長友と原口は、前向きな判断をしたと思うと語るセルジオ越後氏。

さすがW杯イヤーだね。欧州主要リーグの冬の移籍市場が幕を閉じた。例年同様に多くのビッグディールが成立して盛り上がりを見せたけど、今季は日本人選手にも大きな動きがあった。

長友と原口、日本代表の主力クラスのふたりが、出場機会を求めて格の落ちるクラブへの移籍を選択した。

いつも言っているけど、プロは試合に出てなんぼ。看板(クラブの名前)にしがみついて、試合に出られないのではなんの意味もない。まして今年は6月にロシアW杯が控えている。23人の代表メンバーに生き残れるかどうかを考えれば、彼らの選択は当然。いい判断をしたと思う。

インテルに7年も在籍した長友は、クラブへの強い思い入れもあっただろうし、W杯イヤーじゃなかったら残留する道を選んでいたかもしれない。実際、昨年末以降はカップ戦にしか出られない状況が続いていたけど、“ある程度は計算の立つ選手”といった感じで、リーグ戦でもベンチに入り続けていた。決して戦力外という感じではなく、我慢を続けていればひょっとしてポジションを奪い返せたかもしれない。また、そもそも日本代表の左サイドバックは層が厚くない。インテルで出場機会が少ないままでも、ケガさえしなければW杯メンバーに入る可能性は高かったと思う。

それでも自ら移籍を志願したのだから、長友の危機感がうかがえる。彼の持ち味は、あの小さな体でもしっかりと守れて、サイドのアップダウンを何度も繰り返せること。それを維持するのに一番大事なのはコンディション。試合に出られないことでコンディションを崩し、自分の持ち味を出せなくなってはW杯で戦えないと考えたのだろう。

新天地のガラタサライは、インテルに比べれば、クラブの知名度などブランド力は劣る。でも、毎年のように欧州チャンピオンズリーグに出場するトルコの名門。資金力もあるし、施設も充実している。そんなチームにあって、長友は合流早々のリーグ戦で先発フル出場を果たした。言葉の壁もあるし、生活環境も多少変わるけど、長友は経験豊富で考え方もしっかりしている。トルコは料理もおいしく、日本びいきのお国柄だ。きっとうまくやっていけるだろう。心配ない。

W杯本番に向けて、どんどん自信を取り戻してほしい

一方の原口は長友と異なり、移籍問題をこじらせ、ヘルタ・ベルリンで居場所を失った状態だった。たとえドイツ2部のデュッセルドルフでも、出ていくしかなかったのだろう。

でも、彼も長友同様に前向きな判断をしたと僕は思う。2部といっても、優勝を争っているデュッセルドルフと、ヘルタを含めた1部下位チームのレベルに大差はない。2部だからといって、恥じる必要は何もない。

そして、原口はチーム合流後、3試合で1得点2アシストと早くも結果を出している。素晴らしいことだね。W杯本番に向けて、どんどん自信を取り戻してほしい。

今季の欧州には、彼ら以外にもなかなか試合に出られない日本人選手がたくさんいる。移籍市場が閉じた今となってはどうしようもないけど、彼らも長友、原口を見習うべきだった。昨年夏にACミランを離れ、今パチューカ(メキシコ)で調子を上げている本田のケースもあるしね。

いずれにしても、長友と原口の今後を期待して見守りたい。

(構成/渡辺達也)