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前川喜平ロングインタビュー 「教育無償化」が単なるバラ撒きにならないために必要なこととは?

[2018年02月14日]

─お金持ちは控除で30万円近くも得するのに、庶民はちょっとだけしか税金が安くならないし、本当に助けが必要な貧困層に至っては恩恵ゼロなんですね!

前川 そういうことです。かつて民主党政権下で「控除から給付へ」というスローガンがあったのですが、これは基本的に正しい方向だと私は思っています。税金の控除ではなくて、歳出のほうで本当に助けが必要な人たちにきちんと必要なお金を出して、基本的なところまではちゃんと国が保障する方向に転換していく。そういう実効性のある教育費負担の軽減を「税制と歳出政策の見直し」を通して実現することが必要なんじゃないかと。

こういう税制や歳出の話っていうのは複雑で面倒くさい話かもしれませんが、ものすごく大事なんです。「富の再配分」なんて言うと、なんだか難しい言葉に聞こえるけれど、それは結局、みんなのお金を「税金」という形でどう集めて、それをどう使うかということであって、その方法をみんなで考え、話し合って決めるのが「民主主義」でもある。

ところが、選挙の時も税制については「消費税率を云々…」という話以外はほとんど議論にならないことが多い。だけど、よーく考えてごらんなさいと。金持ちが得するようになっていますよと。この特定扶養控除なんてまさに金持ち優遇になっていると思います。

―家庭の教育費負担を軽減するための控除制度が、結果的に金持ち優遇になっている。目的と現実が乖(かい)離していると言わざるを得ませんね。

前川 おそらく、ひと昔前までは高等教育なんて贅沢なものだ、金持ちのためのものだというような社会的な通念みたいなものがあったと思います。しかし、今や80%が高等教育に行くわけです。ところが、例えば児童養護施設出身者の高等教育進学率を見ると、大学と専門学校を合わせてたったの2割に過ぎない。つまり、児童養護施設出身者の8割は高卒で止まっているんです。

―そういう意味では、全体の大学進学率が上がっているからこそ教育機会の格差が現実の格差に反映する影響も大きいわけですね。

前川 その通りです。だから、今は18歳以降になんらかの高等教育の機会を得られないほうがマイノリティで、そのハンディキャップが大きくなっているわけです。高等教育の機会を経済的な理由で諦めなければいけない人たちに対して、どうやってチャンスを与えるのか。そのための有効な制度設計というものをきちんとやっていかないといけない。大学や専門学校の「希望者全入」を前提とした「高等教育の無償化」を目指す前に、まずはそうした環境づくりを優先すべきじゃないかと思います。

ただ、格差と教育の問題という意味では、それとは別に「高校に進学できても学力が追いつかない」という問題は依然残るんですけどね。

─それはつまり、生徒自身のやる気や努力とか、そういう問題ではなくて?

前川 ほら、私、歌舞伎町の「出会いバー」とかで、いろんな人たちの話を聞いていたじゃないですか。

―読売新聞に「報道」されたやつですね。

前川 そこで実感したのですが、例えば両親が離婚して母子家庭になったりすると、そこから貧困が始まり、その結果「家庭の文化力」みたいなものがどんどん衰えていくんです。

―「家庭の文化力」とは?

前川 例えば、家の中にほとんど本がないとかね。それに加えて、東京などの大都市では人間関係が非常に希薄ですから、母子家庭だと親以外に子供をケアしてくれる人がいない。そういう環境で育つと、学習する習慣をつけることは困難になるわけです。実際、歌舞伎町で会った人たちの中には不登校の経験者が多かったし、高校中退者もすごく多かった。貧困の中で人間の心が育つ土壌が痩せ衰えていると感じましたね。

やはり格差の広がりというのは、学費や進学の機会だけでなく、そうした「子供たちが育つ基本的な環境」という部分にも深刻な影を落としているのだと思います。

●後編⇒前文部科学事務次官・前川喜平が「道徳」教科化に警鐘──「国体思想的な考え方は子供たちを“分断”させかねない」

(取材・文/川喜田 研 撮影/保高幸子)

●前川喜平(まえかわ・きへい)
1955年生まれ。東京大学法学部卒業。79年、文部省(当時)へ入省。宮城県教育委員会行政課長などを経て、2001年に文部科学省初等中等教育局教職員課長、10年に大臣官房総括審議官、12年に官房長、13年に初等中等教育局長、14年に文部科学審議官、16年に文部科学事務次官を歴任。17年、退官。現在、自主夜間中学のボランティアスタッフとして活動中

前川喜平書籍
■『これからの日本、これからの教育』 (ちくま新書 860円+税)
天下り問題で引責辞任した後、加計学園の問題をめぐって安倍総理の“ご意向文書”の存在などを国会で証言し、「行政がゆがめられた」と“告発”した前文部科学事務次官の前川氏。この問題を通じて教育行政とはどうあるべきか、また生涯学習からゆとり教育、高校無償化、夜間中学まで、同じく元文部官僚の先輩、寺脇研氏と語り尽くす

前文部科学事務次官・前川喜平が「道徳」教科化に警鐘──「国体思想的な考え方は子供たちを“分断”させかねない」


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