昨年の世界選手権でシングルとデュアルの2冠を達成した堀島行真も愛用!(提供/マテリアルスポーツ、Photo Tampo Taro)

「マテリアルスポーツ」という名前をご存じだろうか。大阪府守口市に本社を置き、世界の一流モーグル選手から引っ張りだこのスキー板「ID one」を販売するスポーツ用品会社だ。

2000年から現在まで、このスキーを履いた選手が獲得した金メダル数は五輪6個、世界選手権14個。今シーズンはなんと、W杯初戦で表彰台に上がった男女6人全員が使用しており、平昌(ピョンチャン)五輪でもメダルの期待がかかる堀島行真(ほりしま・いくま)をはじめ日本男子4選手のうち3人が履く予定だ。

ところが、驚くことに同社は社長含め社員わずか4人の超少人数企業! 一体、世界最強のスキーはどうやって開発されたのか? 「ID one」の生みの親である藤本誠社長(59歳)を、韓国・平昌に飛び立つ直前に直撃した。

もともとフランス製ゴーグルの輸入販売を手がけていた藤本社長がスキー作りに乗り出したのは、用具を提供していたモーグル女子元日本代表・上村愛子へのひと言がきっかけだったという。

「1999年3月、前年の長野五輪で7位に終わった彼女と食事をしたんです。彼女は外反母趾(ぼし)で、スキー板が合っていないと感じていたので、酒の勢いもあってつい『ほな、オレが愛子に合うスキー作ったろか』と口走ってしまったんですよ(笑)」

上村のリクエストは、「コブを越えるときにペタペタする感じのスキー」というもの。

「彼女独特の表現で理解するのに苦しみましたが、要するに、コブを越えるときに雪面に吸いつくようなバランスと柔らかさを兼ね備えたスキーということでした。また、それとは別に長野五輪で銀メダルを獲ったフィンランドのヤンネ・ラハテラ選手(現日本代表チーフコーチ)からも、自分のカービングテクニックに合ったスキー板が欲しいと相談されていたんです」

社員がわずか4人なのはなぜ?

「ID one」を手にする藤本社長。同シリーズにはモーグル競技モデルのほか一般向けモデル、高齢者にも適した軽量モデルの製品もある。

それまでスキー板を作っていなかった同社だが、藤本社長には勝算があった。

「実は、自分が年寄りになって筋力が衰えたときに備えて、カービングスキーの利点を生かし、わずかな力と操作だけで板がたわんでコントロールできる“老人用スキー”を作ろうとアイデアを温めていたんです。上村選手やヤンネ選手のリクエストを聞いて、それをモーグル競技向けに生かそうと思いました」

イメージがはっきりしていたこともあってか、わずか2ヵ月後には試作品が完成。ねじれとたわみのバランスが絶妙で、こぶだらけの急斜面をスムーズにターンできるモーグル用スキーが誕生した。

このスキーを履いた上村は00-01年シーズン、自己最高のW杯総合2位に輝く。その後、評判を聞きつけた世界のトップ選手から注文が殺到し、「ID one」はモーグル界ナンバーワンのスキー板となったのだ。

しかし、それでも社員がわずか4人というのはなぜ?

「少人数だからスピーディに意思決定できる。スキー板作りには今の体制が合っています。ひとりは試乗会のためにスキー場を回り、もうひとりはいつでも製品テストができるように長野県白馬村に常駐。普段本社にいるのは私含めふたりだけですよ」

大阪発の最強スキー板が、平昌五輪では表彰台を独占するかもしれない。

(取材・文/ボールルーム)