汚職・腐敗官僚の粛清、軍改革による“陸軍偏重”からの脱却など、反対派を押し切って強権を振るってきた習近平国家主席。任期撤廃は独裁体制が完成した証なのか?

制度上は、死ぬまで最高権力者の座に居続けることも可能になった中国・習近平国家主席。日本メディアでは「独裁完成」といったニュアンスの報道も目立つ。

だが、その内情ははるかに複雑怪奇で、むしろ“新皇帝”の立場は砂上の楼閣(ろうかく)のように不安定だ。だからこそ、いずれ反対派や国民の不満のはけ口を「反日」に求めてくる可能性が高いという。

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江沢民(こう・たくみん)以降、中国では国家主席、共産党中央委員会総書記、中央軍事委員会主席の「三権」をひとりの指導者に集中させ、権力の分散を防いできた。このうち国家主席だけが唯一、任期が2期10年までと定められており、そのため中国の指導者は10年ごとに交代してきた。

習近平はその国家主席の任期を撤廃することで、毛沢東(もう・たくとう)以来の“終身皇帝”への道を開いたといわれているが、その狙いはどこにあるのか?

元防衛省情報分析官で、中国のインテリジェンス分析を専門とする軍事アナリストの上田篤盛(あつもり)氏はこう語る。

「昨年10月の第19回中国共産党大会では、『習近平思想』が党規約に明記されました。個人名が党規約に明記されるのは毛沢東、鄧小平(とう・しょうへい)以来のこと。今回の国家主席任期撤廃の件も含め、習主席による権力掌握が前進していることは間違いありません。

ただ、『一強体制確立』という雰囲気ではないと思います。なぜなら、毛沢東思想や鄧小平理論の明記は両者の歴史的偉業に裏づけられたものですが、今の習主席は汚職・腐敗問題への取り組みも、『一帯一路』の実現も道半ば。しかも、前任の胡錦濤(こ・きんとう)や前々任の江沢民がカリスマ性のある鄧の指名を受けて指導者となったのに対し、習主席には後ろ盾がない。だからこそ2012年の総書記就任以来、次々と新たな組織や制度をつくってはそのトップに就くなど、肩書というものに相当な執着を見せているのです。

では、なぜそこまでの権力誇示が必要なのか。習主席は、実は共産党一党支配の継続に危機感を持っている。最大の要因は汚職・腐敗問題ですが、ほかにも経済成長の減衰と格差の拡大、共産党への信奉心低下、民主化運動勃発の兆しなど、厳しい課題に直面しています。また、汚職・腐敗への過激な取り締まりに対する復讐を警戒し、退任できないという事情もあるかもしれません」

好き勝手に強権を振るうというより、こうした問題に取り組むには“皇帝”にならざるをえないということか。

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(取材協力/小峯隆生 世良光弘 写真/時事通信社)