日本代表への思いを語る日本バスケの新世代・渡邊雄太

一昨年のBリーグ誕生以降、着実な歩みを続ける日本バスケ界に強烈な追い風が吹いている。日本の高校を卒業後、本場アメリカの強豪大学に進み、現地で高い評価を受ける大型選手が次々に登場しているのだ。

2004年の田臥勇太に次ぐ、日本人史上ふたり目のNBAプレーヤー誕生はもはや時間の問題。今から注目すべし!

米強豪大学で活躍する日本バスケ新世代の選手たち。その中で文字どおり“先頭”を走ってきたのは、ジョージ・ワシントン大学(以下、GW大)でプレーする渡邊雄太だろう。

身長206cmの大型選手ながら、ダンクから3ポイントシュートまで内外角を自在にこなし、長い腕を生かしたリバウンドやブロックショットなど高い守備能力も兼ね備える。4年生となった今季はエースとしてチームを牽引(けんいん)し、昨年12月にはGW大の属するカンファレンスの週間MVPにも選ばれている。そんな渡邊にNBA、日本代表への思いを聞いた。

■『スラムダンク』は読み込んでいますよ

―高校卒業後の渡米を決意した理由は?

渡邊 小さい頃から「NBA選手になりたい」というのが夢で、いつかアメリカでプレーしたいと思っていました。それでも、高校2年までは日本の大学に進もうと考えていたんですけど、その冬のウインターカップ(全国高校バスケ)で準優勝したことで、アメリカに詳しい人と話す機会が増えたんです。話を聞いているうちに、「行くなら今かな」と思うようになって。それで、高校卒業のタイミングでの渡米を決めました。

―10代での渡米には、苦労も多かったのでは!?

渡邊 かなり戸惑うだろうと予想はしていたんですけど…やはり言葉が一番大変でしたね。最初はレストランでの注文の仕方もわからないレベルでしたから(笑)。でも、プレー中は苦労した記憶がありません。チームメイトとの会話は難しくても、コーチが自分に何を求めているかはわかったんですよね。

―以前、プレップスクール(大学進学のための準備校)ではボールが回ってこなかったとも話していましたが。

渡邊 確かに、日本にいたときは自分がチームの中心なので、必然的にボールが回ってきました。でも、アメリカでは自分からボールを呼び込まないと、パスさえしてもらえない。だから、自分がボールを持ったときは積極的にいきましたよ。「コイツ、できるな」と思ってもらえたことで、徐々にパスの回ってくる回数は増えていきました。

―ほかにバスケ文化の違いを感じたところは? コート上で激しく言葉を交わし合う、トラッシュトークもアメリカの特徴だと思いますが。

渡邊 日本では、相手に対するリスペクトが根底にあるので、試合中に相手に何かを言うなんてありえない。トラッシュトークはアメリカで初めて経験しました。ただ、それをされるというのは、相手が自分を認めていて、警戒している証拠。何かを言われることが逆に自信になりました。

『スラムダンク』は読み込んでますよ

206cmの長身ながらしなやかな身のこなしで、内外角を自在にこなす。守備能力の高さも持ち味。

―渡邊選手といえば、豪快なダンクシュートも持ち味のひとつですが、初めてダンクを決めたのはいつ?

渡邊 高校1年生の冬だったと思います。当時は身長190cmほどで、高校に入ってジャンプ力がついてきていたこともあって、先生に「ダンクしてみろよ」と冗談交じりに言われたんです。それで試しにやってみたら、初めて成功して。それ以降は簡単にできるようになりましたね。

―ちなみに、マンガ『スラムダンク』(1990~96年、『週刊少年ジャンプ』に連載。渡邊選手は94年生まれ)は読んだことありますか?

渡邊 めちゃめちゃ読み込んでいますよ。好きなキャラクターを選ぶのは難しいですけど…やはり桜木、流川、仙道ですかね。特に仙道は陵南のエースで華があるというか、見ていて楽しいキャラなのでスゴく好きです。

―なんでも高いレベルでこなせる選手という意味では、渡邊選手と似ています。

渡邊 印象に残っているのは、陵南が湘北相手にリードを奪われてチームが動揺しているときに、仙道が「落ち着いて1本いこう」とチームメイトに伝えるシーンです。キャプテンの魚住も「本当はアイツのほうがキャプテンに向いている」と心の中でつぶやいたように、仙道の器量、リーダーシップ、信頼度の高さを感じさせるいいシーンでしたね。

■なるべく日本代表の試合にも出たい

―4年生となった今季、ここまでの調子はどうですか?

渡邊 自分の役割が増えて大変なことも多いですけど、リーダーシップという面では成長できたと思っています。試合の流れが悪いとき、チームメイトに声をかけるといったことが自然にできるようになってきました。

―開幕前の時点では、課題として「ジャンプシュートの精度を上げること」「フィジカルを強くすること」を挙げていました。そのふたつは、NBA入りにも不可欠ですね。

渡邊 そうですね。開幕直後は特にシュートの成功率がよくなかったですし、もっと練習しなければいけません。一方でフィジカルについては、4年間やってきた慣れに加え、夏の間に行なったウエートトレーニングの成果が、ブロックショットの数に出ているのかなと思います。

アメリカの選手は、体をぶつけながらシュートを決めるのが本当にうまい。2年生くらいまでは体を当てられるとよろけていたんですけど、今はしっかりブロックできるようになってきています。

―今季見えてきた新たな課題はありますか?

渡邊 今季はチームの中心選手になったことで、相手のエースディフェンダーが自分をマークしてくるようになりました。その影響で、いいシュートが打てないことがあります。特に(昨年12月16日に、全米ランキング6位の強豪)マイアミ大学と対戦した際は、相手に完璧にスカウティングされていて、シュートを“打たされる”ことになってしまった。マークをはずすといった技術をさらに磨くことで対応しなきゃいけないですね。

最上級生の今季はエースとしてチームを牽引。卒業後の進路が注目される。

東京五輪に出るために日本代表で力になりたい

―卒業後のNBA入りを期待するファンも多いですが、渡邊選手にとって非常に重要な大学ラストシーズンを過ごせているようですね。

渡邊 今季はとにかくNCAA(全米大学体育協会)トーナメントに出ることが僕の一番の目標です。それを目標にここまでやってきたので、必ず成し遂げたい。そして、シーズン中の活躍次第では、その後の道が必ず開けます。最終目標であるNBAにたどり着けるように、一戦一戦、毎日を大切にしていきたいです。

―ちなみに、日本人初のNBA選手である田臥勇太選手(Bリーグ栃木)の印象は?

渡邊 大学2年のシーズンが終わった後、リオデジャネイロ五輪予選を戦う日本代表でチームメイトになったときには、一緒に多くの時間を過ごしました。たくさん話しかけてくれましたし、優しくて、人間的にも素晴らしい方です。

PG(ポイントガード)としてゲームをまとめる力もスゴかった。欲しいと思うときにボールが来るから、一緒にプレーして面白いし、味方を気持ちよくプレーさせられる選手だなと感じました。

―その田臥選手ともプレーした日本代表について、今年6月開催の19年W杯アジア予選には出たいですか?

渡邊 チャンスをもらえるなら出たいと思っています。これまでも招集はかけていただいているんですけど、なかなか参加できない状況が続いていて。今年もどうなるかはわかりませんが、なるべくスケジュールを調整して、試合に出たいです。

―2020年には東京五輪も開催されます。

渡邊 東京五輪は絶対出たいですし、そうなると、アジア予選が大切になってきます。五輪に出たいのに、予選には参加しないなんていう自分勝手なことは絶対にできません。東京五輪に出るために、自分が日本代表で力になりたいと思っています。

◆明日は、現役NBA選手も絶賛する八村塁(はちむら・るい)を配信予定!

英語でのメディア対応も堂々としたもの。

渡邊雄太(わたなべ・ゆうた)

1994年生まれ、香川県出身。尽誠学園高校を卒業後に渡米。プレップスクール(大学進学のための準備校)を経て、NCAA(全米大学体育協会)1部ジョージ・ワシントン大学に授業料、寮費などが全額免除されるフルスカラシップ(奨学金)の厚遇で進学。両親ともに元実業団所属のバスケ選手。現在はアメリカでの学業、プレーを優先することが多いが、日本代表での活躍も楽しみな万能型のサウスポー。身長206cm、体重89kg。

(取材・文・撮影/杉浦大介 写真/アフロ)