外国人労働者の受け入れで、古賀茂明氏が注目する北海道の企業の人材登用策とは―?

少子高齢化が急速に進む日本において、不可欠になるだろう外国人労働者の存在。

その受け入れ方について、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が注目する北海道の企業の取り組みを紹介する!

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「アベノミクス」では日本は豊かにならない。安倍政権の5年間で、円安を追い風に企業収益は拡大したが、実質賃金は目減りし、国内消費は冷え込んだまま。株高も異次元の金融緩和で日銀が買い支えている側面が強く、GDPも伸び悩んでいる。

今こそ「アベノミクスを超える経済政策」を打ち出さなければならない。前回のコラムで予告したように、本連載では、今後何回かに分けてそのヒントを探っていきたいと思う。

今回のテーマは「移民政策」。少子高齢化が急速に進む日本において、労働人口の確保は喫緊(きっきん)の課題だ。安倍政権も2014年に「毎年20万人の移民受け入れを本格検討する」と発表したが、外国人労働者は、これから日本でより不可欠な存在になるのは間違いないだろう。

そんななか、私がひそかに注目している企業が北海道北部の士別(しべつ)市にある。市内の丘陵地で体験型農場を営む「かわにしの丘 しずお農場」だ。

ここの売りは267ha(ヘクタール)の広大な農場で育てる士別産サフォークラム肉だ。ハウス栽培にも力を入れており、高級フルーツトマトなどを生産出荷している。牧場内にはペンション、レストランが併設されていて、宿泊客は新鮮な羊肉やトマトをふんだんに使った料理を楽しめる。しずお農場は1次産業の生産、2次産業の製造加工、そして3次産業のサービス・販売をトータルで手がける、いわゆる「農業の6次産業化」を実践する地場の有望企業だ。

そして、しずお農場で何よりも注目すべきなのは、その人材登用策である。

地方の企業は都市部以上に若くて優秀な労働力の確保に苦しんでいる。それは、道北の人口2万人ほどの小さな自治体にある農場も例外ではなかった。経営者の今井裕さんによると、市の中心産業は農業と建設業であり、その従事者の平均年齢は55歳を超えているという。そこで今井さんが目をつけたのが、ベトナム人技能実習生だ。

ベトナム人実習生が重要な戦力に

労働力不足に悩む企業の要求を受け、政府は「外国人技能実習制度」をつくった。“日本の優れた技能を外国に伝える”という名目の下、海外から実習生を受け入れ、地方の中小工場や小規模農家などで働けるようにしたのだ(最長5年)。その数は現在、24万人を超える。

しかし、賃金の未払いや就労時間の規定違反、ハラスメントなどのトラブルが多発。ベトナムの管理団体によるピンハネや、ブローカーが実習生から100万円超のあっせん料を徴収していることも珍しくない。

だが、「しずお農場」は違った。今井さん自ら、ベトナムに赴き、実習生候補の試験・面接を行なった。給料のピンハネやあっせん料を取られることがないからと、応募が殺到。3人の募集に約150人が集まり、合格者は驚くほど優秀な若者だった。「日本語検定を取れば、給料アップ」といったインセンティブによって、彼らの日本語能力を磨き、自動車免許の取得なども会社が全面バックアップした。

現在、しずお農場で働く実習生は単なる労働力ではなく、企業の発展に欠かせない重要な戦力になっているという。その人材育成法とは何か? 来週は引き続き、しずお農場の奮闘を紹介したい。その上で安倍政権では実施できない、日本を成長させる「移民政策の神髄」について語ろうと思う。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中