がAV女優なのは関係ない」とか。これはたまらんと思って。

「おまえは黙って抜いてろ」

 

紗倉 私、自分に対する反響を、“一意見”と“一ノイズ”に分けてるんです。ノイズは周波数があって「うわっ公害レベルだ」っていうのもあれば、不快じゃないものもあって。

落合 意見ってどういうものを指すんですか?

紗倉 例えば「作品見ました。次イベント行きます」とかもそうですし、普通にコミュニケーションとれるなっていうきっかけを与えてくれる感じのものなら。

落合 じゃあ、公害レベルのノイズは? 一番イラッときたことはなんですか?

紗倉 一番イラッとすることは、何を言っても「肉便器」って言われることですね。

落合 えっ、それはイラッとしますね。

紗倉 あと、以前言われたのは「お前はいろいろ物事を多く語って、まるで文化人気取りだな」みたいな。「肉便器は黙って脱いでろ」って言われたことがあって。それに対して「おまえは黙って抜いてろ」って返したら…。

落合 それ天才じゃん!(笑)

紗倉 そしたら(相手が)炎上しちゃったんで、大人げないことしちゃったなって(笑)。

落合 でも、Twitterってフォロワー多いとそうやって絡んでくる人いますよね。俺もね、「ブサイク」とか「馬鹿」とか「キモい」って書かれることがあったりとかね。

紗倉 息苦しいですね。

落合 いや、そのくらいなら僕は全然大丈夫なんだけど。でもそういうのって、当事者意識を持てるかっていう話だと思う。つまり、自分が言われたらどうなの?って、活動してる側のことをちゃんと考えられるかっていう。あとは「おまえ、そっち側にいけるの?」っていうね。大体そっち側にいけないやつがTwitterに溜まってるんですけど。

紗倉 同じところに立てていないんですね。

落合 そうそう。大学で教えてると22、3歳のコが、多くは自分の殻を破れずに卒業していくんですけど、それを見ていて、ある種の当事者意識を持って社会に向き合ってほしいなと思うんですよ。

だって、コンテンツとして消費するだけじゃ面白くないじゃないですか。逆に自分自身がコンテンツになった側の人間なら、どう相手したらいいかとか考えていかざるをえない。

紗倉 そうですね。両者を味わうことで、単純に考えると2倍の視野になるじゃないですか。両方味わえたほうが、自分をさらに突き詰めることができる気がします。

◆第2回⇒落合陽一×紗倉まな「“普通”という価値観で性文化を押し潰す日本社会は変われるか?」

■「#コンテンツ応用論2017」とは?本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」つきで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

落合陽一(おちあい・よういち)1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピューターが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。1月31日に新刊『日本再興戦略』(News Picks Book、幻冬舎刊)が発売予定。

紗倉まな(さくら・まな)1993年生まれ、千葉県出身。高専在学中の2012年に18歳でAVデビューして以来、トップ女優として君臨。一方でエッセイや小説の執筆、地上波含む各メディアへの出演など枠にとどまらず活動する。2016年にはトヨタ自動車の情報サイトでコラム連載がスタートし話題に。著書にエッセイ『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)、連作短編小説『最低。』(角川文庫)、長編小説『凹凸』(KADOKAWA)など。『最低。』は瀬々敬久監督により昨年映画化され、第30回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された。

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)