中邑真輔はなぜ、プロレスの本場であるアメリカのファンに受け入れられたのか?

新日本プロレス退団から2年。今、アメリカで中邑真輔(なかむら・しんすけ)が大フィーバーを巻き起こし、WWEの頂点に立とうとしている。いったい現地で何が起きているのか? 

日米のマット事情に詳しく、中邑とも親交のある東京ダイナマイト・ハチミツ二郎氏と『KAMINOGE』編集長・井上崇宏氏が語り尽くした。

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―1月28日に行なわれたWWE「ロイヤルランブル」で中邑真輔選手が日本人として初優勝。これにより4月に行なわれる「レッスルマニア34」(ルイジアナ州・ニューオーリンズ)にてWWE王座に挑戦が濃厚です。まずこれは、どのくらいスゴイことなんでしょうか?

ハチ WWEというのはアメリカを拠点とする世界最大のプロレス団体で、この4月に行なわれるレッスルマニアはその年間最大イベント。つまりプロレスにおける世界最大のお祭りのトリに中邑真輔が出場しそうだというわけなんです。

井上 レッスルマニアは僕も2年連続で行ってるんですけど、毎年7万人以上を動員していて、一昨年は10万人超えで史上最多動員記録も更新しました。

ハチ 日頃から日本の興行の水増し発表に慣れちゃってるんで、実際は7万人なのに15万人ぐらいに感じるという(笑)。

井上 さいたま(スーパーアリーナ)の“4万人”の4倍ぐらいいますからね(笑)。会場自体がひとつの町というか、端から端まで歩くと30分以上かかる。

ハチ 年によっては会場が12階建てだったりする(笑)。

井上 とにかく日本ではありえないモンスターイベントです。

ハチ そんな大会のメインについに真輔が登場するんです。だから今年の4月8日以降、俺は間違いなくシンスケ・ナカムラが「アメリカで最も有名な日本人」になると思ってます。

井上 全米で毎週1400万人が視聴するほか、世界170ヵ国以上で放送されているWWEの中でも、今や中邑はトップクラスの人気選手になったわけですからね。

ハチ ひと口にアメリカ人といってもいろんな層がいて、例えばニューヨークの場所がわからないヤツとか、日本の首相は金正男(キム・ジョンナム)だと真剣に思ってるヤツもいるわけで。そんなヤツでもシンスケ・ナカムラは知ってて、しかも日本人であることが認知されているのはすごいところ。

井上 認知度でいうと、もうイチローは超えてますかね?

ハチ だと思いますよ。本当かわからないですけど、昔、TAJIRI選手がWWEで活躍しているときに、イチローと同じくらいの知名度っていわれてましたから。

井上 だとしたら今の中邑のイチロー超えは間違いない。

WWEって基本、グッズが売れる選手が上に上がっていく

―中邑選手は16年の4月にWWEでデビューし、そこからわずか2年でスターダムにのし上がりました。このあたりのスピード感はどうですか?

ハチ すべてが異例ずくめですよ。最初の1年はNXTという2軍にあたる団体で活躍して、そこから1軍のスマックダウンに昇格。その後、瞬く間に王者挑戦ですから、運営側ですら想定していなかったスピードで人気が上がっているんでしょう。

井上 僕もさすがに「早すぎだろ!」って思いましたけどね(笑)。去年、ちょうど彼が1軍に上がった頃、話を聞いたら「いつかはレッスルマニアのリングに上がるのが目標だし、あそこのメインイベントはプロレスラーのステージとして最も高い所」とハッキリ言ってて。でも、そこにわずか1年で上り詰めてしまった。

ハチ WWEって基本、グッズが売れる選手がどんどん上に上がっていくんです。去年、僕がレッスルマニアを見に行ったとき、真輔はまだ前日の2軍のビッグマッチに出てたんだけど、会場のほとんどのファンが真輔のTシャツを着てて驚きました。

井上 そう、この話、全然、盛ってないですからね(笑)。本当にみんな着てるんですよ。

ハチ 当時、真輔はNXTの主役だったからまだそれはわかるとしても、その翌日にレッスルマニアに行ったら、試合に出ないのに、ここでも真輔のTシャツを着てるヤツがいっぱいいて。これだけファンの支持があるなら1軍昇格も近いだろうなと思ってたらすぐに上がって。

井上 お金を生むことのできる選手はすごいスピードで上がっていく。WWEって一見、綿密にストーリーが出来上がってるように思われがちだけど、実はファンの声、ニーズに動かされるんですよね。そこはある意味、とてもフェア。

ハチ その点、日本はまだ強さとか風格、先輩レスラーからの評価とかが重視されるわけだから対照的ですね。

★中邑真輔がアメリカ人に“刺さった”理由とは? 看板商品を取られた新日の心境やいかに? 記事の全文は『週刊プレイボーイ』10号(2月19日発売)「プロレス界の世界的メインイベンター・中邑真輔を語ろう、イヤァオ!!」にてお読みいただけます!

●ハチミツ二郎(はちみつ・じろう)1974年生まれ、43歳。東京ダイナマイトのツッコミ担当。日米のプロレスに造詣が深く、自身もリングに上がる。今年は「ハチミツ二郎と行くレッスルマニア34観戦ツアー」を企画

●井上崇宏(いのうえ・たかひろ)1972年生まれ、45歳。『KAMINOGE』編集長。ハチミツ二郎と同じ岡山県出身。ハチミツの実家の部屋の窓を開けると見える山の上にある神社の息子。今年のレッスルマニアでは中邑を見て落涙濃厚

(写真/AFLO)