1993年6月、当時リニューアルした「クールミント」「グリーンガム」のパッケージで、本社ビルを覆うというビルボード広告が大きな話題に!

子供の頃は友達と競い合うようにフーセンガムを膨らまし、今では仕事の合間のリフレッシュにミントガムを噛(か)む。そんな俺たちの長年の相棒、チューインガムの市場において、国内シェアの50%以上を占める“ガム界の巨人”、ロッテが今年で70周年!

そんなわけで今回は、ロッテとガムの70年の歴史をふり返っていきたい!

ロッテの中央研究所・副所長である関哲哉さん、ロッテは最初からガムのトップブランドだったんですか?

「いえいえ、戦後間もない1948年の創業当時は、すでに200社から300社のガムメーカーがあり、弊社は後発企業でした。ですが、参入したフーセンガムの分野でくじ付きの『ベースボールガム』などをヒットさせ、10年もたたないうちにフーセンガム市場のNo.1となったのです。

そして次に参入した板ガム市場でも、天然チクルという、中南米産常緑樹の樹液の大量確保にいち早く動き、ガムベース(ガムの基材)に配合することで噛み心地がよく、味の持続時間も長いガムの開発に成功。本場アメリカのガムで使われていた天然チクルを国産で初めて配合した板ガム、『バーブミントガム』を発売したんです」

ガムの本場アメリカで主流だった天然チクルを、国産ガムとして初採用(*生産終了) バーブミントガム(1954年)

そして「バーブミントガム」発売の同年、「スペアミントガム」も発売。天然チクル入りの板ガムで存在感を示したんですね!

「ですが、天然チクルだけですと歯につきやすく、ガムらしい食感にならないので、天然ゴムも配合するなどこだわっていましたね。味を気にする人は多いですが、噛み心地を気にする人はそこまでいないんですよ。けれど、そういう意識されていない部分にこそ、弊社のこだわりがあるんです。心地よい食感という点に、ここまでこだわっているメーカーはほかにはないと自負していますね」

こうして1957年、いよいよ超ロングセラーとなっている「グリーンガム」が登場します!

「『グリーンガム』は葉緑素(クロロフィル)を配合し、息をスッキリさせることで“お口のエチケットガム”として発売したところ、ビジネスシーンやデートシーン需要で大ヒットしました。3年後となる1960年には、こちらも今なお人気の高い『クールミントガム』を発売。“大人の辛口、南極のさわやかさ”というキャッチフレーズで、当時としてはかなり強烈なミント味にしており、口内だけでなく気分もすっきりリフレッシュできると人気を博しました」

こうしてロッテは、“天然チクルのロッテガム”というイメージを確立し、板ガムにおいてもNo.1メーカーの地位を盤石にしたのだ!

ペパーミントを加え“お口のエチケット”を実現。若者たちの間で大流行! グリーンガム(1957年)

ブラックブラックのミントは年々増加中!

■ブラックブラックのミントは年々増加中!

「グリーンガム」と「クールミントガム」、この二大巨頭はいずれもミント系ゆえに、やはりミントに対するこだわりはハンパではなさそうだ。

「もちろんです。ガムには大きく分けて3つの構成要素があります。まず先ほどご紹介した、噛み心地に直結するガムベース、砂糖やキシリトールといった糖分、そしてミントなどの香料です。香料のミントに関しては、世界各地からガムに最適なミントを調達してきていますが、ガムで一番多く使われているのはペパーミントです。『グリーンガム』や『クールミントガム』においてペパーミントの存在は必要不可欠ですから、毎年、弊社研究所のミント担当者が主産地であるアメリカに足を運んでいますよ」

わざわざ担当者が渡米しなくてはいけない理由は?

「ペパーミントは刈り取るタイミングが非常に難しいんです。ミントの花が咲く時季が、抽出する油が一番多いとされていますが、花が咲いてしばらくすると雑味が出てしまいます。ですから、花が咲く直前か直後に刈り取り、効率よく必要量を確保できるようにしているのです。アメリカに限らず、世界中のミント畑を実地調査していくつか候補地を挙げ、その年の天候などを踏まえてどの地域のミントにするか、厳選しているんですよ」

何げなく噛んでいるミントガムが、そんな研ぎ澄まされた選定眼があってこその毎年の安定供給だったとは。

南極のさわやかさをイメージした、ペパーミントの辛口な刺激が評判となる クールミントガム(1960年)

時は流れ1983年、「ブラックブラックガム」登場。インパクトがすごかったです。

「眠気をすっきりさせたいというニーズがあることがわかり、従来の“さわやかな清涼感がある”といった機能を際立たせて誕生したのが『ブラックブラックガム』でした。実は、樹脂を柔らかくするメントールの配合量が多いと、噛み応えが柔らかくなってしまいます。ですが、メントールを多く配合しつつも、ある程度の長い時間、噛み応えと清涼感を持続させなくてはならないので、開発時は苦労したと聞きます。ただ、それを実現できたことが弊社ならではの強みになっているともいえますね」

生みの苦しみが後のストロングポイントに! 「ブラックブラックガム」のミントの清涼感は驚きでした!

「それに関してはちょっと面白い話がありまして。今現在発売されている『クールミント』を食べても、そこまでとは思わないですよね。でも実は、今の『クールミント』の清涼感は、1983年当時の『ブラックブラックガム』よりも上なんですよ」

どういう意味でしょうか?

「年々ミントの量を少しずつ上げているということです。世の中のガムファンがどんどんミントの刺激に慣れてきてしまい、そのニーズに合わせるようにどんどんミント量を増やしているんですよ。発売当時に比べて『クールミント』もミントの清涼感は大幅に強化されていて、その結果、今の『クールミント』の清涼感は1983年当時の『ブラックブラックガム』を超えているだろう、と」

な、なんと、我々は知らぬ間に“ミントジャンキー”になっていたのか(笑)。

強力ミントにカフェインなどを配合。仕事中やドライブ中の眠気覚ましに ブラックブラック(1983年)

黒歴史だらけ? でもチャレンジング

■黒歴史だらけ? でもチャレンジング

ところでロッテといえば、「梅ガム」「ブルーベリーガム」といった新フレーバーのガムも数多く発売していましたよね。今でこそ当たり前の存在ですが、当時としてはかなり斬新だったはず。

「『ブルーベリーガム』は通称“うなぎ屋作戦”を狙った商品だったんです。うなぎ屋さんの前を通ると、香ばしい香りに引き寄せられるように、ついついうなぎが食べたくなりますよね。それと同じ効果を狙って、例えばエレベーター内で誰かが『ブルーベリーガム』を噛んでいれば、同乗した周りの人たちもついつい噛みたくなる……そんな効果を狙って、香りを拡散させることを意識して開発していましたね」

当時の日本人がまだ食べ慣れていなかったブルーベリーを取り入れた新定番! ブルーベリーガム(1982年)

それ以降も、1997年には現在のNo.1ヒットガムである「キシリトールガム」、2006年には「アクオ」、2009年には「フィッツ」と数年おきにヒット商品を世に送り出しています。

「ありがとうございます。ただその陰に隠れて、すぐに発売中止となった商品も山のようにあるんですよ(笑)。業界内には“千三つ(せんみつ)”という言葉があり、1千個の商品の中から3個、ヒットが生まれればよし、という意味なんです。われわれの理想は“百三つ(ひゃくみつ)”ですが、それでも9割以上の商品は成功とはいえずに消えていくわけで、それぐらい売れる商品を作るのは大変なんです(苦笑)」

ロッテでさえ実は黒歴史だらけだと!?

「黒歴史というわけではないんですけどね。一例ですが『花の蜜』『さきいかガム』『ふっくらこ』などはオリジナリティがあっていい商品だったと思うのですが、世の中の皆さんには浸透せず、すぐに生産中止になってしまいました。“香水ガム”という通称で女性向けに発売した『イブ』の狙いは悪くなかったと思います。

実際、2007年に『吐息もメイク』をコンセプトにした『グラマティックガム』を発売し、今も生産しています。また、発売はしていませんが、世界中の料理の味をガムで再現するというチャレンジをしていた時期があり、かなり奇抜なアイデアがたくさん出ていましたね。トムヤムクンガムの味の再現度は高かったですよ。また、牛丼味のガムを開発していたこともありました」

1997年に発売した「花の蜜」は文字通り、研究員たちが実際に花の蜜を研究してガムの味にしたという意欲作! だが発売期間は短かった(生産終了)

1980年発売の「さきいかガム」。さきいかの粉末を配合したチャレンジングな商品だったが、香りがリアルすぎるとのことで、初期ロットのみで生産終了

なんとチャレンジングな…。では最後に、今後の野望をお教えください!

「弊社は70年間、ガムを中心に噛むことで得られる健康についても研究してきており、2016年に『噛むこと研究室』を設立しました。これからも“噛む”ことの可能性を深掘りし続けていきたいですね。日々の生活の中のちょっとした楽しみでもあるガムなどのお菓子が、皆さまの健康につながるよう、引き続き開発努力していきます」

世の中があっと驚く革新的な新ガムの誕生、心待ちにしています!

これからはガムを食べるたびに、ひと噛みずつ、ロッテのドラマチックな70周年を噛み締めちゃう人が続出するのではないだろうか!

(取材・文/森井隆二郎、増田理穂子、昌谷大介[A4studio] 撮影/下城英悟 田中一矢)