今シーズンのJリーグの注目選手について語った宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第38回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、今シーズンのJリーグで注目する選手について。開幕から4節が終了して、予想とは異なる順位になっている中、特に注目しているのはどのチームのどのポジションなのか?

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Jリーグが開幕して4節が終了したけど、上位に来ると予想していたクラブが思わぬ苦戦をして、予想通りにいかないことも多くあるから面白い。開幕戦では昨年のリーグチャンピオンの川崎フロンターレが昇格組の湘南に引き分け。昨季2冠のセレッソ大阪も4節まで勝ち星がない。横浜F・マリノスは4節でやっと初勝利、アジア王者の浦和がまだ勝ち点2と、今季もまた混戦になりそうな気配が漂っている。

今シーズン、特に注目しているチームのひとつが浦和レッズだ。昨年はシーズン中にミハイロ・ペトロビッチ監督から堀孝史監督に指揮官交代がありながらもACLを制覇したが、リーグ戦は7位。今季はACLを戦えない悔しさをどう爆発させるのか。序盤でつまずいているが、リーグ戦はビッグクラブが上位にこないことには盛り上がらない。

一方、昇格組では、名古屋がさらに旋風を起こしてくれるかも楽しみだ。J2から昇格していきなり優勝争いをする可能性もあり、風間八宏監督のサッカーが今季のJ1を席巻しそうだ。

移籍金15億円とも言われているジョーが開幕戦で早速ゴールを決めたけど、今シーズンの名古屋にはJリーグ元年の頃の空気を感じる。あの当時はどこのチームも高いレベルの外国人選手を連れてきて、一気に日本人選手のレベルを引き上げた。そんな雰囲気が今年の名古屋にはある。チーム全体がジョーとガブリエル・シャビエルに引っ張られてレベルアップするんじゃないかな。

私自身、ジェフでリティことピエール・リトバルスキーのプレーをセンターバックの位置から見ながら成長できた。フリーキックで「そっちを狙うの?」とか、ダブルタッチの切れ味にはいつも驚かされた。

ジュビロ磐田のFWサルバトーレ・スキラッチの速さと巧さを防ぐために頭を使ったし、横浜フリューゲルスのエドゥーの左足のフリーキックは対戦してない時でもTVでチェックした。同じリーグに常人離れした武器を持っている外国人選手がいるのは、日本人選手のレベルをグッと引き上げるよね。

その点で神戸のルーカス・ポドルスキにはもっとやってもらいたい。彼のミドルレンジからのパンチ力のあるシュートは日本人選手にはないもの。ドイツ代表でもそうだったけど、周囲と連動して活きるタイプだから中盤でゲームを作れる選手がほしいね。前線には福岡からウェリントンを獲ったから、チームにフィットしたらポドルスキがもっと活かされるんじゃないかな。

新監督の下でスタートを切ったFC東京、ガンバ大阪、横浜F・マリノスは少し時間がかかりそうな気配だ。チームをガラッと変えるっていうのは、そう簡単ではないということ。サポーターは我慢が必要になるけれど、時間がかかるものだと腹をくくって長い目で見てほしい。

長谷川健太監督にはFC東京をもっと強くしてもらいたいと思っている。ただ、新たに獲ってきたディエゴ・オリベイラ、大森晃太郎、富樫敬真といったところが、去年からいる中盤の選手たちと今ひとつフィットしてない。期待の16歳、久保建英を途中出場で起用しているけれど、彼がどこまでやれるのかも楽しみだ。

本当の戦いは第5節から

Jリーグは日本代表のヨーロッパ遠征で2週間空く。勝ち点をうまく積み上げている上位チームは休みたくないところだけど、スタートダッシュに失敗したチームは修正が効くから、本当の戦いは第5節からといえる。

そうなると優勝候補と目される川崎やセレッソ大阪、柏レイソルが首位争いをする状況になってきそうだ。去年6位だったジュビロ磐田は序盤やや苦しんでいるが、名波浩監督の下でまとまっているし、上位陣の躓(つまず)きがあったらもしや…ということもありえる。

また、川崎やセレッソ大阪のようにセントラルMFにいい外国人選手がいるチームは長いシーズンで安定した戦いができる。中盤の守備はチームの軸だからね。そこがしっかりしているチームはなかなか崩れない。

王者の川崎には中盤にエドゥアルドネットと大島僚太がいて、森谷賢太郎も控えている。さらに、中村憲剛に家長昭博と周りにいい選手が多いから攻撃に厚みがある。

セレッソ大阪にはソウザと山口蛍がいる。運動量が多くて守備はガツガツいくし、ゴールへの意識も高い。しかも、去年はトップ下でブレイクした山村和也がボランチとしても以前よりも上達している。これはシーズン全体で考えたら大きい。

磐田にもムサエフという渋くていいMFがいる。川辺駿が広島にレンタルバックになったのは痛かったけど、名古屋から田口泰士が加入した。彼がチームに完全にフィットした時の磐田は楽しみだ。柏もキム・ボギョンという屈強なボランチがいて、大谷秀和というベテランもいる。さらに新潟から小泉慶を獲った。

ボランチやセントラルMFは消耗の激しいポジションだから、外国人に頼り切っていると彼らがケガした時のチーム力ダウンは大きい。そこのリスクヘッジをしながらチーム作りを進めているクラブが最後まで優勝争いをするんじゃないかな。今シーズンのJリーグは、特に中盤に注目してみると面白いはずだ。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。