有力校、スター選手の動向が注目される春のセンバツ甲子園

球春到来! 今年の野球シーズンのスタートを切って「春の甲子園」こと第90回選抜高校野球大会(以下、センバツ)が3月23日に開幕する。

記念大会のため、例年よりも4校多い36校が出場する今大会は、今夏に第100回記念大会を控え、そのプロローグとしても有力校、スター選手の動向が注目されるところだ。

優勝争いの中心になるのは、今年も投打にプロ注目の逸材を揃えた大阪桐蔭。「史上最強」の呼び声も高い、この大本命が評判通りの強さでぶっちぎるか? 立ち塞がる伏兵が現れるのか? 

前回記事「大阪桐蔭は本当にセンバツで“史上最強”となるのか?」に続き、恒例企画、大会直前まで取材に余念のない現場記者の展望予想座談会を開催!

A:スポーツ紙アマチュア担当記者B:高校野球ライターC:高校野球専門誌編集者

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 「東の横綱」と評価されているのが東海大相模(神奈川)です。全国制覇を果たした15年夏以来の甲子園ですが、あの時は150km左腕の小笠原慎之介(中日)、右腕・吉田凌(オリックス)と二枚看板の投手力を前面に押し出したチームだったのに対し、今年のチームは高校通算44本塁打のスラッガー森下翔太外野手や、秋に今大会出場選手中最多の19本塁打を記録した渡辺健士郎内野手を中心にした打線の破壊力が持ち味です。

新チームのスタートから68試合で82本塁打。神奈川県予選決勝の慶応戦、関東大会初戦の作新学院戦と全国レベルのチームを2桁得点で一蹴していますからね。この打線は本物ですよ。

 エースの斎藤礼二が投げられていたら(県大会決勝で死球を受け骨折)おそらく関東大会も優勝していたでしょう。今、大阪桐蔭にガチンコの真っ向勝負を挑んで勝てる可能性のあるチームは全国でも5校あるかないか。その中の1校であることは間違いない。

 数字だけ見たら打撃のチームだけど、今の東海大相模はそれだけじゃない。守備や走塁など本当によく鍛えられているよ。今大会には出場していないが、神奈川でもうひとつ「東の横綱」と呼ばれる横浜が選手個々の能力では相模を上回っているけど、今年も大阪桐蔭に匹敵するほど能力の高い選手が揃った強力チームだったのに神奈川予選の準々決勝で伏兵の鎌倉学園に大敗し、関東大会出場すらできなかった。

どうも横浜は「名参謀」と呼ばれた小倉清一郎部長の退任後、年々、野球が粗くなっている印象がある。これに対して、相模は以前よりも堅実でしっかりとした野球をするようになっている。横浜が「強くても負けやすい」チームなのに対して、相模は「強くなくても負けにくい」チームなんだよ。

 東海大相模は日本一になった前年(16年)の夏、神奈川を圧倒的な強さで勝ち上がり、甲子園でも優勝候補と言われながら初戦で盛岡大付に惜敗しています。あのあたりから野球が変わったと僕は感じています。奇しくも、その夏の大会を制したのが大阪桐蔭でした。桐蔭もその頃から野球が変わってきた気がします。

10年前(08年)の夏、決勝戦で常葉菊川に17ー0と記録的な猛打で大勝し17年ぶりの優勝を飾った頃は打力が売り物のチームでした。それが優勝を重ねるたびに野球が緻密になってきています。そういう意味では、桐蔭と相模というのは同型のチームなんです。だから今大会で対戦することになれば、どちらが勝つにしてもハイレベルな試合になることは間違いないですよ。

若い世代にはない名物監督の「執念」

 東海大相模と同様、「打倒・大阪桐蔭」を明言しているのが智弁和歌山(和歌山)ですね。甲子園最多勝利記録を持つ高島仁監督、71歳、まだまだ元気です(笑)。90年代後半にはPL学園に替わって関西の盟主の座に就いた時期もありましたが、2000年夏の大会を最後にもう18年も日本一から遠ざかっていますから。ここ数年はやや低迷気味でしたし、今年に賭ける気持ちは強いでしょう。

 「甲子園では活躍してもその先で伸び悩む」というイメージができてしまって、以前ほど能力の高い選手が集まらなくなっていたと聞きます。何年か前に取材に行ったら、高島監督が「和歌山に子供の頃からウチ(智弁和歌山)に行くと言っとった怪物中学生がおって、あのコどうしたんやろ?思とったら、大阪桐蔭のユニフォーム着とったわ」と苦笑いしていましたよ(笑)。

ただ最近は西川遙輝(日本ハム)や岡田俊哉(中日)のようにプロでも実績を残す選手が出てきた。そしたらまた選手が集まりだしたようですね。主砲の林晃汰内野手、高校通算25本塁打の冨田泰生外野手、2年生の黒川史陽(ふみや)内野手らクリーンアップを打つ打者たちはかつての黄金時代の強力打線を思い起こさせる迫力ですよ。

 元々、高島監督が「打て打て」という大雑把な野球で日本一になってきた人で年齢的にもそれを変えることは難しい。昨年、春の近畿大会、夏の甲子園、秋の近畿大会と3季連続で大阪桐蔭に敗れたのも守備や走塁の粗さが敗因になっている。さすがに力だけでねじ伏せられるような相手じゃないからな。そのあたりの現実をどう捉えているのかだよ。

ただ、これだけ衒(てら)いもなく「今度こそ大阪桐蔭を倒す」と言い続けている。最近の若い世代の監督にはない「執念」があるからね。ここ数年でも指折りのポテンシャルのあるチームだけに大舞台で「4度目の正直」があるかもしれないぞ。

 西谷監督が最多勝利記録にヒタヒタと迫ってきていますからね(高島64勝、西谷44勝=歴代6位)。高島監督としては、ここらで叩いておきたいところでしょう(笑)。

 現在49勝の明徳義塾(高知)馬淵史郎監督も西谷監督の足音を聞きながら、実は自分もひそかに1位を狙ってるんじゃないか。この人も「松井秀喜5打席連続敬遠」に象徴されるように勝つことへの執念はハンパじゃないからな。

 優勝回数では智弁和歌山に劣りますが、明徳も90年代半ばから春夏の甲子園に連続出場を続け、悲願だった日本一も勝ち取った(02年夏)。いよいよ黄金時代到来かと思っていたら、不祥事をきっかけに低迷した時期もありました。そこから立て直して、最近はまた当時の勢いを取り戻しています。昨秋の明治神宮大会を初制覇し、気を良くして甲子園に乗り込んでくることでしょう。

個人的には馬淵監督の試合後インタビューでの本音トークが好きなんですよね。あのダミ声を聞くと甲子園に来た気がしますよ(笑)。

 今年のチームは市川悠太という絶対的なエースがいる。右のサイドハンドで見た目の凄さはないけど、変化球のキレが良いからそんなに連打されるイメージはない。昨秋の公式戦は明治神宮大会まで全部ひとりで投げ切ったが、やはり連投となれば多少、球威は落ちるもの。「打倒、大阪桐蔭」だけを考えたらトーナメントの早い段階で当たりたかっただろうな。

チームの総合力では見劣りするかもしれないが「真っ向勝負」というタイプじゃないだけに、何か奇策を仕掛けて大阪桐蔭を慌てさせたら勝機は出てくるんじゃないか。

プロが注目するイチロー級の打者とは

 東邦(愛知)も対戦したことのあるチームの監督が「強い」と口を揃えて言います。大阪桐蔭と同じように新チームのスタートから連勝街道で東海大会の決勝戦で静岡高校に敗れたのが唯一の敗戦。39連勝を含む44勝1敗(3引き分け)のチーム成績は大阪桐蔭を上回り、全出場校中最高の勝率です。東海大相模にも秋のオープン戦で1-0で勝っていますよ。

 東邦も東海のスター軍団ですからね。187cmの大型右腕エース・扇谷莉(おおぎや・らい)は今大会No.1との評判です。さらにミレニアム世代のひとつ下、1年生(新2年生)にはこの世代の中心となる可能性を持つタレントがふたりいます。

4番に座る石川昴弥(たかや)内野手はセンバツ切符を賭けた東海大会準決勝の三重高校戦、1点リードされた9回に起死回生の逆転2ランを右中間に叩き込み一躍脚光を浴びました。185cmの右のスラッガーは来年のドラ1候補ですね。また、1番を打つ左打者の熊田任洋(とうよう)遊撃手も昨秋の公式戦で.458の高打率を残しただけでなく、三振0というイチロー級のバットコントロールの良さにプロが注目しています。

 昨年の大阪桐蔭とよく似たチーム構成だよな。2年生が中心に入り、3年生が脇を固めるという。でも、その構成で大阪桐蔭はセンバツ優勝してる。東邦はセンバツ最多タイの4度優勝、歴代2位の通算51勝と元々、春に強いという定評があるし優勝候補の一角と見ていいだろう。

大阪桐蔭と東海大相模が東西の両横綱。智弁和歌山が西の張出横綱で、明徳義塾、東邦が大関というような番付になるかな。このあたりの顔ぶれが優勝争いの中心になってくるだろうな。

◆この対談の続き、その他のダ-クホースは明日配信予定!