異色対談が実現した、ピースの又吉直樹さんと紗倉まなちゃん

『週刊プレイボーイ』本誌でコラムを連載中の紗倉まなちゃんが「一番会いたい人」と常々口にしていたのが、2015年に小説『火花』で芥川賞を受賞したお笑いコンビ・ピース又吉直樹さんだ。

自身も小説『最低。』『凹凸』を書き下ろしており、作家としても活動中だが、そんな彼女が又吉さんにどうしても聞きたかったこととは?

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紗倉 千葉から上京したばかりの頃、なかなか東京を好きになれなくて、そんなときに又吉さんが東京のいろんな風景とともに心情を描く自伝的エッセイ『東京百景』に出会ったんです。読み進めるうちに「東京にもこういう美しい自然はあるんだ」って知ることができて、東京に対する認識が変わっていきました。ずっと大好きな本だったから、又吉さんにお会いできるのがうれしくて...今日はめっちゃ緊張しています。

又吉 ありがとうございます。あの本は地図にしたらだいぶ西に寄っているというか。高円寺や三鷹、下北沢とかあの辺ばかりで(笑)。

紗倉 中央線沿線や下北沢界隈(かいわい)に住んでいたこともあったので、又吉さんに勝手に親近感を抱いていました。芸人としての悲喜こもごもが描かれていましたが、そもそもどうして芸人になろうと?

又吉 小さい頃から吉本新喜劇やドリフのわちゃわちゃしたコントが好きだったんですよ。よく「あんまり笑わなさそう」って言われるんですけど、テレビでお笑い番組を見ていると、めっちゃ笑うんです。笑いが止まらなくなって、それこそ親が心配するくらいでしたから。

紗倉 ちょっと想像できない...。人格は今とあんまり変わっていないんですか?

又吉 根本は一緒だと思います。ただ、小4くらいまでは、面白い=明るいっていうのが僕の中にあって、無理して明るく振る舞っていました。でも、途中で「オレ、こんなタイプじゃないよな」って思い始め、段々としんどくなっていったんです。

今でも忘れもしない、何かの会で朝礼台の前にひとり出てきて踊りましょうっていう流れになって、みんなが「まったん、まったん(又吉さんの当時のアダ名)」ってコールするわけですよ。僕が出ていくだけで笑いが起こるんですけど、ほんまはすごいイヤで。

中学校に入ったとき、僕の小学校の出身者は少数派だったので、ここやって思って、誰ともしゃべらんようになりましたね。中学デビューの反対で、"中学引退"みたいな(笑)。ただ、芸人には憧れていて、その頃からネタを書き始めていました。

紗倉 芸人になる前、いつかは小説を書きたいっていう思いはあったんですか?

又吉 いや、正直なかったですね。もちろん、コントや漫才のネタ作りで、脚本とかは書いていましたけど。

人生で起こったことを表現するっていう欲求が強いのかな

紗倉 最初の創作はいつだったんですか?

又吉 小学校時代にあった「学童」っていう発表会のときかなぁ。赤ずきんちゃんの劇をやることになったんですけど、大阪の学校にもかかわらず、なぜかセリフが標準語。それがすごい恥ずかしくて、言い回しを関西弁にして全部書き直したんです。そうこうしているうちに、ほかのシーンも気になりだして。

赤ずきんちゃんがおばあちゃんの家に向かうシーンは、演劇にするとどうしても間延びしてしまうとか。そこで考えたのが、当時はやっていたCMソングを赤ずきんちゃんに歌わせて、同じ動きをさせること。これが観客の父兄さんたちにすごくウケたんですよ。あれはうれしかったなぁ。

紗倉 それが又吉さんの原体験になっているんですね。

又吉 当時は作文でもみんなを笑わせることしか考えていませんでした。作文のネタにするために、わざと遠足の弁当を忘れたりとか。

紗倉 手が込んでる!

又吉 その頃から、なんでもネタにしていました。例えば、中学生の頃、ヤンキーにボコボコに殴られているときも「さっきまで調子に乗ってたのに、ボコボコにしばかれてるやん。明日これを学校で言ったら絶対にウケるわ」って思う自分がいましたから。僕は、人生で起こったことを表現するっていう欲求が強いのかなって思いますね。

紗倉 小さい頃からその考え方に至っているのがスゴいですよね。私の小・中学生時代なんて、つらいことはつらいとしか思っていなかった。コラムで連載を持つようになって、日頃からネタ探しをするようになったというか、ようやく視点が変わり始めたんです。又吉さんは、昔から感受性が豊かだったんですね。

又吉 ただ、僕の場合は病気に近いですよ。初めて行く街のカフェに入って、店員さんがすごくキレイな女性だと憂鬱(ゆううつ)になるんですよ。普通だったらうれしいと思うんですが、僕はフラれたのと同じ気持ちになっちゃって。

紗倉 え、なんでですか?

又吉 このコにはこのコの人生があって、今オレが好きになっても、その人生に入っていかれへんのやっていう。それを想像すると、うわ~って悲しくなるんですよ。あと、知らん街でファミレスを見たときも、泣けますね。

紗倉 え、ファミレス?

又吉 この中で受験勉強しているヤツがおるんかな、初デートしているヤツがおるかも、中学生が4人くらいでハンバーグを食べているのかな、なんていろいろ考えていたら泣けてくるんです。

紗倉 妄想力スゴすぎます!

◆又吉さんが芥川賞を受賞したときの感想は? どうやって小説を書いているのか? この対談の続きは『週刊プレイボーイ』14号にてお読みいただけます!

紗倉まな(さくら・まな) 1993年3月23日生まれ、千葉県出身。身長160cm、B89 W58 H89。AV女優として活躍しているほか、バラエティ番組やニュース番組、ラジオ番組などでもマルチに活躍中。処女小説『最低。』(角川文庫)が映画化されるなど、作家としても才能を発揮している。

又吉直樹(またよし・なおき) 1980年6月2日生まれ、大阪府出身。2003年に綾部祐二とお笑いコンビ、ピースを結成。2015年、初の中編小説『火花』(文春文庫)で芥川賞を受賞。昨年5月に長編小説『劇場』(新潮社)を上梓。現在、『オイコノミア』(NHK Eテレ)などにレギュラー出演中。

(取材・文/高篠友一 撮影/山本雄生 ヘア&メイク/高橋将氣)