約3年ぶりの監督作『ブレードランナー ブラックアウト2022』を発表し話題となった渡辺信一郎さん

2017年に誕生から100周年を迎えた日本のアニメ――。日本が世界に誇る一大コンテンツのメモリアルイヤーを記念して、週プレNEWSでは旬のアニメ業界人たちへのインタビューを通して、その未来を探るシリーズ『101年目への扉』をお届けする。

第6回目は、アニメ監督の渡辺信一郎さん。2017年は映画『ブレードランナー2049』のスピンオフアニメ『ブレードランナー ブラックアウト2022』で約3年ぶりの監督作を発表し、Web配信の短編作品ながら大きな話題となった。

『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』といったアクション作品により、アメリカを中心に海外にも熱狂的なファンが多い渡辺アニメ。なぜ、彼の作品は世界的に反響を呼ぶのかーーインタビュー前編に続き、話を伺った。

■「これでワタナベも終わりだな」と言われた

―アニメの音楽の可能性を広げるべく、近年は音楽プロデューサーとしても活躍されていることについてお聞きしましたが、ここからは渡辺作品が海外でも人気となっている理由についてお聞きできればと。ご自身は海外市場をターゲットとして意識されることはありますか?

渡辺 いや、そこを意識して作ったことはないですね。じゃあ国内市場を意識してるのかと言ったら、そっちも意識してないけど(笑)。そもそもターゲットなんていう、曖昧(あいまい)で抽象的な概念に振り回されたくない、って感じかな。まぁ、最近はアニメ界も宣伝部とか営業部の力が年々強くなって「マーケティング」とか「ユーザーのニーズ」とか仰るプロデューサーの方が増えたんですけど、結局、やってることは「売れた作品と似たようなものを作る」ってことが多い気がして。実際は、『魔法少女まどか☆マギカ』とか『進撃の巨人』とか、前例がないような作品のほうが大ヒットしてんじゃないかと思うんだけど、どうでしょうか(笑)。

―しかし、常に新しいものを求めるがゆえに、従来のファンから否定的な反応が返ってくることもあるのでは?

渡辺 ありますよ、『スペース☆ダンディ』とかで(笑)。『ビバップ』風のかっこいい作品SFアクションかと思ったら、似ても似つかぬナンセンスな作品だったという。海外では「オレたちが観たかったのはこれじゃない」「ワタナベももう終わりだな」とかいう反応もあったとかで(笑)。

―そこまで言われましたか(苦笑)。

渡辺 まぁ、そんな意見は無視ですが(笑)。

―でも、そういう反応をわかって作っていた?

渡辺 その時は単にコメディが作りたかっただけの話で。そんな反応とか、いちいち気にしていたらやってられないぜって(笑)。あの、日本人って空気を読んで、周りの顔色を伺って行動する人が多いじゃないですか。SNSだって、顔色を伺うためのツールになってるように感じるんだけど、作り手がいちいち見る人の顔色伺ってて、本当に素晴らしい表現ができるのかっていうさ(笑)。

これはアニメに限らず、TV番組とか他のジャンルもそうだけど、SNSの発展とともに日本人の作り手の表現がだんだんつまんなくなってるように感じますね。今後の日本文化の発展のためには、法律でSNSを禁止するべきじゃなかろうか(笑)。

なぜ『ビバップ』はアメリカで人気なのか?

■なぜ『ビバップ』はアメリカで人気なのか? 

―それだけ『スペース☆ダンディ』が賛否両論になったのも、向こうで『カウボーイビバップ』がものすごく人気があるからだと思うのですが、なぜこんなにもアメリカにファンがいる作品になったのでしょう?

渡辺 『ビバップ』は向こうのケーブルテレビで何十回も再放送されてて、日本人が思っている以上に定着しているみたいで。TVをつけたら普通にやってる感じで。

―じゃあコアなアニメファンのものっていうより、一般的に広く観られている作品なんだと。

渡辺 そう。思えば日本でも昔は『ルパン三世』とか『機動戦士ガンダム』とか、最初のTV放送では人気が出なくて、打ち切りに近い形で終わってるんです。でも再放送するうちに徐々に人気が出ていった。今の日本ではそういうパターンはなくなりましたけど、実はアメリカで生きていた、ってことらしい。

―とはいえ、他にもいろんな日本のアニメがアメリカでも放映されているのに、なぜ『ビバップ』がこんなに人気に?

渡辺 まあ、そもそもがアメリカ映画の影響を受けた作品だった、というのはあるかな。

―渡辺さん自身、アメリカ映画からの影響を公言されていて、その部分が強く出ているというか…。

渡辺 でも、影響を受けたのはかなり古いアメリカ映画だけどね。ちなみに、最近はずっと最新の映画ばっかり観てたんだけど、たまにリバイバル上映でサム・ペキンパー監督の『ゲッタウェイ』とか観たら、『やっぱり、どの新しい映画よりこっちのほうが好きだな~』と思ったりして(笑)。

―つまり、意図的に海外狙いの作品を作ったというより、期せずしてアメリカ人も好きな要素がにじみ出たのが『ビバップ』だったわけですね。

渡辺 ただ、作ってるのが日本人だから、結構、日本的なメンタリティの部分も多いと思うんだけどね。外国人が本当にこの作品を理解してるのか、それとも誤解してるのかはいまだにわかりません(笑)。

―『サムライチャンプルー』も海外で人気がありますよね。

渡辺 外人はサムライならなんでも好きなんじゃないの(笑)。でもあれ、デタラメ時代劇と銘打ってるのに、海外では「これがサムライなんだ!」って信じちゃってる若いコとかいるらしくて(笑)。サムライは背中に刀を背負ってるとかさ(笑)。

―じゃあ、間違った日本のイメージ作りにもひと役買ってしまっていると(笑)。

渡辺 あの、『サムライチャンプルー』も「海外ウケを狙ったんでしょ?」とかいうヤツらがいらっしゃいますが(笑)、あんなの、外人にわかんないギャグ満載ですよ。「木枯らし野郎」とか「印籠出してくるジジイ」とか、海外受け狙ってたらそんなのやんねーって(笑)。

当時は勝新太郎の『御用牙』とか若山富三郎の『子連れ狼』とかのハチャメチャ時代劇みたいのがやりたかった。ただ、そのままやっても古臭くなっちゃうから、「古いネタを部分的にサンプリングして新しく作り変える」というヒップホップの手法を使ってアップデートしただけ。音楽ももちろんヒップホップだけど、コンセプトそのものがヒップホップの影響だった。ヒップホップもアメリカ文化だから、それもあって向こうで受けたのかも知れないけど。

新作TVシリーズを準備中!

■原点はあの伝説的バンド

―あくまで本人が好きにやった結果、海外での反響がついてきただけであって、その逆ではないというわけですね。

渡辺 そうです。…こうやって話してて思い出したけど、自分の原点のようなもの、一番影響されたのは映画でもアニメでもなく、さっきも話に出たYMOじゃないかと思いますね。

―なるほど! 前編で語っていただいた音楽に対するこだわりもそこに繋がっていると。

渡辺 YMOは自分が中学生の時にデビューして、高校3年の時に散開(活動休止)してるんです。だから、10代のもっとも影響受けやすい時に直撃してるから、本当に刷り込まれてると思いますね。

―YMOのどこに影響を?

渡辺 もちろん、一番は音楽そのもので、少なくとも1980年においては世界音楽の最先端に到達してて、そんなことは日本の音楽史上初めてですよね。そういう先鋭的なことをやってて、なおかつ売れてるってのもカッコよかったし、同じことを繰り返さず、常に変化しててアルバムごとに全然音が違うのもよかった。次は何をやるのか?っていうドキドキ感が常にありましたね。型破りなことを平然とやったりするのもカッコよくて、突然、コント入りのアルバムを出したりとか(笑)。

―コントユニットの「スネークマンショー」とコラボした『増殖』ですね。

渡辺 「スネークマンショー」自体も好きでしたね。『サムライチャンプルー』とか『スペース☆ダンディ』にはスネークマンショーの影響もあると思うんだけど、インタビュアーの人が「なんですか、それ?」ってことが多くて(笑)。

―『増殖』だって1980年のアルバムですから、下の世代だと知らない人のほうが多いでしょうね。

渡辺 話になりませんよ、全く(笑)。あと、これは書いといてほしいんですが、いつかYMOの方々に音楽をお願いしたいな~というのが自分の究極の野望です(笑)。前に『エクス・マキナ』ってCGアニメの映画にYMOが新曲を作った時には「先にやられた!」ってことで、もう悔しくて悔しくて(笑)。それはともかく、いつか実現させたいな~と思うと同時に、それにふさわしい作品を作んなきゃな、と思ってます。

―2017年は『ブレードランナー ブラックアウト2022』で久しぶりの新作を発表されましたが、今後の予定は?

渡辺 今はまた新しいTVシリーズを準備中で、遠からず発表されると思います。

―それは『ビバップ』のようなアクション作品とは、また別路線のもの?

渡辺 本格的な音楽モノ、普遍的なポップスというものをやりたいと思ってます。あとは『ブラックアウト2022』で、やっぱりSFとかアクションとかはやってて楽しいなと思って(笑)。そういう路線の作品も今後またやろうかなと思ってます。

―『ブラックアウト2022』も最高だったので、ぜひ続報に期待しています!

(取材・文/小山田裕哉 撮影/神田豊秀)

■渡辺信一郎(わたなべ・しんいちろう)1965年生まれ。アニメ監督、音楽プロデューサー。94年の『マクロスプラス』で監督デビュー(共同監督)。98年の『カウボーイビバップ』により国内外で高い評価を得る。監督作として他に『サムライチャンプルー』『坂道のアポロン』『スペース☆ダンディ』『残響のテロル』など。近年は音楽プロデューサーとしてアニメ音楽のプロデュースも手がける ○『ブレードランナー ブラックアウト2022』も収録される映画『ブレードランナー 2049』blu-ray・DVDが3月2日発売