活躍が期待される注目の新進作家・山岡ミヤさん

第41回すばる文学賞を受賞した『光点』は山岡ミヤさんの実質的なデビュー作となる。

中学卒業後、弁当工場で働く“わたし”実以子は、家では母親の言葉の暴力で追い詰められている。偶然出会った青年カムトもまた問題を抱えており、行き場のない者どうしの交流が静謐な言葉で描かれる。

人間の嗅覚や触覚まで丁寧に描写し、心象を描き出す繊細な作品で選考委員の奥泉光氏によると「たくらみのある」工夫が秘められているのが魅力と評された。その実験的な創作で描きたかったものとは? インタビュー前編に続き、今後も期待される著者本人にその真意をお聞きした。

―書く時に気をつけていることはありますか?

山岡 感覚だけで書くことはしないようにしています。「これを書いてみたら偶然こうなっちゃいました」っていうのはないかな。ヒラメキは最初のきっかけだけで、実際に書き進めていく時はすごくシビアな目が必要で、自分の中で疑ってかからなきゃいけない部分があるし。

―表現へのこだわりもすごいですよね。携帯を「冷たい電子の石」と表現したり、趣向が凝らされ詩情も感じました。こういった言葉は普段から創作ノートにメモっていたり?

山岡 そうですね。感動するものに出会ったり、逆にやりきれないことがあった時にパッと出てきた瞬間はメモします。メモがない時は持っている本のカバーの裏に書いたり、携帯で声を録音しながら歩いたり(笑)。すぐには言葉にならないことも多々ありますけど、その瞬間を頭のどこかに繋ぎ止めておくことができた言葉は、少し経っても再生できるところはあるのかなって。

―単語の修飾ひとつとっても細部まで凝っていますね。

山岡 自分が書く時は、一文でもないがしろにしないように気をつけながら書いています。でも全部に力が入っていると読みにくいので「ここは抜く、ここは締める」というのはいつも考えます。

―戦略的に構成を考えていると…。何か作家として目指す姿があってのこと?

山岡 ただ生きていく中で、何かから吸収したら次は何か生み出したい気持ちがどこかであるというか…。「感情や記憶が消える前に書きたい」という感じで、一番やりやすかったのがこの方法だったんです。もし作家になろうとしていたら「ここは読者が共感できないからやめよう」って、もっとわかりやすくなると思うんですけど…。

―確かにいわゆる「エンタメ」ではないですよね。

山岡 本当はもっとわかりやすくて広まるようなものにすればいいとは思うのですが、そんな考えを振り切って突っ込むところはあったと思います(笑)。

―細部までこだわりまくりで、仕上げるには時間がかかったのでは?

山岡 5ヵ月以内だったとは…初稿はもっと早くて2、3週間ぐらいかな。そこから5回まで推敲をかけて仕上げました。あまりかけすぎると全然違う話になってしまうし、人間もそうですけど整えすぎていると逆に魅力がないというか。いいところとイヤなところを両方持っていてこそ魅力的だから、あえて整えなかったところもあって。応募した時のままほとんど変わっていないんですよ。

デビューするかわからない状態で書いたから、実はたくさんの人に読まれるとも思っていなくて、作家前夜の“ゼロの状態”というか、自分の書きたいものをどうやって書くかとか実験や冒険が先に立っているんです。ただ、こんな世界が書けるのはこれで最後かもしれないから、絶対にあんまりいじらない!って決めて。

両極端な結論は持たずに、中立的な状態でいたい

―今しかできない純度100%のものを出したと。プロになったらいろいろ染まっちゃうかもしれないし(笑)。

山岡 そうなんです(笑)。いろんなものに縛られずにできれば理想ですけど。でも、もちろんこの作品以後で自分に何ができるのか、ドキドキしたり楽しみな部分はあります。今まで掴んだものは全部手放すぐらいのつもりで実験や試みをして、全然違う面相を出していきたい。次の次の作品はもうできてるんですよ。でもまだ次の作品ができてないから触れなくて…。

―次の作品の前に、その次の作品が!? アイデアはすでにたくさんあると?

山岡 結構、あります! だから迂闊(うかつ)に頭は振れないんですよね、こぼれちゃいそうで(笑)。興味があることって見るものすべてが面白いんで、これまでは興味がないことは全く触らずにきたんですけど、今書いている作品は題材的にも自分だったら絶対選ばなくて、ひとりの力じゃ書けなかったと思うんですけど。これからは編集者さんに聞くことができるからありがたいです!

―『光点』以降の新しい創作の試みが始まっているんですね!

山岡 そうなんです。これまで自由に書いていたところに他のレンズからの視点も入ると、次はもっといろんな人に読んでいただけるような、違う世界も書けると思っています。もしかしたら頭の構造も違うかもしれない。

―では、今後の豊富も聞かせてください。

山岡 男性も女性も読むからどちらかに寄るのではなく、ある種、中性的に書いていきたいという気持ちはあります。また、どちらかを悪いと決めつける両極端な結論は持たずに中立的な状態でいたい。例えば、神様を信じているのが善で、信じていないのは悪というような決めつけや先入観は持たないようにしたいですね。

人って「この工場で働いている人たちはみんな不幸で、お金がある人は幸せ」だとか「20代の女の人ってこうだよね」「男というのはこうである」とか決めつけられないと思います。あくまでもその人はその人であって、それを探って書き出すことで社会的な背景に通じる問題があぶり出されたりもするし。

次の作品は『光点』を読んでくださった方にも、知らない方にも読まれるようにしたいし、そこからまたもう一度、戻ってもらえたらすごく嬉しいです!

―次の作品も楽しみにしています!

(取材・文/明知真理子 撮影/小渕翔)

■山岡ミヤ(やまおか・みや)1985年神奈川県生まれ。法政大学社会学部卒業。2007年、「魚は水の中」で第24回織田作之助賞<青春賞>佳作(別名義)。2017年、『光点』で第41回すばる文学賞を受賞。2月5日に発売。